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「僕らのごはんは明日で待ってる」

こんばんは、皆様今日も1日お疲れ様でした。
気がつけば終わってしまったのかと、秋のあまりにさっぱりとした去り方に恨めしささえ感じていた11月半ば、かと思えば最後に秋の鮮やかさを存分に楽しめるような気候と共に、少し帰ってきてくれたようなここ数日間ですね。

今日は「僕らのごはんは明日で待ってる」という作品をご紹介します。

主人公は18歳の男子高校生「イエス」もとい「葉山くん」とクラスメイト「上村」
葉山は、中学3年生の頃、兄を病気で突然亡くしている。
高校三年生になり、彼にとって兄が「最愛」の存在であったことがやっとわかってきたところだ。うん、確かに今更なのだが、実際「死」とはそういうものなのだから仕方ない。兄の余命を意識してから必死に毎日を生きた分、兄の死後には、まるで脱皮した皮のように、彼の姿を模った抜け殻のように毎日を過ごしていた。もちろん彼自身はそんな自覚はないのだが、早すぎる兄の死を経て彼の中の「希望」や「未来」に照らされる明るい部分は、すっと消え去ってしまったのだった。

クラスメイツから見た彼は「謎」そのもので、席に座っていてもいつも遠くを見つめ黄昏るか、「人が死ぬ」小説ばかり読んでいる、静寂な空気に囲われた青年だった。

そんなある日、体育祭の「米俵ジャンプ競走」に人数合わせで選ばれた彼のペアの相手が、「上村」だった。
上村は、葉山くんの前では「すなお」そのものだった。つまり彼とは真逆で、常に感覚に嘘をつかないといった様子。
思いやり、同情といった概念が彼女には欠けているのかも怪しいほどに、暗い霧に覆われた葉山のテリトリーへと土足でずけずけと踏み込んでくる彼女のおかげで、彼はだんだんと、朝日に照らされてやってくる「明日」を取り戻していく。

そんな2人の20代を4部作に込めたのがこの作品。

大学生になり、卵の薄皮を破り始める葉山。
初めての「友達」「恋人」「自分探しのタイツアー」「おばさんとの恋バナ」など
人と関わることを拒絶しなくなっただけなのに、彼の世界はどんどんと色づいてゆく。

高校卒業後も、よく2人で会うものの、ケンタッキーばかり食べているような曖昧な関係を続けていた上原は、保育士になり少し経った頃突然は山に別れを告げる。

自分を明日へと導いてくれた上原、葉山は彼女のことならなんでも知っている自信があった。ことあるごとに上原バージョンなら、なんでも鮮明に想像できた。
だが、本当は、彼女は自分の周りに広めのバリアを張ることで「彼女を取り巻く現実」を決して周りに覗かせない少女だったのだ。

ゾウからおばさんまで、本当にいろんなものと関わる中で、本当に自分にとって大切な人と生きる道を模索していく葉山の姿に、何か大きな勇気をもらった気がする。

一冊を読み終え、私が今、どれほど人と関わることを恐れ、避けているのかに気付かされた。
人と関わると、いろんな関係が生まれ、感情が芽生え、胸が痛み、涙が出る。
誰かと関わることは、一筋縄ではいかないのだが、やっぱり誰かと関わることで人の人生は動かされてゆくのだ、と思う。


気に掛かっていたあの人に、小さじいっぱいの勇気を出して向き合おうと動き出したくなるような一冊です。


たくさん傷ついたあなたに、是非読んでいただきたいです。


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