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【小説】「裏切るなら自分(仮)」#1(短編集『感情採集』より)

 ――本上日葵ほんじょうひまり(17)の場合。 

 あんたよくさ、涎にまみれた他人の言葉を鵜呑みにできるね。あ、そっか。分かった。舌の上で味わうことなく(そんなんありえないんだけど)、口に放り込んだ途端、口内をショートカットして、そのまま食道を通過させてるんだ。ほうほう、なるほどね。あれでしょ、ETCだ。昔はさ、昔って言ってもわたしがちっちゃな頃だから、まだ平成とかだったと思うけど、パパの運転で高速道の料金所だったかな、そこをさ、通過するとき、必ず止まってたんだよね。お金払うために。知らない? 後部座席の窓から、なんか電車の運転席みたいな箱の中にいる制服姿のおじさんの姿をよく見てた気がするけど、記憶の中ではみィんな同じ顔なんだよね。30代くらいで、まるで特徴のないのっぺりとした顔。なんでだろ。当時、すでにロボットが使われていたはずはないし、おかしいよね。記憶違い? 改竄? まあ、そうかも。それまでさ、ほぼ同じ速度で、重低音のような一定のリズムを枕に気持ちよぉく眠ってたのに、急に止まって景色が静止するもんだから、本能的に目が覚めるんだよね。いや、本能じゃないか。セットしたアラームの時間の前に目覚めるやつって言った方が分かりみある? で、なんだっけ。ツーカー(死語)の話だっけ。え、マリナが他人の言葉を信じすぎるから、あんた(わたし)が怒ってるんじゃないの? わたし怒ってる? 怒ってないよ。全然怒ってないってば。わたしはね、忠告してるの。チューじゃないよ、チュ、ウ、コ、ク。信じる者は馬鹿を見るって知らない? それがいくらさ、学校のアイドル(笑)、そりゃ、わたしもかっこいいとは露もほども思わなかったり思ったりしてるけど(白状)、そういうやつに限ってさ、歯の浮くようなセリフってどんなセリフかシランケド、口と性欲がイコールで結びついてるようなフロイトかぶればかりだからさ、マリナも気を付けなって言ってんの。やっぱり怒ってるって? だから、何度言えばいいのさ。怒ってないって。神に誓う。神はいないからハーゲンダッツに誓う。そんなに唯一無二の大親友のコトバが信じされないってんなら、確かめてこようか。わたしが直々に。そいつにさ。なに? タカナシくん? ああ、そうだった。めんごめんご。そいつ呼ばわりはいかんよね。こりゃまた失敬。ん? マリナ、なにわろとんねん。わたしの言葉がオカシイだって? それは誉め言葉だよ。まぁ、物珍しさと小遣い欲しさにパパと付き合ったら、そうなるよね。わたしゃインコかって感じだけど。行く? え、どこへ? じゃなくて、言ったじゃん。タカナシが本気なのか遊びなのか確かめようって。怖い? 何が? もし遊びだったらって? そん時は、命がないだけだよ。男としての命がね。ちょうどよくさ、握り潰しがいがあるじゃん。林檎は潰せないけど。やだよわたしだって。そんなことしたかないよ。マリナのためを思って言ってんじゃんか。わたしがそこまで言うならもう近づかないって? そう、そうだよ。それが一番だよ。やっと言葉が通じた。でも、向こうは近づいてくるよ。押し相撲だと思ってるから。だから絶対に同じ土俵で勝負しちゃダメ。もし戦うならこちらが有利な条件じゃないと。相手のプライドと鼻をボキッとへし折れるような、ね(ウインク)。

                               つづく

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