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中学生のスマートフォントラブル相談室~言語技術講師の日々~リテラ「考える」国語の教室 岡本ようすけ

生活に欠かせないスマートフォン。
子どもたちに持たせるのは心配、でも、持たせないわけにはいかない。
そんなお悩みをよく聞きます。

毎年、新年度の始まりには、スマートフォンの使い方や、SNS起こる友人関係のトラブルに関する相談が多く寄せられます。

「危険だから持たせない」「トラブルが起きたから取り上げる」といった極端な対応をせずにいるには、どのようにすればよいでしょうか。

言語技術講師が日々の中で考えたことをまとめました。

ぜひ、ご覧ください。

リテラ「考える」国語の教室 岡本ようすけ


■新中学1年生のスマートフォントラブル

入学して数日から夏休みまでの間に相談がよくあります

この時期、受験が終わったご褒美や、中学に進学したお祝いに、スマートフォンを買ってもらう子が増える。
特に中学生は、初めて自分のスマートフォンを手にする子も多い(NTTドコモ モバイル社会研究所、その他)。

ただ、受験後から中学1年生の夏休みまで、スマートフォンを用いたSNSに関連するトラブルを耳にすることが増える。

スタンプを連投してみたり、アンケート機能でクラスメイトの人気投票をしてしまったりといったわかりやすいものから、友達とのやりとりを切り上げられずに夜ふかししてしまうといったささやかなもの、また、クラスメイトの写真を勝手に投稿したり、匿名の第三者とやりとりをしたりするなど、重大な事件につながりかねないものまで、さまざまである。

この時期にSNS関連のトラブルが増えるのには、大きく二つの理由があるようだ。


■トラブルの理由

●その1 コミュニケーションの不慣れさ

活字でのコミュニケーションに慣れていないので起きるトラブル

最初の要因として挙げられるのが、テキストによるコミュニケーションに不慣れなことである。

通常のコミュニケーションは、言葉の意味内容による表現と、表情や声の調子などの、非言語的な表現が重なって成り立っている。
言葉は、状況や言い方で、意味を変える。

たとえば、会議に遅れた人が、上司に「今何時だと思っているんだ」と言われた時、言葉の意味通りにそのまま時刻を答えたら、余計に怒られることになる。

あるいは、「ごめんなさい」という一言でも、笑いながら言うのか、深刻な表情で言うのかによって、異なった意味合いになる。
テキストメッセージは、そうした非言語的な表現ができない。
そのため、表情や声音の代わりに、絵文字やスタンプを使うという文化が発達してきた。

しかし、リスクをのある言葉を使わず、絵文字やスタンプでニュアンスを伝えるといったことができるようになるには、自分の言葉を受け手の視点から考える能力が必要となる。

思春期は「自分がどう思われるか」に非常に敏感になる時期だが、その発達には個人差がある。
人一倍気にする子もいれば、まだうまく自分を表現できずに空気をかき乱してしまう子もいる。
ましてや多数が参加するグループでのチャットとなると、場の複雑さは飛躍的に増大する。

だからコミュニケーションに長けた子は、むしろ発言を控え、見ているだけということが多い。


●その2 新しい人間関係を構築しなければならないというストレス

リアルな友だちづくりにもスマートフォンが必要

もう一つの要因は、新学期特有の流動的な人間関係である。
新しい学校や新しい学期、子どもたちは新しい人間関係を構築しなければならないストレスにさらされる。

特に中高生はグループがとても大切になるが、自分がどのグループに属するかは、最初の数週間で決まってしまう。
何か言わないと取り残されてしまう、そうした焦りから、不用意な言動が増えてしまう傾向がある。

自分の存在感を高めたくて、スタンプを連投したり、ネット用語を多用したりする。
多くは無邪気なものだが、人それぞれ、面白さの基準が異なるため、ノリの違う人からは理解されないことが多い。

新学期は大人数が参加する「クラスLINE」が形成されることが多く、発言は瞬時に広がり、取り消すことができない。
第一印象はなかなか変えることができないことを考えると、そこでの行動がその後の人間関係に大きな影響を及ぼすことも十分考えられる。


■保護者の介入の難しさ

保護者が子どもたちのSNSの人間関係やネットの利用方法を把握する難しさ

SNSやインターネットで何らかのトラブルがあった時、保護者がすぐに介入することは難しい。

中学生では、トラブルがあったときに直接子どもから相談があったのは、27.3%にすぎず、コミュニケーションの中で違和感を覚えたり、学校などから連絡があったりして気づくことが多いという(東京都生活文化スポーツ局 令和4年度 家庭における青少年のスマートフォン等の利用等に関する調査)。
他の調査でも、トラブルが合ったときの対処法として、中学生の68.5%が、「がまんした」と回答しており、家族に相談したのは23.0%にすぎない(東京都教育庁 令和5年度「児童・生徒のインターネット利用状況調査」)。


●子どもの「してほしいこと」と親の「してあげていこと」のすれ違い

リアルな自分、ネット上の自分、どちらが本当の自分なのか悩んでしまう

思春期に入るまでは、子どもの「してほしいこと」と、親の「してあげたいこと」がかみ合っていた。

しかし、中学生になると、子どもの「してほしくないこと」と、親の「してあげたいこと」がぶつかるようになる。

子どもたちは、家族から友達へ、「自分」の軸足を移していく。
新しい自分をつくろうともがく中で、相対的に、自分の親を否定しようとする傾向が強まる。

特にLINEなどの仲間内のやりとりは、親は見ることができないし、見せてはくれないだろう。
何らかの方法でそれを見ようとしたり、やりとりを制限しようとしたら、強い反発となって戻ってくる。

また、たとえ垣間見ることができたとしても、そこでの人間関係は、私たち親が思うよりも複雑だ。
十代の子どもたちは、さまざまな自分を試す。
口調を変え、推しを換え、服装を変え、自分を模索していく。
文化的な影響を強く受ける十代前半は、メディアで目にするさまざまなキャラを真似る。

特にインターネットは、今や現実と重なるもう一つのコミュニティとなっている。
同じ人間と向き合っていても、リアルのアイデンティティとネット上のアイデンティティにはずれがあり、現実では親友同士と認め合っていても、裏アカでは人間不信に陥っていたりする。
インターネットは相矛盾するキャラを両立可能なものにしており、自分自身でさえどちらが本音なのか、どうしたいのか、わからなくなっている子も多い。


■家庭の役割とは

学校やネットの世界とはちがう、家庭という安全基地

ただ、インターネットというもう一つの現実に複雑にからめ取られてしまい、自分でもどうにもならなくなってしまった時、その糸を無造作に、無遠慮に断ち切ってくれるのも、家庭である。

軸足は家の外にあり、親を否定する言動が増えたとしても、それは家という確かな現実があって、初めてできることである。

自立は、突き放すことではなく、正しく甘えられることから生まれる。
外の世界で傷ついたり、悲しいことがあったりした時に、悪態をつきながらも戻ってこられる場所として、家庭が果たす役割というのは、まだまだ大きい。


●中学生に必要な心のエネルギー

中学生の家でのダラダラは心のエネルギー補給

中学生の親御さんから、家ではずっとダラダラしているという話をよく伺う。
勉強もせず、手伝いもせず、寝転がってYoutubeを見ている姿は、確かにやるべきことをせずに怠けているように見える。

しかし、それは、学校や友達関係で使い果たしたエネルギーを何とか回復させようとしている姿でもある。
映画を見たり、運動をしたりと、より積極的な回復のさせ方もあるだろうが、それでも週に1日くらいは、心身をぐったりと休ませる時間が必要なのは、大人も子どもも同じだ。

特に思春期を迎えた中高生にとって、心のエネルギーの回復は、学校生活を生き抜く上で重要な課題である。
テストのプレッシャーや人間関係のストレスの中で自分がわからなくなってしまうことがあっても、少なくとも家では、自分が自分に戻れる。
何も考えずにダラダラできる。
そうした場所であるためには、家は、安定した現実である必要がある。


●居場所を求めて彷徨う子どもたち

「なにかあったら言ってほしい」保護者の気持ちが子どもたちの居場所になる

学校にも、家庭にも、自分の居場所がないと感じた時、子どもたちは、ネットの深部に足を踏み入れてしまう。
合ったことのない人のメッセージにリアリティを見出し、そこにつながろうとする。
しかし、そこは周囲の目の届かない、危うい世界である。

家が安定した現実である、というのは、自分が一人の個性のある人間として扱われている、ということである。

しかし、親も子も、それがなかなか難しい。
思春期は、自立に向けて、まさにその「個人」になろうともがいている最中であり、日々、距離感が変わる。
とても素直に話してくれた次の日は、口を閉ざして反抗したりする。親も人間だから、混乱もするし、苛立ちもする。

ただ、直接のコミュニケーションがうまく成り立たなくても、安心できる、食べるものがある、気にかけてくれている人がいる、それだけで、多くの子はエネルギーを回復させることができるように思う。

そしてふと、ある時、悩みを打ち明けてくれるかもしれない。
その時は、できるだけ、悩みながら生きる人間同士として、向き合っていただければと思う。

この記事を書いたのは

【プロフィール】
2012年より、北千住で、幼稚園生から社会人までを対象とした文章技術や国語・作文の教室を運営。
心理学・教育学の知見をベースに、「読む・書く・考える・対話する」という言葉の領域にアプローチする教育メソッドを日々模索・実践している。
幼少期より読むことや書くことが好きで、日本大学芸術学部在学中に第1回江古田文学賞を受賞。
卒業後、都内の有名作文教室に入社し、運営に携わるも、「〇〇式」といった狭いノウハウに押し込める教育に疑問を持ち、独立。
言葉が、世界の捉え方や考え方、人生の物語を形づくるという視点から、既存の教育メソッドを越えた、より普遍的な教育モデルの構築を目指すと同時に、一人ひとりの個性や価値観を育む、対話による指導を行っている。
生徒それぞれが、それぞれの人生の物語を歩める人になってほしいと願っている。

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