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オムライス日記2 物を大事に

 目指す形ではないが、昨日に比べると成長したと思う。ザ・二回目の挑戦、という感じの出来栄えになった。こんなに二日目感のあふれるオムライスは、なかなか作れないのではないか?(自惚れ)

 前回の反省を活かして今回は玉ねぎ・ベーコンを鍋で炒め、卵はフライパンで焼いた。これにより卵に一切の焦げ付きなく、美しい見た目(当社比)になった。しかし、それでもフライパンに卵が多少焼き付いてしまって、キレイなオムライスの形を作る事ができなかった。やはりフライパンに問題があるのか?買い換えた方がいいのか?オムライスを作るにはちょっと大きすぎるし……。いや、しばらくはこのフライパンでいこう。手入れをしっかりしなければ……。


 物を大事にするということについて、思いだすだけで頭が痛くなるような思い出がある。

 いろいろあって、親戚のおばさん家の軽自動車を譲り受けた。面倒な手続きに1~2か月が過ぎ、いよいよ車を受け取る段になった。

 駐車場から車を出そうとして、誤って車を駐車場の柱にぶつけてしまった。しかも、かなり盛大に。フロントバンパーは割とガッツリ凹み、僕のドライブ初日は最悪のスタートダッシュを切った。

 その親戚のおばさんはというと、車や柱なんかより、僕のことを心配して、ついにはオロオロと泣き出してしまった。本当に大丈夫?事故せず無事に帰れる?と、涙ながらに何度も何度も心配するおばさんに僕は、大丈夫、大丈夫だからと、精一杯の笑顔でなだめすかすしかなかった。ようやくおばさん家を後にし、おっかなびっくり運転して、やっと自分のアパートに帰った。

 やれやれ、とほっと一息ついて無事に帰宅した旨をおばさんに伝え、両親にも車を受け取ったことをLINEした。柱にぶつけてしまっていきなり凹ませてしまった~、なんて言いながら。

 直後、母親から電話がかかってきた。
「柱にぶつけたとか書いてあるけど、何これ?」
「あんた、すぐにおばさんに謝ったの?」
その一言で僕の顔は一気に青ざめ、心臓が荒縄できつく巻かれたように苦しくなった。両方の掌を固く握りしめていた。

 そこからの母の言葉は、もう思い出したくもない。最初の一言ですべて気付いた僕は、とめどない後悔と反省の念でいっぱいになった。だが母の叱責はやまない。電話越し、というせいもあるのだろうか。僕の気持ちを知ってか知らずか、電話の向こうの母は厳しく僕を追い詰め続けた。

 自分が100%悪いのだから、どれだけ怒られても言い訳はすまい、と僕は覚悟していた。だがあまりにも母の叱責がしつこく、しまいには浴槽から水があふれだすようにして、僕の我慢は限界を超えてしまった。けれど、精一杯自己弁護したところで自分が100%悪いことは最初から決まっている。結局はますます母の不信感を募らせるばかり。より一層の反論に、ひたすらに叩きのめされただけであった。

 電話が切れた瞬間、自分の心の糸もぷっつりとキレた。僕は怒りと後悔とをごたまぜにして、犬の唸り声のような叫びをあげながら、机を思いっきり殴りつけた。がしゃあん!!というすさまじい音がした。衝撃で机の上に置いてあったテレビのリモコンは飛び上がって床に落ちた。殴った拳のヒリヒリとした感覚すらも憎くて、もう一回、さらにもう一回殴った。布団を蹴り飛ばし、枕を殴り、あとはただひたすらうずくまってうめき声をあげるだけの動物になった。

 その日の夜は、なんと夢の中でも母に叱られた。苛立ちで目が覚め、起きた瞬間、枕元にあった目覚まし時計をぶん投げた。

 日が昇り、空の青さがだんだんと染みわたっていくのに合わせて、僕の心も落ち着きを取り戻していった。おばさんには電話で深々と謝った。幸い、柱には傷一つついていなかったそうだ。何度も何度も苦しそうに謝る僕に対しておばさんは、そんなに謝られたらかえって恐縮だと言い、優しく慰めてくれた。実際本当に苦しかったから、おばさんの優しさが何よりありがたかった。

 母にもLINEで事の次第を伝えた。「何か事故を起こした時には済まされないのだ」というようなことを言われて、ようやく僕もハッとさせられた。親戚の家の、駐車場の柱で良かったようなものの、これがもし他人の物だったら?公共物だったら?あるいは人間だったら?逆ギレするような余地など、一切ないのである。


 人も、物も、大切にしなければいけない。広く捉えれば自分の身の回りの物は、何一つ本当の意味で自分のものではないのだ。このアパートの部屋は借り物。車は譲り受けた物。金は天下の回り物で、あらゆるものはいつか過ぎ去っていく物に過ぎない。ただ一つ一つの経験や、そこから得られた学び、それに込められた思い出だけが、自分の物として心に残る。

 僕は、他者の物を大事にできているだろうか?そして、同じように自分の物である経験や学び、思い出を大切に残せているだろうか?それはこれからも、真剣に考え続けなければならない。

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