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パリジェヌの恋模様ーたかし編ー(全4話 第4話)

今日も、パリジェンヌは平和な時間が流れてる・・はずだった。

時間がゆったりと流れていた午後の3時。珍しく20代後半の男女がお店に入ってきた。

2人は窓際の席に座って、ブレンドコーヒーとカフェラテ、ショートケーキとチョコレートケーキを頼んだ。

『今日は珍しいお客さんだな。』

浩二はそう思いながら、注文を受け準備を始めた。

不思議に思って気にはしつつ、珈琲豆を挽いている。

「たかしくん、今日は会ってくれてありがとう。」

「ううん。僕こそありがとね。まさか、優子ちゃんと会えるなんて思ってもいなかったから。」

たかしと優子は、出会い系サイトでマッチングが成功して、何度も連絡を取り合い、今日初めて会う2人だった。

たかしは女性と2人で会うことが慣れていないのか、それともマッチングアプリで会うことに対して慣れていないのか、どことなく緊張しているのに対し、優子はどちらかというと手慣れている感がぬぐえない。

『この子は、結構、出会い系サイトでいろんな男と出会っているのだろうか?』

たかしは口に出すことはしなかったが、頭のどこかでは少し思っていた。

「けど、こんなお店よく知ってたね。」

「うん、友達の家がこの近くでたまにここ通ってたんだよね。前々から気になってたし、なによりゆっくりたかしくんと話が出来るかなって思って。」

と優子が返答した。

そして、2人はお互いの好きなことや休日にやっていること等、たくさん話していた時のこと。優子からこんなことを言われた。

「今って、やりたいことたくさんあるけど、お金ってなかなか追いつくことってなくない?」

「まぁ、今の給料だけだと確かにそれはあるかもね。」

「たかしくんって、副業とかに興味ある?」

優子がいきなりそんなことを言い出した。

なぜそんなことを急に言い出したのだろうとたかしは気になったが、

「副業ってどんな?」

と聞いてみることにした。

途端に、優子は目を輝かせて、

「実は、商品を紹介して紹介料で稼ぐ副業をやってるんだけど、めっちゃ稼げてるんだよ。」

といってきたのだ。

「それって、なんていうの副業なの?」

とたかしが踏み込んで、話を聞いてみるとどうやら『メルメルキー』という美容会社でサプリメントや化粧品を売っている会社が、ネットワークビジネスという仕組みで商品を販売しているらしいとのこと。そして、自分が販売して購入し、自分の下にダウンラインというものに入ってもらうと、自分よりも上の人にマージンが入るのだそう。

相手は商品を安く買えるし、自分はキャッシュバックでお金が入るから、双方Win-Winだよねというのが優子の言い分だった。でも、これをやる為には友達や親せきなど自分の周りの人達に声をかけないといけないのだという。

優子はしきりに

「3人誘って自分の下にいてもらえばいいんだから。」

と言ってくるが、たかしはあまり気乗りはしていなかった。

「けど、毎月、絶対に買わなきゃいけない金額とかあるんじゃない?それに俺、男だし悪いけど、やる気はしないよ。」

「まぁ、確かに毎月2万円は絶対にかかるけど、男性だってやってるし女性だけの商品じゃないよ!」

「でも、俺の周りはサプリメントを飲む人なんていないし、化粧水とか乳液とかも使うようなやつとつるんでないから、そう言ったものは本当に興味がないんだ。」

とたかしは誰の目から見ても断っているのに対し、優子はなかなか引き下がらあない。

しかも、ここぞとばかりに

「たかしくん、今日、私と出会えたことって本当にすごいことなんだよ。だって、メルメルキーをやることによって、権利収入を得ることが出来るし、会社に縛られることもないって最高じゃん!」

と言い放ったのだ。たかしも困ったように、

「いや・・・でも。」

と断りたいのに、どうやって分かってもらえるのか悩んでいるようだった。

そこへ

「お水のおかわりはいかがですか?」

と浩二が割り込んできた。

2人とも

「大丈夫です。」

と断ると、

「すみません。ちょっとだけ、お話がチラチラと聞こえて来ちゃったんですけど、ご商売のお話されていたんですか?」

浩二が話に入ってきた。

「商売っていうか、まぁ、そう言われたらそうですけど。」

「相手の男の子はお困りな感じに見えるんですけど、僕ね、2人が入ってきたとき彼氏と彼女かと思ったの。それか、まだ出会って間もない友達以上恋人未満的なそんな感じ。でも、途中から全然違うし、お仕事の話をされているうえになんとなく。なんとなくですよ。彼、勧誘されて困っているような感じに見えたから、これって上手くいくのかなって第三者から見て思っちゃったんだよね。」

そう浩二が言うと、優子は

「は?何言ってるんですか?私は彼のために言っているだけですし、あなたには何にも関係ありませんよね?」

と睨みつけた目で浩二を見る。

「こんなに困っているのに彼の為なの?それとも、相手の状況を気づけないタイプなのかな?とりあえず、相手が断っているのに無理やり何かをさせようとするのって、違反なんだよね。えーっと・・・メルメルキーって会社なんだ。」

と浩二は会社名を確認し、パシャっとスマホで優子の写真を1枚撮った。

「なにするんですか!?」

「ごめんね。これ、メルメルキーって会社に連絡するときに使わせてもらうから。おたくの商品購入している子が違法な販売しているって伝えないといけないから。」

「は?余計なことしてんじゃねーよ!じじい!警察呼ぶよ!」

「ホントに!じゃあ、呼んでもらおうかな。僕の手間が省けるし。きちんと話をしたら、警察に話を聞くために連れていかれるのはあなただし、僕のいうこと信用していないみたいだから、連れていかれることで僕のこと信用してもらえるし。早く110番してほしい。」

そう言うと、優子は何も言えなくなってしまったのか、

「マジ、意味分かんねーし!」

と言って、パリジェンヌを出ていこうとした。

「おーい!待て待て。代金支払ってないよ?」

「は?あいつが支払うから。私に請求しないで。」

「それは無理だよ。だって、2人は友達でしょ?付き合ってたらワンチャンそれもありだけど、そうでないのに支払わせるってないでしょ。しかも、カモられたの実感して嫌な思いされてるの上に、お金払わされるって悲惨よね。」

そう浩二が言ったら、

「ったく、うるせーな!」

と優子は¥1000だけおいて店内を出た。

「今どきの女の子ってホントすごいねー。空気読める子少ないのかな?」

浩二は置いていった¥1000をレジの中に入れる。

たかしのほうはというとこのやり取りを見て、茫然としている。

「びっくりしちゃったよね。まさか、出会い系サイトであんな子と知り合うなんてね。けど結構、出会い系ってああいうのばっからしいから、やるのはいいけど気を付けてね。」

浩二はそう言いながら、優子が座っていたところのケーキとカフェラテを下げてキッチンに戻る。

「あの、お騒がせしてしまってすみません。」

「いいの、いいの。僕も出しゃばったことしてごめんね。どうも見てられたなかったから。君、名前は?」

「たかしです。」

「年齢は?」

「今年26です。」

「そうなんだ。出会い系サイトで会ったってことは、今、彼女探してるんだ。」

浩二は聞きながら、

「君の分のケーキとコーヒー、カウンターに持ってきちゃいなよ。あそこに一人はさびしくない?」

とたかしを促した。

たかしはそのままカウンター席に移動する。

すると、浩二はオレンジジュースをたかしの目の前に置いた。

「あの、これ・・・。」

「いいの、いいの。でしゃばっちゃったお詫び。飲んで。」

「ありがとうございます。俺、1年ぐらい前に彼女と別れちゃって。優しすぎるのが逆に刺激がなくてつまんないって言われて振られたんです。」

「そうなんだ。その子も見る目ないね。結婚したら、優しい男は魅力に変わるのに。」

「そうなんですか?俺、ようやく彼女ほしいと思って、でも自然に出会えそうになかったから、出会い系サイトを使ってみようと思って。今日、初めてマッチングした子と出会えたのに。」

「勧誘だったんだ。」

「はい・・・。」

そう言うとたかしは、体を丸めて相当、落ち込んでる。

そんなたかしを見て浩二は心痛めていると、ふとなにかを思い出したかのように、

「あ・・・。」

と声を漏らした。

「たかしくん、年下の女の子って興味ある?」

「年齢は気にしたことなくて。」

「ちょうど今、誰か良い人いないかなぁって探してる女の子がいるんだけど、会ってみる気ない?性格は僕が保証するし、絶対に今日みたいなことは起きないから!ね!」

たかしは、浩二の前のめり具合に押されて、連絡先を交換した。

今日、初めて会ったばかりなのに、本当に大丈夫なのだろうか?とたかしは思ったが、優子と話していた時に助けてくれたことを考えると悪い人ではなさそうだ。

もし、変なことをされたとしても、その時は警察に相談すればいい。

『本当に連絡って来るのかな。』

そう、たかしは思いながら

「ごちそうさまでした。」

とパリジェンヌを後にした。

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