ラクダの描き方ばかり 練習しているので わたしの動物園はいつも 鳴かないラクダで いっぱいになってしまう 園内を一周する小さな乗り物に お父さんがぽつり 乗っているの…
壊れかけた百葉箱の中で眠っている僕の架空の妹 いろいろと短いのに産まれた順番だけで長女になってしまった 安心して眠れるように頭を撫でてあげるけれど 架空だから忘れ…
部屋の中に桜が咲いて 僕ら三人は お花見をすることにした 見上げるだけでも 綺麗なのだけれど せっかくだから、と レジャーシートをひいて 君が作ったお弁当を食べた それ…
指先から こぼれ落ちていく あなた 残り香と 囁き 名前を書いただけで 手続きは簡単に終わった 繰り返される 日々も 生活も 日常も 時代という言葉に 擦り減っていく 儚…
人が沈む 沈むのに言葉はいらない 臭い肉体が一欠片あれば良い 沈む先が行き先 水底ならばそれだけで幸せなことだ ただ沈め 美しい時代もある 酷い時代もある すべては時代…
ある日、あたなの背中に 窓があるのを見つけた 開けてみると 普通に外の景色があった 眩しければ鳥になるといいよ とあなたが言うので わたしは鳥になって 空へと飛びたつ…
梅雨の湿った風に吹かれいると いつの間にかぼくと妻は 古ぼけた感じがする列車の 最後尾の座席に並んで腰掛けている 列車はカタンカタンと 紙のイメージの中を ゆっくりと…
部屋の明かりが消えた。キッチンも、廊下も、 トイレも。カーテン越しに差し込む街灯や近所の 明かり。わたしの家だけが何事もなかったかのよ うに、暗闇の中、どこまで…
未明から降り始めた雪が 台所に積もっている 牧場の色彩を思いながら わたしは冷たいサラダを 二人分作った あなたはリビングで 新雪に埋もれたまま 詰将棋をしている 本…
ももを食べました 塩で食べました レバーを食べました タレで食べました 叔父が余命を宣告されました ねぎまを食べました 塩で食べました 十人いた父の兄弟姉妹の 最後…
廊下に咲いた花を 摘んで歩いているうちに 迷ってしまった 春の陽が差し始めた病室に 戻りたかっただけなのに 白い売店や 柔らかな窓ガラスに触れて いくつもの季節に 取り…
食べてすぐ横になると 牛になって 川まで来ていた 晴れたら洗濯をして 布団を干そうと思っていたけれど 雨も降り出して 残っているものもない これからの人生どうなるのだ…
眠くなった海の話を しようと思った 暮らしていくことが 一日の中にあって 踏むこともたまにあり 替わりのものもいくつか 色で決めておいた 人は残していく 大切なもの 捨…
むかし、むかし いました あるところでした そんなものでした 流れていました よく見てください あれは桃です 大きさを見てください あれは大きいです 味が想像できますか …
魚屋の片隅にあった目薬を買う お店の人と角膜や水晶体等について 少しだけ話した すぐ側で魚介類はそれぞれに 幸せそうな形で整然と並んでいた それから帰りの駅ではお腹…
長い信号に引っ掛かった 本当に長くて 五十メートルくらいはあった 長いものには巻かれろ という言葉があるけれど 何かを巻くほどの 柔軟性はなさそうだし それならばいっ…
たけだたもつ
2024年4月13日 07:55
ラクダの描き方ばかり練習しているのでわたしの動物園はいつも鳴かないラクダでいっぱいになってしまう園内を一周する小さな乗り物にお父さんがぽつり乗っているのが見える好きな形の帽子を被って誰を拒むことなく誰にも拒まれることなく循環し続けているわたしは知ってるわたしのへその緒が切られたときもお父さんは同じようにしていたことをそのときからわたしの循環が始まったことも
2024年4月7日 06:27
壊れかけた百葉箱の中で眠っている僕の架空の妹いろいろと短いのに産まれた順番だけで長女になってしまった安心して眠れるように頭を撫でてあげるけれど架空だから忘れられていくものがある食卓には夕食が並んでいる、並べられている並べているのは僕の実の兄長男だから長いその一方で短い所も散見される父はだらしなく座り、身体のほつれた箇所を繕っているその度に、はあ、はあ、と呼吸のような独り言が唇から
2024年3月31日 06:13
部屋の中に桜が咲いて僕ら三人はお花見をすることにした見上げるだけでも綺麗なのだけれどせっかくだから、とレジャーシートをひいて君が作ったお弁当を食べたそれからちょっぴりお酒を飲んで娘は普段は飲めないジュースを心ゆくまで堪能したそしてシートの上に寝転びそのまま三人で寝落ちした手を繋ぐことがこんなにも温かいのだとじんわりと心に届く目が覚めると桜の木はどこにも見つからない
2024年3月30日 06:33
指先からこぼれ落ちていくあなた残り香と囁き名前を書いただけで手続きは簡単に終わった繰り返される日々も生活も日常も時代という言葉に擦り減っていく儚さだけで生きてはいけないそれならばせめて最期まで燃え尽きて消えろわたしもまたあなたの指先からこぼれ落ちていく間際に二人で見上げたそれはきっと咲き始めたばかりの桜だった
2024年3月24日 07:10
人が沈む沈むのに言葉はいらない臭い肉体が一欠片あれば良い沈む先が行き先水底ならばそれだけで幸せなことだただ沈め美しい時代もある酷い時代もあるすべては時代が理解してくれる吉田屋の水羊羹は食べたかいあれは美味しいよ身体の一番遠い所まで甘さが行き渡る生きている気持ちになるそれなのに人はまだ命の重さすら正確に量れないもうすっかり一面の春だ乗り物置場に新しい乗り物が置かれてい
2024年3月23日 06:04
ある日、あたなの背中に窓があるのを見つけた開けてみると普通に外の景色があった眩しければ鳥になるといいよとあなたが言うのでわたしは鳥になって空へと飛びたつしかなかった空はあんなに青いのにどこまで行ってもあの青に 包まれることはない飛びたった窓が開け放たれているのが見えてあなたがもう不在であると知った
2024年3月17日 06:42
梅雨の湿った風に吹かれいるといつの間にかぼくと妻は古ぼけた感じがする列車の最後尾の座席に並んで腰掛けている列車はカタンカタンと紙のイメージの中をゆっくりとしたリズムで走り続ける「点滅する踏切の警告灯」も「民家の網戸から見える襖」も「数えたシラサギの数」もすべて文字でしかないのに妻の手を握ると二人とも生きているのが当然のように汗ばんでいるやがて列車は紙の縁にたどり着き先
2024年3月16日 06:26
部屋の明かりが消えた。キッチンも、廊下も、トイレも。カーテン越しに差し込む街灯や近所の明かり。わたしの家だけが何事もなかったかのように、暗闇の中、どこまでも透きとおって見えた。 山下さんに誘われてお通夜に行った。「あなたもお世話になったじゃない。」山下さんはそう言うのだけれど、遺影を見ても、声や口癖さえ思い出せない。ご焼香を済ませると、山下さんは他のグループの人たちと談笑しなが
2024年3月10日 06:47
未明から降り始めた雪が台所に積もっている牧場の色彩を思いながらわたしは冷たいサラダを二人分作ったあなたはリビングで新雪に埋もれたまま詰将棋をしている本を見ながら何度も指し直してたぶん春になるまでずっとそうしている幸せではない時期がわたしたちにはあった歯医者の予約だけが増えてその度に手帳を買い替えていった群れた羊を諦めた牛のように二人で眺め続けたヒーター
2024年3月9日 07:05
ももを食べました塩で食べましたレバーを食べましたタレで食べました叔父が余命を宣告されましたねぎまを食べました塩で食べました十人いた父の兄弟姉妹の最後の一人でした父の葬式の夜一晩中父を罵っていましたわたしが子供の頃はあんなに優しくしてくれたのに父と仲良しだと思っていたのにつくねを食べましたタレで食べました大人になると見たくないものまで見えてしまう明日お見
2024年3月3日 07:04
廊下に咲いた花を摘んで歩いているうちに迷ってしまった春の陽が差し始めた病室に戻りたかっただけなのに白い売店や柔らかな窓ガラスに触れていくつもの季節に取り残されていった日々の暮らしの中で少し嫌な匂いがすると看護師の薄いスクラブで新しい親指が産まれているお医者さんが命に似たものの問診をするけれど何を差し出せばよいのか本当は誰も知らない海岸へと続く受付の所で係の人が海
2024年3月2日 07:02
食べてすぐ横になると牛になって川まで来ていた晴れたら洗濯をして布団を干そうと思っていたけれど雨も降り出して残っているものもないこれからの人生どうなるのだろういや牛だから牛生か、なんて細かいことが気になるのに川辺の草を見るだけでよだれが出てくる気がつくと隣には一緒に牛になった君がいて川面の波紋を眺めている言葉で伝えなければいけないことがたくさんあったはずなのに側にい
2024年2月25日 07:05
眠くなった海の話をしようと思った暮らしていくことが一日の中にあって踏むこともたまにあり替わりのものもいくつか色で決めておいた人は残していく大切なもの捨てられなかったガラクタ命のない身体命のある身体葬儀の日にちが取れず父はしばらくの間防腐の処理をされ居間のベッドに寝ていたふくよかに見せようとしたのかこけていた頬などに詰め物がしてあった何か違う、と母は不満そうだ
2024年2月24日 07:17
むかし、むかしいましたあるところでしたそんなものでした流れていましたよく見てくださいあれは桃です大きさを見てくださいあれは大きいです味が想像できますかジューシーですスウィートです少し視野を広くあちらの方竹が光っていますいいえ、それは違います耳を澄ましてください聞こえますねんふらことんふらこどんぶらこどんぶらこっこ今まで聞いたことのない不思議な音です竹
2024年2月18日 06:50
魚屋の片隅にあった目薬を買うお店の人と角膜や水晶体等について少しだけ話したすぐ側で魚介類はそれぞれに幸せそうな形で整然と並んでいたそれから帰りの駅ではお腹が痛くて膝を抱えたまま眠ったどれくらいたったのか、眼が覚めるとあたりはすっかり暗くなっていた電気を落とした列車が一番線のホームに停車していた模型のような息だけが唇のわずかな隙間から漏れていくポケットから目薬を取り出す透
2024年2月17日 06:44
長い信号に引っ掛かった本当に長くて五十メートルくらいはあった長いものには巻かれろという言葉があるけれど何かを巻くほどの柔軟性はなさそうだしそれならばいっそのこと長いものはマカロニの方がずっと美味しそうだでもマカロニはそんなに長くはないし長いものが欲しいならスパゲッティということになるけれどさすがのスパゲッティも五十メートルはないしぼくはマカロニの穴が大好物なのにそ