【米国株】テスラの自動運転に関する進捗は何を意味するか?
ここ数日のテスラ(ティッカー:TSLA)に関するニュースは目を見張るものがあります。中国でのFSD(完全自動運転)承認、大規模なAI投資やロボタクシー計画などを矢継ぎ早に発表し、一時点では年初来40%下落と低迷していた株価は、ここ1週間で35%ほど上昇しました。
テスラの最近の動きは業界にとって何を意味するのか、特に自動運転にフォーカスして考察を行いました。見えてくるのは、自動運転技術の覇権を巡る競争の激化と、テスラの革新的なアプローチです。
テスラは、大規模なAI投資と革新的なアプローチで他社を引き離そうとしています。一方、ウェイモ(グーグル)がロボタクシー実証実験を重ねている、モービルアイがフォルクスワーゲンと2026年にロボタクシーを量産予定、エヌビディアが自動運転開発用の包括プラットフォームを提供するなど、他社の取組も着実に進展しています。
テスラは、生成AIの技術革新と認知向上の流れに乗って、新しい思想で自動運転を開発しており、大きくそこに賭ける方針です。業界全体としてGPU計算パワーを競う流れになっているわけではなく、むしろ、テスラのアプローチが、他社の取る既存のアプローチよりも早く精度の高いものを作れるか、という勝負になっています。
テスラは過去の事故が当局による調査対象になっているものの、FSD beta V12でこの新しいアプローチによる製品化・精度向上を成功させており、また生成AIに見られたように、今後AIトレーニング規模を拡大することでの指数関数的な精度の向上も期待できます。
株価に関しても考察します。テスラは市場から高い期待を得ています。一方、モービルアイも市場からの一定の評価は得ており、現状はテスラは自社完結型のFSDによる長期的な成長を、モービルアイは完成車メーカー向けの量産進展を、それぞれ株式市場が織り込んでいると考えられます。
ただし、GM(クルーズ)の事例からは、一つの事故が自動運転への取組の縮小を余儀なくされるリスクも見えます。各社は安全性の確保を最優先課題として、慎重な開発姿勢が求められます。テスラの野心的な取り組みは、自動運転技術の発展を加速させ、業界全体に大きな影響を与えると期待されています。
自動運転技術をリードする主要各社の動向まとめ
テスラ
中国政府からFSD導入の暫定承認を取得
2024年4月28日、CEO イーロン・マスクが中国の李強首相と面会
中国テック大手Baidu(ティッカー:BIDU)と提携し、地図とナビゲーション提供を受ける
データセキュリティとプライバシーの要件も満たす
中国での自動運転システム承認は大きな前進であり、米中対立が深刻化する中、この成果はマスク氏のリーダーシップの強さを示すものと好感され、翌日のテスラ株価は+15%と3年ぶりの大幅高
全米道路交通安全局による新たな大規模調査
2024年4月26日、全米道路交通安全局テスラ「オートパイロット」に関するの新たな大規模調査を開始
2021年に開始された調査に対するテスラの2022年12月のリコール対応措置が十分であったかを評価するもの
リコール対応としてテスラはドライバーに注意を促すソフトウェアアップデートを実施したが、その後も事故が複数発生したため、NHTSAは対策の有効性を疑問視
対象は2012年から2024年に製造された200万台以上のテスラ車両
今年、100億ドルをAIに支出する計画
2024年4月28日、マスク氏のX(ツイッター)投稿:「今年合計100億ドルをAIトレーニングと推論に支出する。このレベルで支出し、効率的に行っていない企業は自動車業界で競争できない。」
FSD(正式にはハンズオン・視線オン)を米国で月額$99ドルで提供
米国で FSD Beta V12 の配信を開始。大幅なアップデートで性能の向上が報告されている
8月にロボタクシーに関する発表を行う予定
ウェイモ(グーグル(ティッカー:GOOGL))
ロボタクシーサービスの実証実験を重ねる
2024年4月25日の親会社アルファベット(グーグル)の最新決算発表にて、アルファベットのサンダー・ピチャイCEOは、ウェイモ事業についての成果を強調
サンフランシスコとフェニックスでの完全自動運転サービスの利用者数が増加しており、顧客満足度が高い
ロサンゼルスでも有料サービスを開始
オースティンでは乗客のみの走行をテストしている
モービルアイ(ティッカー:MBLY)
完成車メーカー向けに、自動運転・ロボタクシーソリューションを準備
SuperVision
ハンズオフ・視線オンの自動運転
現在200,000台以上が道路で稼働中
今後数年で大幅なスケーリングが見込まれる
Chauffeur
特定の運転領域で視線オフの自動運転
2026年に量産開始予定。消費者向け自動運転車での採用が決定
Drive
地理的に限定された区画内で無人自動運転
ロボタクシーなどの新ビジネスモデルに適用
2026年に量産開始予定。フォルクスワーゲンID.Buzz(ロボタクシー)で採用決定
多くの完成車メーカーとの既存の取引関係
エヌビディア(ティッカー:NVDA)
NVIDIA DRIVEプラットフォーム - 自動運転開発のためのシステムとソフトウェアを提供
データ収集、キュレーション、ラベリング
AI訓練
シミュレーションによる検証
自動運転車向けに、Orin、Thorといった高性能SoC(System-on-a-Chip)半導体
主要完成車メーカー(メルセデスベンツ、ボルボ、BYD、ルーシッド等)がNVIDIA DRIVEプラットフォームを活用し、自社の自動運転開発を行う
クルーズ(GM(ティッカー:GM))
2023年10月の事故(歩行者をはね20フィートほど引きずる事態)を受け、運行停止と大規模な人員削減を実施
GMは支出と計画を削減し、新型ロボタクシー生産中止
GMは自社開発のGM Super Cruiseを提供
高速道路の特定区間で、ドライバーがハンドルから手を離しての運転が可能
月額$15-25
フォード
高速道路の特定区間において、ハンズフリー運転を可能とするBlueCruiseを提供
月額$75
BlueCruiseの使用中に2件の死亡事故が報告されたため、現在NHTSAが調査を開始(対象は13万台)
要約すると、テスラは、中国での自動運転システム承認や大規模なAI投資計画など、自動運転技術において他社を引き離そうと意欲的に取り組んでいます。一方、ウェイモやモービルアイ、エヌビディアなどの競合他社も、ロボタクシーの実証実験や自動運転ソリューションの提供など着実に進展を見せています。
しかし、GMの事例が示すように、自動運転技術開発には大きなリスクが伴います。ひとつの事故が開発計画を大幅に後退させる可能性があり、各社は慎重に取り組む必要があります。
自動運転技術の覇権を巡る競争は激化しており、テスラによる大胆な投資と他社の着実な進展が、この分野の発展を加速させています。
テスラの時勢を捉えた革新的なアプローチ
テスラは、生成AIの技術的なブレークスルーとAIに対する消費者や投資家の高い関心を追い風に、自動運転技術の実現に向けて革新的なアプローチを追及しています。テスラは、カメラからのインプットを一つの大規模なAIモデルで一気に処理して車両の制御指令を出す構造をFSD beta V12で採用しました。
生成AIと同様に、学習データとAIモデルのパラメータが大きければ大きいほど精度が向上すると考えられます。テスラは、今期に100億ドルを投資する予定であり、この戦略のもと、他社を大きくリードすることを目指しています。
テスラは、カメラからのインプットを一つの大きなAIモデルで処理するアプローチこそが、スケーラブルな自動運転の解決策であると確信しています。現在のカメラとニューラルネットワークがヒトの視覚と同様に機能し、既存の道路システムに最適であると位置づけています。
一方、他社のアプローチは、パーセプション・ドライビングポリシー・コントロールといったモジュールに分けて、それぞれを順番に処理した結果として、車両の制御指令を出力するようになっています。他社は、深層学習を使用する場合でも、例えばパーセプション(環境認識)など特定の部分に限定し、各モジュール間にはロジックを組み込むようにしています。これにより、システムの説明可能性が確保されます。モービルアイは、当局の承認を得るためにはこの点が重要だと考えています。
また、他社のアプローチでは、冗長性、つまり複数のロジックによるチェックを重視しています。例えば、カメラ、レーダー、ライダーの分析から得られた結果を統合することで、二重のチェック機構を導入し、単一のパスによる判断を避けることを重視しています。これにより、精度の向上を目指しています。
テスラのアプローチについては、業界内でも議論があり、他社は必ずしもテスラに追随して大規模AIモデルのアプローチの採用、計算リソースの競争に参入する方針ではありません。モービルアイは、テスラのアプローチは、インプットから直接AIが処理を行い出力するため、ブラックボックス化し、それが当局の許可を得るハードルになる懸念がある、と指摘します。
しかし、テスラのモデルは、生成AIで見られるように、AIトレーニングの規模を大きくするほど指数関数的に精度が向上し、他社を大きく上回る可能性が高いとテスラは主張しています。テスラの野心的な取り組みは、自動運転技術の発展を加速させ、業界全体に大きな影響を与えると期待されています。
株価に何が織り込まれているか
2社の間でどちらに投資するか迷う方はあまりいないと思いますが、自動運転ピュアプレイの比較という意味で、テスラとモービルアイを取り上げ、期待に何が織り込まれているかを考察します。
テスラ
今期は減速するものの、2025年には成長軌道に戻ると予想
一方で2026年以降のFSD(完全自動運転)による更なる成長はまだ株価に織り込まれていない
現在のPERバリュエーションは高く、アナリストの予想以上の成長期待が株価に反映されている
モービルアイ
今期は業界の在庫調整で減収も、その後は高成長が見込まれている
SuperVision(運転支援)の回復と、Chauffeur(視線オフ)、Drive(ロボタクシー)の量産進展への期待が織り込まれている
一方、PERバリュエーションは将来の利益予想に対して低下傾向にあり、更なる成長期待は限定的
両社の株価には、自動運転技術の将来性への期待が大きく織り込まれていますが、事業モデルの違いからその内容には差異があるようです。テスラは自社完結型のFSDによる長期的な成長を、モービルアイは完成車メーカー向けの量産進展を、それぞれ株式市場が織り込んでいると考えられます。
まとめ
テスラは、中国でのFSD暫定承認、大規模なAI投資、ロボタクシー計画など、自動運転技術において他社を引き離そうと意欲的に取り組んでいます。一方、ウェイモ、モービルアイ、エヌビディアなども着実に進展しています。
テスラは生成AIの技術革新と認知向上の流れに乗って、新しい思想で自動運転を開発しており、大きく賭けています。業界全体でGPU計算パワーを競うのではなく、モービルアイが2026年にロボタクシーのソリューション量産への道筋をつける中、テスラが独自のアプローチにより早く精度の高いものを作れるかが勝負の分かれ目です。
テスラの野心的な取り組みは、自動運転技術の発展を加速させ、業界全体に大きな影響を与えると期待されていると同時に、既に「当たれば一人勝ち」という期待も、いくらか株価に織り込まれているように見えます。
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