僕と「ウルトラマン誕生」 〜鬼才・実相寺昭雄のアナザーサイドに惹かれて〜

26歳になりました。Kトレです。

8月後半。目ぼしい新商品も「超合金ドルギラン」が届くまで無く、少し書く物に迷っていましたが、
せっかくなので思い出の特撮本の話でもしようかと思います。
Noteで紙の書籍の話なんて矛盾しているかもしれませんが。
夏だもんげ。
読書感想文の一つや二つなど屁もない事なのだ!

今回取り上げるのは、円谷特撮の鬼才・実相寺昭雄監督が亡くなる少し前に発表した著書「ウルトラマン誕生」(ちくま文庫)です。

・1966より愛をこめて 

「ウルトラマン誕生」は、実相寺監督がかつて筑摩書房から発表した「ウルトラマンのできるまで(1988年刊)」と、「ウルトラマンに夢見た男たち(1990年刊)」を、2006年の文庫化にあたって一冊にまとめたものだ。(因みにタイトルは実相寺監督が、1966年7月10日に放送された「ウルトラマン誕生(ウルトラマン前夜祭)」のスタッフだった事にも掛けてるようだ。)
前者は主に「ウルトラマン」で実相寺昭雄×佐々木守(脚本)のコンビが担当した6本を中心に、"特撮=特殊撮影技術"の視点から制作現場に迫った覚え書きのような内容。挿絵は当時まだ一介の特殊美術スタッフだった樋口真嗣監督によるもので、独特だがファンのツボをつくタッチは、「シン・ウルトラマン」等における氏の画作りに通じるものがあるかもしれない。
後者は実相寺監督が聞き手となり、高野宏一監督、冬木透氏、そして盟友池谷仙克氏など、監督言うところの"円谷梁山泊"に集った才能の仕事術に迫る対談集のような内容だ。挿絵は漫画家の加藤礼次朗氏。若いファンにも「ウルトラマンタイガ」のギガデロスのデザイナーと言えば通じるか。こちらはプロ作家らしいリアルタッチなイラストで当時の円谷プロや撮影スタジオの空気感を巧みに表現している。
両章について実相寺監督は、

自分でいうのも滑稽だが、"誕生"をささえた人たちのこころ意気が、自分もふくめて、濃密に匂っているのである。

まえがきより

としているが、
そこに記されていたのは想像とは少し違う夢とロマンの世界だった。

・仕事人・実相寺昭雄

本書の最大の特徴は、「ウルトラマンに対する実相寺昭雄のスタンス」に尽きると思う。

「駄々っ子シーボーズ」も監督は不本意だったというが…?

実相寺監督の著書として有名な「闇への憧れ(1977年刊)」において、監督は自身が手がけた特撮作品(あくまで自身の担当回)、特に特撮演出について非常に辛辣な文章を残した。例えばウルトラセブン第44話「第四惑星の悪夢」については…

第四惑星のロケット基地を見た時、私はびっくりした。そこにはきちんとデザインされたロケットの作りものがなく、ただ注射器、浣腸器の類いが立てられていた。フル・ショットはこれで充分、という特撮スタッフのあきれた思い上がりだった。
子供をナメちゃいけない。予算の故だと弁解していたが、イメエジの貧困に過ぎなかった。

だがそこから年月を経た「ウルトラマンのできるまで」では少々異なり、寧ろスタッフの努力を、幾らか肯定的な視点で淡々と述べる場面が目立つ。
先のくだりに関しても次のように述べられている。

ぼくのこの作品でも、第四惑星の地球侵攻ロケット基地には、注射器が林立していたのである。
(中略)当時、ぼくはオリジナルなデザインもせずに、見立てだけでつくろうとする姿勢に腹を立てたこともあったが、むしろ、ぼくが幼稚だったのだ。

肝心な予算やスケジュールの部分に触れていないとは言え、ここまでくれば両者の意見は別人もいいところだ。この心変わりは監督の本心からのものだったのか、今となっては確かめる術はない。
(敢えて言えば、本書は「セブン」第12話についてただの一言も触れられていないので、好き放題書いた訳じゃないのは確かだ。)
だがこの本を手にした時、私自身はそんな実相寺監督の文章に「コレがあの異色作ばかり作ってきた実相寺監督の本音なのか?」「なんて真っ直ぐに特撮を作った人なんだろう」と衝撃を受けた。
正直もっとヒネた文体で、スタッフに対する文句が続く物とばかり思ってたのに、開いてみれば「おやじさん(円谷英二)の熱意が…」「(円谷)一さんはロマンチックな人で…」と、想像力を膨らませ、創意工夫で情熱を燃やすスタッフの姿を伝えているのだ。
「ウルトラマンに夢見た〜」でも、実相寺監督はこれが大人の対応だと言わんばかりに語り部たちの言葉に大きく頷く立場に徹している。その姿はスタッフでも批評家でもなくいちファンのようだ。そのせいか、技術的な内容もスッと入ってくるのだ。
高野監督が語るローアングルと東宝ビルトのタッパ(屋根の高さ)の話、冬木氏が語る「ウルトラセブンのうた」誕生秘話、池谷氏が語る「シルバー仮面」スーツの秘密…そのどれもが純粋に、「スゴい!」「なるほど!」と感心させられる不思議な暖かさが本書にはあると思う。
今でも強烈に印象に残ってるのが、この例えだ。

(ウルトラマンの)監督のローテーションは、ベンチ入りするピッチャーの使い分けに似ている。
エース格の(円谷)一さんをふくめて、飯島(敏宏)さん、野長瀬(三摩地)さんの三本柱。抑えの切り札として満田(かずほ)さん。新進の鈴木(俊継)さんに、技巧派の樋口(祐三)さん。そしてぼく(実相寺監督)はローテーションの谷間で起用され、変化球を投げた、というような感じだ。

()は引用者注

自分が一番最初に見るウルトラマンとして初代を推し続ける理由…圧倒的バラエティ性を端的に表現している。

・怪獣倉庫防衛指令

もうひとつの見どころは、亡くなる数ヶ月前の実相寺監督が見た"円谷プロの今"である。

現在の円谷プロ砧社屋跡

「ウルトラマン誕生」には新たに書き下ろしのあとがきが追加されており、監督が「ウルトラマンマックス」に参加した頃の円谷プロの様子にも触れているのだ。
かの問題作「ウルトラマンが泣いている」に詳しい通り、当時の円谷プロは新作を作りながらも経営の健全化を模索していた混乱期に当たる。その一環として本社が創業の地である砧から八幡山に移転された。旧社屋は取り壊される筈だったが、円谷一夫氏らの呼びかけもあって、編集やCG班が常駐する「砧社屋」として残った。
実相寺監督はかの「トキワ荘」を引き合いに出しつつ、この社屋を残す事の意味を訴えている。

(前略)将来の円谷博物館という夢も内包させつつ、現実的に編集室や試写室などの入る場所として使って行く方向に決めたのは一夫会長の努力であった。
この建物が失われれば、円谷を取り巻いていた"気"も失せる、と思っていたわたしはとりあえずの保存を、一夫さんに祝福した。飯島監督も同じ気持だろう。

文体こそ柔らかいが、文章全体からは監督のやり場のない憤りのようなものも感じられた。
結局監督が亡くなって約1年後、円谷プロはTYOの傘下で大幅な会社再編に入り、砧社屋は一族経営の悪しきレガシーと言われんばかりに取り壊されてしまった。
それを知っているだけに、どうしようもないもどかしさにも駆られるあとがきでもある。
円谷博物館の夢は形を変え、樋口監督らの「須賀川特撮アーカイブセンター」等に受け継がれている。その様子を、果たして実相寺監督はどう見つめているだろうか?

・私の中のギンガと「ウルトラマン誕生」

楽しい作品でした。

「ウルトラマン誕生」は現在でも定期的に増刷がかかっているようだ。先日もライブを観に行った海老名駅近くの書店で見かけたが、これは第九刷だった。
私が本書を手にしたのは2014年、夏休みの宿題の題材になった「方丈記」と一緒に買ったのを覚えてる。
当時の最新作だった「ウルトラマンギンガS」は毎週楽しみにしてたし、主題歌「英雄の詩」のシングルCDも待ち遠しかった。そんな時に…今思えば敢えて実相寺監督の本を手にしたのかもしれない。
自分にとって、本書に綴られた実相寺監督のウルトラ愛は、「それでいいんだ」と心を救われたような感覚にしてくれた。
そういう意味では、自分の趣味生活に大きなウエイトを占める一冊である。

もしこれから、シリーズの原点としての「ウルトラマン」(というか第一期ウルトラシリーズ)を知りたい、学びたいと思う人に、私は自信を持って本書を薦めたい。
もちろん技術的な部分の分かりやすさもあるが、
特撮ヒーローの原点、夢見る心が詰まっているからだ。
それを"あの"実相寺昭雄の名前で遺してくれた意味も含めて、味わって欲しい限りだ。

書いていると、実相寺監督が筑摩書房から出版したもう一つの著書「ウルトラマンの東京」も欲しくなってきた。
こちらは母校S大学の書庫で2回ぐらい借りたきりだが、東京に点在するウルトラマンのロケ地や撮影所跡の思い出を実相寺監督が辿る内容である。
そう、自分をロケ地に目覚めさせた一冊かもしれない。
安く手に入れたいなぁ…!

ではでは。


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