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【ジャズ鑑賞】薄暗い密林の奥で猿人が立ち上がる/チャールス・ミンガス《直立猿人》

いま、私の手元に図書館で借りた『ジャズの名盤入門』(中山康樹、講談社新書、2005)がある。p.32で紹介されているのが、チャールス・ミンガスの《直立猿人》というアルバムである。紹介文には次のように書かれている。

「正しい初心者だけがジャズの真髄に近づける一枚」と。

不気味に迫る野生

さっそくYoutubeで聞いてみたのだが、いきなりドカンとやられてしまった。何だろう、この感じ・・・。そうだ、《ウルトラQのテーマ》に似ている、そう思った。暗がりの中から、何か不気味な存在がぬうっと現れてくる。その怪異、その生命、その原始。野生の荒々しさの奥底に眠る神秘が、ギラギラした眼光になって我々をじっと見つめてくる。

Jazzは一般的に怖いものだと思われているらしい。この本を読むまで知らなかったが、本来(?)は、ちょっと近づくのが怖いような音楽として、Jazzは認知されている(されていた?)とか。

だが中山は嘆いている。「怖くなく、聴きやすく、自分の都合に合わせてくれる”癒しジャズ”しか聴けないような体質をもった初心者が跋扈するようになった」と。

だからこの曲は、怖いもの見たさからJazzの世界という密林を覗いた初心者が聴くべき曲なのだろう。なるほどたしかに、これは驚くな。恐る恐る密林の中を覗いてみたら、何匹もの猿人が立ち上がって踊り狂っているのだから。この曲は恐ろしく、不気味で、明らかに自分とは違う「異質」という感じを与えてくる。

逃げ出したい気持ちを抑えて、猿人たちと踊ろう。恐怖に顔を強張らせながら、無理やりに笑顔を作ってぎこちなく踊ろう。火を囲って30分も踊っていれば、目覚めてくるであろう。かつて我々がアフリカにいた頃、純粋なる生命の喜びにただ突き動かされていた思い出が。


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