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インフラ老朽化問題で顕在化した自治体の技術職員不足は、包括的民間委託の手法で解決できます。

インフラメンテナンス国民会議への提言

【提言のタイトル】
インフラ老朽化問題で顕在化した自治体の技術職員不足は、包括的民間委託の手法で解決できます。

【提言の全文】

 令和6年1月10日付の日経電子版記事「老いるインフラ、地方で放置深刻。橋の6割未着手」、令和6年1月1日付の日経電子版記事「インフラ修繕、自治体が共同で。国交省が支援」、令和5年12月21日付の日経電子版記事「インフラの老朽化対策、霞が関の壁取り払え」によれば、全国の約4分の1の市町村では、土木・建築分野の技術系職員が1人もいないため、事務系職員が老朽インフラ対策工事の発注事務を担っているとのことです。全国の自治体では、老朽インフラ対策工事を全て仕様発注方式(設計・施工分離発注方式)で実施しています。しかし、仕様発注方式では、設計発注段階での成果物(設計図書)の確認や、施工発注段階での監督及び検査について、事務系職員が実効的に行うことは困難です。それゆえ、仕様発注方式による契約の履行上欠かせないこのような発注者としての確認・監督・検査は、外部の業者に「ほぼ丸投げ」で委託せざるをえないところです。つまり、発注者でありながら、発注している具体的な内容を殆ど掴んでいないまま、老朽インフラ対策工事を自治体は発注しているといっても決して過言ではありません。

 このような問題を抜本的に解決するためとして、上記の3つの日経電子版記事では、土木・建築分野の技術系職員の確保が欠かせないとしています。しかし、技術系職員はスペシャリストですから、建築分野の職員は土木分野に疎く、土木分野であっても橋梁を専門とする職員はトンネルや道路に疎いと言えます。自治体が抱えている老朽インフラは、橋梁、トンネル、道路、公共建築物など、多岐にわたります。それゆえ、仕様発注方式による契約の履行上欠かせない発注者としての確認・監督・検査を実効的に行うには、当該契約に係る技術分野を専門とする職員をそれぞれ確保しておく必要がありますので、技術系職員を何とかして1人確保すれば済むといった話ではありません。

 ところで、令和5年3月22日付の国交省の報道発表資料『「インフラメンテナンスにおける包括的民間委託導入の手引き」を作成しました。「地域インフラ群再生戦略マネジメント」の推進に向けて』によれば、国交省は、橋梁や道路などを別々に維持更新するのではなく、自治体での導入事例が増えている包括的民間委託の手法を用いて、老朽インフラ対策を包括的、合理的かつ効率的に推進しようとしています。包括的民間委託では、仕様発注方式による業者選定ができないため、必然的に性能発注方式(設計・施工一括発注方式)による業者選定となります。性能発注方式では、「受注者にどのような結果を求めているのか」について、受注者が設計と施工を行う上で必要十分となるように分かりやすく示した要求水準書を作成することが肝要です。このような要求水準書であれば、自治体の事務系職員であっても発注内容を十分に理解することができますし、対価支払いに先立つ検査についても、「設計図面通りに寸分違わずできているか」ではなく、「受注者に求めた結果が全て達成されているか」を確認すればよいので、事務系職員でも十分に対応できます。上記の3つの日経電子版記事では、自治体での老朽インフラ対策の推進には技術系職員の確保が欠かせないとしていますが、全国の約4分の1の市町村では技術系職員が1人もいない実情に照らせば、「百年河清をまつ」が如くの夢物語です。それゆえ、事務系職員や専門外の技術系職員でも十分に対応できる包括的民間委託の手法の全面的な採用こそ、自治体の老朽インフラ対策における人材に起因する問題の抜本的な解決策となります。

 ちなみに、自治体が老朽インフラ対策工事を発注する際に用いる契約書は、中央建設業審議会決定に基づく「公共工事標準請負契約約款」を雛形としています。この「公共工事標準請負契約約款」は、仕様発注方式の工事仕様書を前提としたものであるため、包括的民間委託に欠かせない性能発注方式の要求水準書とは整合が全くとれません。自治体では新庁舎整備事業等において、詳細設計付き工事発注方式や設計・施工一括発注方式による事例が増えているところですが、「公共工事標準請負契約約款」に基づく建設工事請負契約書を用いざるをえないため、契約書の条項と要求水準書の記載内容には放置できない乖離や矛盾が至るところに生じます。それゆえ、包括的民間委託による老朽インフラ対策を進める上で、性能発注方式の要求水準書と整合する工事請負契約書の雛形を早急に示すことが求められています。

【提言の補足】

 私は、警察での現役時代(1978年から2013年)に、通算で10年以上にわたり発注の元締め(つまり、工事請負契約書上の「甲」です。)として、土木・建築工事を含む数百件の警察情報通信施設整備事業の全てを性能発注方式により、一度の失敗もなくやり遂げた実績があります。この際、入札不成立案件や一者応札案件は皆無でした。また、このような性能発注方式による発注に対して、会計検査院の会計実地検査を4回受検しましたが、どの検査においても「適正に経理されている」旨の講評を受けておりました。さらに、人事異動で赴任した際に仕様発注方式(設計・施工分離発注方式)で入札不成立となっていた幾つもの発注案件を、直ちに性能発注方式(設計・施工一括発注方式)に切り替えることにより、短期間で契約締結に至った経験と実績も有しております。
 ちなみに、上記の数百件の整備事業発注時に用いた工事請負契約書についてですが、「公共工事標準請負契約約款(A4版36頁)」に基づく工事請負契約書では性能発注方式に全く適合しませんでしたので、A4版4頁の工事請負契約書を独自に作成して用いていました。この独自作成した工事請負契約書につきましても、会計検査院の4回の実地検査において問題視されたことは一度も無く、このような工事請負契約書を含めて「適正に経理されている」旨の講評を受けていたのです。


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