見出し画像

【連載】「灰かぶりの猫の大あくび」#20【RPG編~黄泉がえりは突然に~】第3話

前回のあらすじ

城跡へとやってきたアイとミヤビの二人は、難なくターミネーターの正体を突き止める。それは外ならぬ、モノリスだった。モノリスが流した「カントリー・ロード」を聴き、現世での記憶をすべて取り戻した二人は、いよいよ灰かぶりの猫の復活のため、時空ゲートを通り、時の最果てへと向かう。


登場人物

アイ
夏目愛衣。黄昏新聞の新米記者。アニメ好き。今期放送中の『怪異と乙女と神隠し』の化野乙あだしのおとちゃんにはまる。

ミヤビ
アイが魔物の森で出会った剣豪。咲花刀さかばとうを所持。その正体は、『クロノ・スタシス』のプレイヤーの名もなきひとり。 

モノリス
灰かぶりの猫の自宅のAIスピーカー。現在は義体化済み。主人公の猫の復活のため、『クロノ・スタシス』という曰く付きのゲームを用意する。

灰かぶりの猫
久しぶりに小説を書き始めた、岩手県出身の三十代。本作の主人公。『学校編』にて、芥川賞候補作家の三島創一により、存在を消滅させられる。『RPG編』で、約一カ月ぶりの復活なるか。

※各固有名詞にリンクを添付(敬称略)。
※この物語は、重箱の隅をつついてもフィクションです。


――三人はしばらく、時空の狭間を揺蕩った後、突如開いたゲートから飛び降り、鉄の柵に囲われた薄暗い空間に着地する。前後左右には、等間隔に光の柱が立ち上る。

?? 「おーい」

――どこかから呼びかける声がする。

モノリス
   「時の賢者でしょうか。行ってみましょう」

――階段を降り、木の扉を開くと、狭い空間の中心に灯る街灯の下に、深々と帽子をかぶり、外套を着た老人が立っていた。

老人 「(帽子を掴んで上に上げ)誰かと思えば、珍しいお客さんだ。さては転生者かの?」

モノリス
   「おっしゃる通りです」

アイ 「あの、おじいさん。実はわたしたち、お願いがあって来たんです」

老人 「ここを訪れる者の目的は大きく二つ。一つはラヴォスを倒すため。もう一つは、大切な人に再び会うため。見たところ、お嬢さんの願いは後者の方かのぅ」

アイ 「はい。灰かぶりの猫さんと言って、物書きをしている人です。同じく、物書きをしている人物に、訳も分からないうちに消されてしまって」

老人 「お嬢さんの世界にも、厄介な者がおるみたいじゃな。まさか、ジャキという魔族の子どもの末裔でもあるまい」

ミヤビ「――ジャキって、魔王のことか? 現実に魔王がいたら、たまったもんじゃないぞ」

老人 「して、お嬢さん。時の卵を授ける前に、一つお聞かせ願えるかな。お嬢さんにとって、その灰かぶりの猫さんという人物は、どのような存在なのですかな」

アイ 「初めて会った時は正直、変な人としか思いませんでした。発言のどれもこれもがネタに走ったもので、必ずしも面白いわけではないですし。残念ながらそれは今も変わりませんが、それでも慣れない探偵役を買って出たり、子どもたちのことをひたすらに信じたり。――それで、ああ、根はとっても純粋な人なんだなと思うようになりました。目の前からいなくなってしまった時は、本当に大切なものを失ってしまったような悲しみに襲われました。あの感情は何なんだろうと未だに思うことがありますが、断言できます。猫さんはわたしにとって、かけがえのない大事な人です」

老人 「ふむ。その想いは本物ようじゃな。よかろう。――これを」

――老人が外套の中に手を入れ、懐から何かを取り出す。それは、手のひらの大きさの卵だった。

アイ 「こ、これが時の卵?」

老人 「左様。本来はそれを持って、死の山まで赴く必要があるんじゃが、お嬢さんらも暇ではあるまい。そこの右手の扉を開くがよい。ヌゥがおる。そやつに頼めば、その場で時の卵を使うことが可能じゃ。――そちらのロボよ。人形は用意してあるのじゃろ?」

モノリス
   「ノルシュティン・ベッケラーさんの実験小屋で、ドッペル済みです。準備に抜かりはありません」

老人 「あとは、お嬢さん。そなたの想いだけじゃな」

――夏目、時の卵を胸に当て、瞼を閉じる。

モノリス
   「夏目さん。猫さんが復活したら、ワタシの義体の代金を請求しましょう。それで晴れて、カイジさんのような借金生活からはオサラバできます」

アイ 「――そっか。そうだよね。うん」

ミヤビ「そう言えば、じいさん。このゲームのもとになったクロノトリガーのキャラクターデザインを手がけた鳥山さんが亡くなったのは知ってるか?」

老人 「何? 鳥山氏が。――(深くうなだれ)そうか。それは惜しい人を亡くしたの。考えてみれば、ワシらの生みの親のようなものじゃからな。――お三人方、もしよければ、この場で鳥山氏の追悼を行っても良いかな」

アイ 「もちろんです」

老人 「(帽子を取り)我らが生みの親、鳥山明氏へ。この曲を贈ることとしよう。――『トリヤマ・リメンバー』」

――静かなオルゴールの音色が流れる。

老人 「お三方、ありがとう。鳥山氏亡き後も、こうしてゲームをプレイする者らがおる。それだけで、作者冥利に尽きると言うものじゃろう。その魂は不滅じゃ」

アイ 「いいえ、こちらこそありがとうございます。おじいさん。時の卵、大切に使わせていただきます」

――三人は右手の扉を開き、同じような空間へと出る。中心には、ヌゥという奇妙な生き物が待っていた。

ヌゥ 「お、見ない顔だな。おまえら、どこから来た?」

モノリス
   「地球にある日本という国の、岩手という地域からです」

ヌゥ 「イワテ? 聞いたこともないな。――まぁ、いいか。で、蘇らせたい人間がいるだって?」

アイ 「はい。灰かぶりの猫さんです」

ヌゥ 「それ、人間か?」

アイ 「猫さんというのは、ペンネームみたいなものです。でも、そう言えば、本名は聞いたことがないかも」

モノリス 
   「非常にありふれた名前ですよ。佐藤とか田中といった感じの」

ヌゥ 「時の卵持ってるお前、今からオレが言う呪文、繰り返せ。――白夜にふるえる、すべての想いよ。闇に立ち向かう、すべての生命よ。今、蘇れ!」

アイ 「白夜にふるえる、すべての想いよ。闇に立ち向かう、すべての生命よ。今、蘇れ!」

――アイが呪文を繰り返した直後、時の卵が光を帯び、瞬く間に輝きだす。間もなく、浮力によって上空へと舞い上がっていき、満月を背に四方に砕け散る。すると、どこからともなく満月に影が差し始め、辺り一面が闇に呑みこまれていく。暗転。


創一 「そうですか。仕方がありませんね。猫さんの気持ちは分かります。吉本隆明が語っているように、本当のことを言葉にするのは恐ろしいことです。何故なら、『真実を口にするとほとんど全世界を凍らせる』ことになりかねないのだから。ですがあなたは、本当のことを言わなければならない。あなたはこの物語の〝主人公〟なのだから」

猫  「(そっと瞼を閉じ)そうか。僕は主人公か。だから今、薫子君や夏目君たちは、言葉を発することができないのだな。主人公の僕がこうして語り、内省を始めてしまうと、他のキャラクターは口を封じられてしまうんだ。だが僕は、本当はそんなことは露ほども望んでいない。――夏目君、僕のことなど気にしないで、しゃべりたまえ。いつものように、僕をこき下ろしてくれ。馬鹿にしてくれよ。僕は主人公と言う特権など、全く求めてはいないんだ。ただ楽しく、君たちと、この物語の中で生きることができれば、それで十分なんだ(沈黙)。――なのに、どうして。どうして、僕一人しか、語ることができないんだ? これではまるで僕一人、『ゼロ・グラビティ』のように、宇宙に放り出されたようなものじゃないか。まさか救助もなく、ずっとこのままじゃないだろうな。なあ、創一(沈黙)。――夏目君。僕を、独りにしないでくれ。僕は、君がいないとダメだと、あれほど言ったじゃないか…」


アイ 「こ、ここは? あ、猫さん!」

モノリス
   「『学校編』の校長室です。ちょうど猫さんが消滅する直前の場面ですね」

ミヤビ「なるほど。これが時の卵の力か。これがあれば、都合よく何でもやり直せそうだな。――例えば、2017年のWBC準決勝のアメリカ戦。1点ビハインドの8回裏、2アウト1塁2塁。バッターは筒香。一発出れば逆転。スタンディングオベーションで、USAコールと日本の応援団の歓声が球場に響き渡る中、1ボール2ストライクから筒香が捉えた打球は、高々とライト方向へ。誰もが、これはいったかと思った打球だった。しかし打球は見る見る失速して、ほぼ定位置のライトのグラブの中へ。――それから、2012年のパリロンシャン競馬場での第91回凱旋門賞。日本からは皐月賞、ダービー、菊花賞を制し、史上7頭目のクラシック三冠馬となった栗毛のオルフェーブルが、満を持しての参戦。偽りの直線を過ぎ、迎えた最後の直線。手応え良く、大外から馬なりのままポジションを上げ、そのまま一気に先頭に躍り出る。悲願達成の瞬間が日本国民の頭に過る中、残り100m過ぎ、後方からソレミアがものすごい脚で差してきて、ゴール板直前、掴みかけた勝利が手のひらからすり抜けていくかのように交わされ、惜敗の2着。――もしかしたら、それさえも覆せるかもしれない」

アイ 「モノリス、早く猫さんと人形をすり替えて」

モノリス
   「合点承知の助」

――モノリス、背中に括りつけていた猫のドッペル人形を外し、静止している猫の本体とすり替える。

モノリス
   「これで良しと」

アイ 「気味が悪いから、早く戻りましょう」

――三人は再びヌゥの部屋へ。

ヌゥ 「お、無事、助けられたようだな」

アイ 「でも、まだ意識が」

モノリス
   「任せてください。ワタシの義体は、AEDも内蔵しておりますので。少しだけ離れていてください」

――モノリス、仰向けに横たわる猫の胸にパットを当て、電気ショックを与える。猫のからだが鯉のように跳ねあがる。

アイ 「猫さん? 猫さん?」

――アイの呼びかけに応えるように、猫の瞼がうっすらと開く。

猫  「ん? ここは一体?」

アイ 「猫さん!」

――アイ、思わず駆け寄り、横たわる猫に抱き着く。胸に頭を押し付け、何度もこすりつける。

モノリス
   「夏目さん…(瞳がオイルで潤む)」

ミヤビ「緋色の帰還ならぬ、猫の帰還だな」

――小松未歩『あなたがいるから』の柔らかなピアノの音色が流れ出し、以下、スタッフロール。


キャスト
 
 アイ(夏目愛衣)
 モノリス
 灰かぶりの猫

 ミヤビ

 老人(時の賢者)

 エキストラの皆さん

 スタッフ

 企画      灰かぶりの猫
 プロデューサー 灰かぶりの猫
 原作・脚本   灰かぶりの猫
 『灰かぶりの猫の大あくび』(RPG編)(未出版)
 
 エンディングテーマ
 『あなたがいるから』
 作詞 小松未歩
 作曲 小松未歩
 編曲 池田大介
 レーベル GIZA studio
     
 監督
 ???
 製作著作
 灰かぶりの猫 


                            エピローグへ

#小説 #連載 #パロディ #メタフィクション #ゲーム #クロノトリガー #時の最果て #時の卵  緋色の帰還 #ヌゥ #ドッペル #WBC #筒香 #凱旋門賞 #オルフェーブル #吉本隆明 #鳥山明 #キャラクターデザイン #追悼 #魔王 #ノルシュティン・ベッケラー #時の賢者 #名探偵コナン #瞳の中の暗殺者 #小松未歩 #あなたがいるから #岩手  

















この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?