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『あの夏が飽和する。』実は殺してない説


注意!

作者は今回のテーマの『あの夏が飽和する。』のノベライズ、コミカライズ等々を一切閲覧せずに曲を聞いたときの感想のみでこの記事を書いています。

そのためこの考察が正しければこの記事は「周知の事実を羅列している記事」になるし間違っていれば「的はずれな考察を呈している記事」となりますが感想(考察)の一つとして暖かく見守って頂きたいです。

はじめに

今回はカンザキイオリ様の楽曲『あの夏が飽和する。』についてのある一つの考察について語らせて頂く。

どんな曲?

まずこの曲の大まかな流れについておさらいしよう。
この曲を聞いたことのない方は上のリンクから聞いてから続きを読んでほしい(もっともこの曲を聞かずにこの記事にたどり着くことは無いと思うが)


















この曲では
「君」が「人を殺した」と言い引きこもりの「僕」のもとに訪れる

「君」と共に自殺を目的にした旅に出る

「君」が目の前で首を切る

「僕」が「君」への思いを吐露する

という起承転結が「僕」による独白のような形で作られている。
私はこの物語の根本である「人を殺した」という発言が嘘なのではないかと考察した。

「何故か君だけどこにもいない」

これは曲の中でもかなり印象的な、「僕」が「君」の死を受け入れられず嘆く痛々しい歌詞である。
僕はこの歌詞の表現から今回の記事の考察を作り出した。


違和感ポイント


まず前提としてこの物語で亡くなった人物は「君」「隣の席のいつも虐めてくるアイツ」の二人である。
そう考えるとやはり君「だけ」どこにもいないという表現が少々引っかかる。
「隣の席のいつも虐めてくるアイツ」を自分の交流から省いたとも考えられるかもしれないがその前に「家族もクラスの奴らもいるのに」という歌詞があるためそれは考えづらい。
それに「君」が人を殺していないと考えたほうが辻褄が合う違和感ポイントがいくつも存在する。

違和感ポイントその1「かすかな震え」:☆☆☆☆★

まず違和感を感じる歌詞は二番のAメロの「君の手を握ったときかすかな震えも既に無くなっていて」という歌詞だ。
この歌詞は曲の始めの「夏が始まったばかりというのに君はひどく震えていて」という歌詞と対比して見ることができる。

これは少し穿った見方になるが、もし人を殺した「君」が「僕」と共に旅をしたからと言ってその辛い思いを一切忘れて楽しく旅をすることなど可能だろうか。
多少気持ちは晴れることはあると思うが歌詞では「かすかな震えも…」と言っており「君」が完全に立ち直ったような印象を抱かされる。
だが、もし「君」が人を殺していないとして考えると始めの震えの正体は「二人で旅に出ること」「友達へ人を殺したと嘘をつくこと」に置き換えられる。
もしそうだとしたら旅の途中時点で「君」の震えが無くなっていた理由も説明がつくのではないだろうか。

違和感ポイントその2「人殺しとダメ人間」と「あぶれ者」:☆☆☆★★

次の違和感ポイントは一番と二番のそれぞれのサビ前の歌詞である。
ご存知の通りこの曲は「僕」役の鏡音レンと「君」役の鏡音リンによって歌われており、
サビ前の歌詞は「人殺しとダメ人間の君と僕の旅だ」をレンくんが
あぶれ者の小さな逃避行の旅だ」をリンちゃんが歌っている。
これは「僕」視点では「君」が人殺しに映っているのに対し、
事実を知っている「君」視点では二人は同じ、普通に生きることが耐えられなくなったあぶれ者に見えていることを暗示しているのではないだろうか。

違和感ポイントその3「ふと君はナイフを取った」:☆☆★★★

次の違和感ポイントは「君」がナイフを取り出したタイミングである。
曲中でこの近辺の歌詞は「鬼たちの怒号」というように抽象的にぼかして描かれている。(おそらくそれは「僕」が「君」の死をトラウマに思っているためだろう)
本記事ではこの「鬼たちの怒号」は彼らを発見した警察や知り合いなどの「二人をいつもの世界へ連れ戻そうとする者」として解釈する。
ここで少し違和感として感じたのは「人はそんな瞬時に自分の首を切る決心ができるか」ということである。
命の重さをどう扱うかは様々な作品によりけりだがこの曲はかなり重く扱っている。
「君」が「僕」を自殺の旅に誘ったのも一人で死ぬ決心がつかなかったからであろう。

では「君」が即座に首を切れたのは何故か?
そこには「捕まったらいつもの生活に戻らないといけない」という脅迫観念があったからではないだろうか。
私は「君」の自殺の動機は普段の生活のストレスだと考えている。
もし「君」が殺人を犯しておらず、自殺せずに保護されていたらある程度の検査期間をおいて普段の生活に戻されていただろう。
自殺を決心する程に苦しい普段の生活にである。
「君」はそれを恐れて即座に首を切ったのではないだろうか。

違和感ポイントその4「自分は何も悪くねえと誰もがきっと思ってる」:☆★★★★

次の違和感ポイントは二番のサビ終わりのこの歌詞である。
ここからはここまでのような「考えてみたらそう見えなくもない歌詞」ではなく筆者が実際曲を聞いていて感じた違和感を伝えたい。
僕は初めてこの歌詞を聞いたときこれは誰へ向けた言葉なのか分からなかった。

そもそもとして作中での「君」の自殺の理由は「人を殺してしまってもうここには居られないから」だと語られている。
それに沿って考えるとこの発言はそのいじめっ子に対して自業自得だと吐き捨てる言葉となるが。
だととすると「誰もがきっと思ってる」という表現はあまりにも主語が大きすぎてやはり違和感を感じさせる。

では人を殺していないことを前提として見たらどうだろうか。
そうした場合この言葉の矛先の選択肢は大きく増える。
自分の事をいじめてきた人達。助けてくれなかった親や先生たち。(ここに関しては描写が無いので想像するしか無いが)
彼からはその世界にいる全てが自分のことを自殺へと導いた「人殺し」として写っていたのではないだろうか。

違和感ポイントその5「君は何も悪くないよ」:★★★★★

「君」が人を殺してなかったと考えた時に最も気分が良く聞くことが出来るのがこの歌詞だ。

まずぼくがこの歌詞を聞いて思ったのが
「いや人殺してるやん」
ということである。
確かに精神が成熟しておらず、且つ家出をしていてトランス状態であった「僕」からこの言葉が出てくるのならば多少納得はできるが
初めに述べた通りこの曲は「僕」による独白によって構成されている。
更に「あの夏の日を思い出す」という歌詞からこの事件からある程度の期間が経っていることが想定される。
そんな考える時間があった中でで「君は何も悪くないよ」という言葉が出てくるだろうか。
「僕一人だけでも『君』の殺しまで全てを赦してやりたい」と解釈する事も出来るがこの記事では殺していない前提で考えてみる。

そうするとこの言葉の意味は「『君』が死ぬことはなかったんだ。自殺なんてせずに僕に相談でもしてくれれば良かったんだ。一緒に全部投げ出して逃げればよかったんだ。」と捉えることができる。

僕がここを「最も気分が良く聞くことが出来る」と言った理由は「もういいよ。投げ出してしまおう。そう言ってほしかったんだろう?なぁ?」という歌詞にある。
先程「君」の自殺の要因を普段の生活と言ったがおそらく「僕」も同じ苦しさを抱えていたと考えている。
その理由は単純で「僕」が引きこもりだったからだ。
「僕」はその苦しさに対して「引きこもる」ことで、
それらを「投げ出してしまう」ことで対処した。
だが「君」には逃げ出す程の勇気がなかった。
だからこそ「君」は自殺という道を選んだ。
自殺なんてしなくても幾らでも生きる道はあったというのに。
だが「君」は一人で自殺する勇気も無かった。
だから「僕」を訪ねた。
「投げ出す」という選択肢を選んだ「僕」なら自分を救ってくれるかもしれない。
自殺以外の道を作ってくれるかもしれないという淡い期待を持ちながら。

つまり「君」が望んでいたのは「一緒に自殺すること」では無く「一緒に投げ出してしまう事」だったのだ。

「君」が目の前で死んで
「君」が嘘をついていたことを知って
「君」の真意に気づいた「僕」がその自責の念に襲われながら「君は何も悪くないよ」と伝える…

…と僕は考察した

二人が恐れた「普段の生活」

本文中では彼らの苦しみの対象を「普段の生活」と、少しぼかして表現したためそこを少し掘り下げさせて頂きたい。
この「普段の生活」は具体的に言うならば
いじめ、家族、友達、学校、仕事、人間関係、病気…
などのような普遍的な悩みの数々だ。
上に書いたような悩みを一切抱えていない人間はほとんどいないだろう。

近年「生きる理由が分からない」と言うような話をよく聞くように、大きな悩みの有無に関わらず死にたいと発信する若者は増えている。
だがその人々が皆に死にたいほどに辛い何かがあるのかというとそうではない。
普通に学校に行く
普通に仕事をする
普通に人と接する
普通に生きる
ただ普通にそれらをこなす事が辛くて
でも周りの人はみんな普通にやってるから相談もできない。
そんな悩みの行き場をなくした子供たちが「死にたい」という形にたどり着く。
曲中で「君」が「僕」の元を訪ねたのはその最後のSOSだったのではないだろうか。

あとがき

いかがだったでしょうか。
この記事は「何故か君だけどこにもいない」の違和感に気づいてからがむしゃらに思ったことを書いていっていたのでかなり拙い部分も多かったと思います。
はじめにも述べた通り一つの感想、考察程度に見ていただけたら幸いです。
最後まで見ていただきありがとうございました。


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