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パリジェヌの恋模様ー玲子編ー(全4話 第1話)

―あらすじ―
とある喫茶店で自分の恋愛が上手くいかないと嘆いていた大谷玲子。

その話をカウンターの傍らで聞いていた常連客の今泉あかり。

その日の夜。

マスターである田中浩二は奥さんである田中京子に話をすると、昔の自分達の恋愛で起きた苦い思い出を思い出す。

1つの喫茶店から、各々の恋愛が広がっていく。



『なんで自分はこんなにも恋愛に向いていないのだろう。』

大谷玲子は自分の恋愛力の低さに嘆いていた。

今、近所の喫茶店・パリジェンヌで友達の相田かおりに話を聞いてもらおうと待ち合わせをしている。

私の住んでいるところでは、最近、流行りのお洒落なカフェがあまりない。

というよりほとんど皆無に近いのではないかと思う。

大げさに聞こえるかもしれないが、渋谷や原宿、表参道にあるようなパンケーキ屋さんだったりイタリアンのお店だったり、宝石のようにまばゆい港区女子と言われるよな人達が通うようなお洒落なところは本当にない。

会ったとしても車で20〜30分は走らせないと行けないようなそんな田舎のようなところに住んでいるのだ。

そんなイメージをしてもらっていい。

その代わり今いるパリジェンヌも含め、昔ながらのレトロ感満載な喫茶店が多いのだ。

正直、旗から見たら入りにくいんじゃないかと躊躇してしまうところだが、私は小さい頃からこの喫茶店によく連れられて来ていたこともあり、第2の実家のようなところとなっている。

友達のかおりも最初は

「こういったところに入り慣れていないから、入りづらい。趣味がおばあちゃん。」

と言っていたが、今ではそんな抵抗もなくためらいなく店に入店する。

マスターはもともと性質がお気楽というかポジティブなところもあって

「今、都会じゃレトロブームらしいから、ここのお店も少しずつ若い子が来て繁盛するぞ〜!」

なんてワクワクして言っていた時があった。

ただ、その話以降、私が若い子が来ているのを見たことがない。

マスターは

「玲子ちゃんが、学校に行っている間に、来てたりするんだよ。」

と言っているが、若干、負け惜しみなんじゃないかと思っている。

チャリンとドアが開く音が聞こえ見ると、

「いたね〜!元気にしてたかい?」

とニヤニヤしながら入ってくるかおりがいた。

私が恋愛で落ち込んでいるのを知っているくせに意地汚い。

「あんた、わかっていってるって性格悪いよ。」

「なに言ってんのよ。玲子の恋愛話に付き合うっていうだけで、良い人確定でしょ。頼むの決まってる?」

そう言いながら、マスターを呼ぶ。

お互いに紅茶とケーキのセットを頼み終わったところで、マスターに

「なに、玲子ちゃん。失恋でもしたの?」

と声を掛けられた。

「失恋っていうか相手の男がチョー最悪で。こっちから振ったの!」

「だったら別に落ち込む必要がないじゃないの。ねぇ、かおりちゃん。」

「まぁねぇ。けど、失恋って言うよりも玲子って男運ないから。マスター知らなかった?」

「そうなの?ちょっと気になるじゃん。小さい頃から玲子ちゃんを見てきてるおじさんからするとさぁ、娘みたいなもんだから。」

そんなことを話していると、キッチンから

「あんた、なに油売ってんのよ。さっさとこっちきな!」

とマスターの奥さんが出てきた。

この奥さん。

マスターにはもったいないぐらいの美人で、面倒見の良い女性だ。

昔からきれいな人だなぁと思っていたから、若いときは相当モテたに違いない。

趣味は華道だそうで、花を生けてるときは奥さんいわく精神統一されているようで気分転換になるのだそうだ。

たまに、着物を着て華道の展示会に行くのも趣味なのよねぇと嬉々として話していた。

そんな奥さんがなぜマスターを選んだのか、今でも私の中では七不思議のひとつとして取り上げている。

とは言っても、あとの6つの不思議があるのかと言われたら、お答えできかねるのだけど。

「今日は、あんまりお客さん来ないし、いいじゃない。それかさ、ボックス席に座ってなんかいないで、カウンターに来ちゃいなよ。おじさんも話が聞きたい!」

「もぉぉ。デリカシーのない男だね!ごめんねぇ、玲子ちゃん。紅茶とケーキセット持ってくるから、かおりちゃんとゆっくり話してね。」

そう言いながら、マスターを引っ張ってキッチンへ行ってしまった。

あの奥さんがいなかったら、マスターもこのお店もやっていけなさそう。

そう思ってしまった。

かおりも、

「マスターって本当に話好きっていうかさ奥さんいなかったら、どうしようもないよね。」

と私が考えていたことと同じようなことを言っていた。

「で?今回、なにがあったのよ。あんなに『イケメンすぎてたまらなーい!私のドストラク!』って言ってたじゃん。」

「まぁ、そうなんだけどね。段々、付き合っていく内にちょっとさ店員さんに対しても私に対しても横暴になってきて、別れようって切り出したら手を出されそうになった。」

「は?なんなの、そいつ。で?怪我は大丈夫?」

「うん。駅前にある喫茶店で人もたくさんいたから、みんな驚いてあいつに集中したおかげでなんとか大丈夫だったけど、本当に自分が男を見る目がなさすぎて落ちこんでる。」

そう話しているとちょうどいいタイミングで奥さんが注文したものを運んできてくれた。

「ねぇ。今ちょっとだけ小耳に入ってきちゃったんだけど、玲子ちゃんの彼氏ってDVする男なの?」

「いえ、まだそこまではされたことはないんですけど、されかけたというか・・・。」

「今、玲子の話を触りだけ聞きましたけど、最低な男そうです。」

「そう。なんか心配になってきちゃった。やっぱり、もし良かったらおじさんとおばさんも話聞こうか?あの人って意外に顔広いから・・・あ。顔の幅じゃなくてね。知り合いが多いから、なにかの役になるかもしれないし。なんだったら、玲子ちゃんに紹介出来る男性もいるかもしれないし。」

マスターの奥さんはそう言ってくれた。かおりも

「いいじゃん。いいじゃん。マスターも変な人を紹介しそうな感じしないし、昔から玲子のことよく知ってるから、合いそうな人選んでくれそうじゃない?」

とプッシュをしてくる。

『そうかもしれないけど、なんだかなぁ。』

私は、この出来事が一ヶ月も立っていないのもあってあまり乗り気ではなかった。

そんなにも早く切り替えることも出来なかったのだ。

「どうする?さっきのマスターじゃないけど、あそこのカウンター席だったら、お客さんの動きも見ることが出来るし、仕事しながら話を聞くことが出来るけど。」

奥さんがそう提案しながらカウンター隅の席を指差す。

その瞬間、かおりに

「行こ、行こ!悩んでる場合じゃないっしょ。」

となかば強引に連れ出されカウンター席に移動することになった。

マスターも『おいで、おいで』とジェスチャーしながら顔はニコニコの笑顔だ。

席につくとマスターから、

「で、落ち込んでいる恋愛の理由はなんだったの?」

と切り出された。

マスターは話が待ちきれないと言わんばかりに前のめりになっている。

野次馬根性丸出しだぞ!と思いながらも、振った彼氏との一連を話した。

「彼と出会ったのは、恋活パーティーだったの。大学生になったばっかりだったし、勉強とか友達とかバイトとかだけじゃなくて恋愛もしたいなって思って。大学内のサークルとかバイトでも出会いはあるけど、出会いは多いほうがいいなって思ってたから、試しに恋活パーティーにも参加したんだけど、そこで知り合ったのが、元カレで。」

「へぇ、その元カレ君はなんていう名前なの?」

「だいき。」

「だいきくんか。玲子ちゃんの元彼のだいきくんは、最初どんな感じだったの?」

「最初は、真面目そうで変なことしそうになかったのよ。そこら辺にいる普通の男の子と一緒。だから、この人とだったら連絡先交換してもいいかなと思って、連絡して何回かデートしたのよ。」

そういったところで、かおりから

「言ってたね。けどさそのデートで、この人ちょっとおかしいなって片鱗はなかったの?」

と怪訝そうな顔をされた。

それもそのはずだ。

今の私の話では、DVというかパワハラというかそういう顔をのぞかせていないからだ。

この話だけなら私もかおりと同じ反応をする。

「まったく。ご飯を食べに行っても遊びに行くにしても、全部お金出してくれて。私も少し出すよって財布出しても、女の子にお金出してもらうなんてカッコ悪いから、(財布を)しまってって言われて。かおりもそうだけど、弓子とか葵とかの話を聞いてても彼氏と出かけたときに、ちょっとは出してるって聞いてたし、『この人、すごいなぁ。優しいな。』ってそのぐらいにしか思ってなかった。」

「まぁ、ちょっと前までは男が全部デート代払うっていうのが当たり前みたいなところがあったし、俺達はなん主思わないけど、玲子ちゃんやかおりちゃんの年齢層だとそう思うよなぁ。」

マスターは早速、ジェネレーションギャップだわとつぶやきながら、次の日の仕込みやら皿洗いやらしている。

「だいきくんの態度がおかしいって思ったのはいつから?」

かおりに聞かれる。

「付き合おうってなってから初めて夜、外食したときなんだけど、私、弓子とそのとき会ってたんだ。弓子の彼氏が誕生日近くて、プレゼント買いに行きたいから付き合ってって言われてて。そのあとに合流してお店に行こうって話になってて。でも、思ったより弓子と会っている時間が長くなっちゃって、待ち合わせ時間に遅れちゃいそうだったっから、お店にちょくで行くよ。って連絡したんだけど。」

「そこでなんかあったんだ。」

「うん。」

かおりはケーキの最後のひとくちを口に入れ、紅茶で流し込む。

マスターは、ちょこちょこ入ってくるお客さんを席に案内し対応しながら、右往左往としているもののところどころ話は聞いてくれているようで、戻ってくるたびに頷いてくる。

「ア・モーレっていスペインバルのお店知ってる?あそこの1号店でご飯を食べる予定だったけど、私なにを勘違いしたのか2号店に行っちゃったの。お店間違えちゃって、遅くなってごめん!って言って1号店にすぐに向かったんだけどさ。着いた時には間違えたのが気に食わなかったのか、『だからあんとき俺はそれでも待ち合わせ場所で待ってるって言ったんだよ!ふっざけんなよ!』って、だいきがものすごい勢いでキレてきて。周りのお客さんもちょっと引き気味だったんだよね。私、ちょっと怖くなちゃって顔いろ伺いながら、この場をなるべく早く終わらせて別れたいと思ってたんだけど、そのあとも店員さんへの対応が当たり強いし。『好きなの選んで!』ってキレながら言われて、『それじゃあ・・・』って言った瞬間に店員さん呼んでだいきが勝手に注文しちゃうし。」

「なにそれ・・・。」

かおりもマスターもドン引きしているのが手に取るように分かる。

そりゃそうだろう。

付き合う前と後でガラッと態度が変わるのだから。

私のちょっと怖くなっちゃったとは言ったものの、正直、ちょっとどころではない。

このまま付き合ったら余計にだいきの対応は悪くなるばかりになるだろう。

「だからさ、後日、別れ話をしようと思ってインスタにDM送ったんだ。話したいことがあるから空いてる日ある?って。」

そこで、マスターは目を丸くして言った。

「ごめん、ちょっと話の腰を折っちゃうんだけど、えっ・・・なんでインスタにDM送るの?付き合ってるのにLINE知らないの?」

「ちょっとマスター。それ遅いよ?今はすっごい仲の良い子とかじゃない限り、インスタのDMだよ?」

とかおりが笑いながら言った。

連絡ツールはLINEだけってもう古いからと、かおりはマスターに言いながら、冷めた紅茶を飲んだ。

マスターは

「若い子についていけない。」

と少しヘコんでいるようだったが、そんなマスターを横目にかおりは、

「で、DM送ってどうだった?」

と私の話を戻した。

「夜中の2時に電話がきた。」

「は?」

「夜中に電話が来たのよ。一般ピーポーが寝ているであろう時間に。」

「ねぇ。人の迷惑を本当に考えない人だね。」

「でしょ?彼、工場勤務で夜勤もあるって言ってたから、多分、夜勤の休憩に入ったんだと思う。」

「それでなんて言われたの?」

「話ってなに?まさか別れ話じゃないだろうね?だって。まさにその通りだよ!って感じでさ。『そう。』って答えたら、電話越しでブチギレ。『ふざけんじゃねーぞ!調子づきやがって!』って言われたわ。」

「うーわ・・・。別れるの大変そぉ・・・。」

かおりは、すでに汚いものを見るような目で、鳥肌立ったと腕をさすっていた。

「私も、めんどくさって思いながら、『付き合って早々で言いにくかったんだけど。』って伝えたら、『てめぇみてぇなワガママな女、こっちから願い下げなんだよ!もう関わってくんなや!!』って一方的に切られた。思った以上にあっさり引き下がったから、それもそれでなんか怖いっていうか、ちょとモヤモヤ感が残るなって思ったんだけど、後日、同じゼミであんまり話したことのない男の子から声かけられて、すべてが繋がったんだ。その男の子の友達が、元カレと繋がってて元カレに『お前、やべーやつだったんな。』って言われてたらしい。」

「え、うそでしょ?そんなことってある?」

「ね、思うでしょ?私も話を聞いた時には『いやいやいやいや・・』って思ったんだけど、夜ご飯を食べるときに行ったお店に偶然、その子もいたみたいで、動画を撮っていたみたい。『同じゼミにいる子に似てる子が変な彼氏に絡まれてる。』って自分のプライベートのSNSに載せてたみたいで、それを見た元カレと繋がってた人が元カレに連絡したらしい。」

「プライドが傷つけられたのと、これ以上、自分の行いを撮られたくなかったんだね。」

かおりはそう言って、メニュー表を開いた。

「玲子、なんか飲む?別れられた記念に1杯おごろう!」

そう暗い雰囲気を笑い飛ばすかのように言った。

そして、マスターは

「そしたら、僕はこのクッキーを2人におごろう。と言っても試作品で感想を聞きたいんだけどね。」

と茶化したようにクッキーを玲子とかおりの前に出した。

「喫茶店で焼き菓子だすのって珍しいかもしんないけど、珈琲とか紅茶を単品で頼んでくれた人に出してみようかなって。うまく作れたら1ヶ月ぐらいテストで好評かどうかやってみようかと思うんだ。豆菓子だと、どこもやってるからちょっとありきたりって、ずっと思ってたんだよね。」

そうマスターが言うと、かおりは

「クッキーもうれしいんだけどさ、玲子にはそれにプラスアルファで誰か良い人紹介してくださいよー!マスター、顔広いんでしょ?奥さん言ってましたよ。」

とアシストしてくれた。

「良い人ねぇ。この喫茶店に来る人って年齢層がちょっと高めだから、すぐには紹介できないけど、それでもいいかな?」

「全然、構わないです。あんなこともあったから、すぐに次っ!なんて考えられないし。まだ家に呼んでなかっただけラッキーでしたけど、今は友達とワイワイしてるほうがいいなって。けど、ありがとうございます。かおりもありがとう。なんか、ちょっと話して楽になった。」

「よかった、よかった。私は近々でそういう出来事がないから、『分かるよー!』とか言えないけどさ、少しでも前に向くことが出来てよかったよ。マスター、よろしく頼みますね!」

そう言って、玲子とかおりは2杯目にソフトドリンクを頼み、楽しそうに別の話で盛り上がっていた。


女子大生のところどころ漏れていた話を聞いていたが、どうやら恋愛で嫌なことがあったらしい。

ただ、最終的には楽しそうに話が出来ているということは、良いことが起こったのだろう。

今泉あかりは、その光景を見ながら自分の苦々しい恋愛を思い出していた。

第2話 https://note.com/preview/n60d1498be9d6?prev_access_key=0e3378079a29a48bbda97b3d8f66ebf5


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