見出し画像

中学受験を終えて心に残ったエピソード 「物語が辛くて読めない」Sくんの悩み

今年の中学受験が幕を閉じようとしています。

リテラの受験生さんたちも受験を終え、それぞれ心に決めた進路を歩み始めました。

思春期の入り口での得たこの貴重な体験が、10年、20年先、人生で迷った時、悩んだ時、自信を失った時に、支えてくれるようなものになってほしい。

毎年、そう願いながら受験生を応援し続けてきました。

さて、私が今回の受験指導で心に残ったエピソードをご紹介いたします。

昨年の夏休み頃、ある生徒さんからの「物語が辛くて読めない」という相談がありました。

娘さん、息子さん、あるいは生徒からこんな相談があったら、どのように答えますか?

それでは、ぜひ、ご覧ください。



「この前の模試で国語、できませんでした。」

小学6年生のS君は、中学受験を半年後に控えている。

このところ成績も安定していたので、この言葉にドキリとしてしまった。

論説文で知らないことが出てつまずいたのか?
それとも、女の子が主人公の物語で気持ちがよくわからなかったのか?

Sくんに理由をたずねてみると、意外な答えが返ってきた。

「物語の内容が辛すぎて、読んでて気持ちが沈んでしまって、問題を解くことができませんでした。」

家族問題がテーマとなったお話で、夫婦間のいざこざを傍観している子どもの姿が描かれていたそうだ。

「家族が傷つけあっているのを読んでいると、なんだか自分も苦しくなってきて。」

S君は、心の機微を捉えるのが上手な、少し大人びた雰囲気の子だ。

「中学受験の本番で、こんな風に辛い物語が出てきたらどうしたらいいでしょうか。

お母さんに相談したら、他人のことだと思って気にしないで読めばいいよって言っていたけれど、なんか違う気がして。

というか、そんな風には読めなくて。

気持ちが勝手に入り込んでいってしまうから。

でも、また国語の試験中に辛くなって、問題が解けなくなるのも困るので。」

国語の力を伸ばすことは簡単ではない。

子どもたちの心の成長を待たなければならない。

そして、思春期を迎えたSくんの心は順調に成長をしている。

しかし、急激に伸びた力の使い方が分からず戸惑っているのだ。

国語の指導は奥が深い。

「先生も、小説を読んだり、映画を見た時、争いや残酷なシーンは見ていて辛い。

辛い思いをしたくなければ、見ないというのもありだと思う。

でも、先生はやっぱり見たいかな。

理由は、痛みのある物語の先に伝えたい大切なことがあると思うから。

また辛い物語と出会ってしまった時は、作者が、痛みを乗り越えてでも伝えたいことは何か、と一歩踏み込んで考えてみてはどうかな?

子どもたちに「痛みのある読書」をしてほしい。

それは、いつか大人になって、本当の痛みに出会った時、それを乗り越えられる人になってほしいからだ。

温かく安心できる場所にいられる子どものうちに、心の中に広がる物語の世界で痛みを学び、優しい心を育んで欲しい。

そして、どう生きていきたいか、考えて欲しい。

目を閉じ、深く長く息を吐くSくん。

力強い視線を向けて一言。
「やってみます。」

この世界で一緒に生きていきたい。

そう思える仲間が、また一人、現れた瞬間だった。



この記事が参加している募集

受験体験記

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?