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高級ノズル[kaika]を使う前の下準備を語る

 テクダイヤの3Dプリンター用耐摩耗高級ノズル「kaikaS」がついに発売。すでに手元に届いているユーザーも多く、これから利用例などがネットに公開されはじめていくことだろう。今回はそんな購入ノズルを使う前の下準備について書こうと思う。前回の記事は以下から参照してほしい。

 なお以下の手順は必須という話ではなく、あくまで個人的な観点から行っていくものであることを先に伝えておく。

ノズルを脱脂する

 これから行う下準備のための下準備となる。よく分からないだろうが、個人的にはとても大切なことだと考えている。「kaika」シリーズはノズル本体が専用ケースに格納された状態で届く。この時、何も考えずに取り出すと「素手」で直接触ることとなり「皮脂」がノズル表面に付着してしまう。

kaikaシリーズの専用ケース

 3Dプリンターに限らず皮脂は災いの元だ。付いているよりは付いていないほうが「better than」なのは間違いない。そのため最初の工程はノズルの脱脂だ。

 ノズルの脱脂にはパーツクリーナーや無水エタノールを使う。個人的なおすすめは無水エタノール。無水エタノールはビルドボードの清掃/脱脂にも使えるため3Dプリンターを所有しているのであれば1本は所有しておきたい。Amazonや近くのドラッグストアで買えるだろう。

 合わせて拭き取り用にキムワイプを用意したい。普通のティシューでも良いが精密なノズルに繊維ゴミが付着しても困る。研究や検査、工業分野で定番となっている拭き取り専門アイテムの力を借りられるのであれば借りよう。

 道具が揃ったら拭き上げだ。キムワイプを無水エタノールで湿らせたら、ノズルを拭く。ノズルに皮脂がつかないようピンセットなどで固定しよう。拭き上げはネジ部以外の露出する部分を中心に行う。脱脂できたら次の工程だ。

ピンセットより左下部分を拭き上げるイメージ

ノズルをコーティングする

 本題となる。ノズルを脱脂した理由はコーティングを行うためだ。3Dプリンターでフィラメントを吐出、造形しているとどうしてもフィラメントのカスがノズルに付着して汚れてしまう。また粘性の高いPETGのようなフィラメントではどうしてもノズル本体に固着してしまい「Blob」と呼ばれる塊が出来てしまう。この塊が造形品質を低下させてしまう。対策しておきたい。

 ノズルのBlob対策は一般的にコーティングを行う。有名所ではスライスエンジニアリング社のPlastic Repellent Paint™(PRP)だろう。汎用的なところではファインケミカルジャパン社の耐熱TFEコートだろうか?いずれもフッ素樹脂でノズル表面を覆うことで溶けたフィラメントを撥水して弾き、ノズルに残留させない効果を得られる。

 塗りやすさ、扱いやすさではスライスエンジニアリング社のPRPが勝るのだが、値段に対する容量の少なさが気になるところ。一方でファインケミカルジャパンの耐熱TFEコートは取り回し悪さに加えて容量が多すぎる点が課題だ。どちらも効果があることを確認しているので好きな方を選ぼう。

コーティングの手順

 コーティングの大まかな手順は以下の通りとなる。PRPと耐熱TFEコートでは案内されている手順が異なるもののフッ素樹脂コーティングという面で考えれば以下の手順で概ね問題はない。

  1. コーティング剤を塗布する

  2. 自然乾燥させる(数分から十数分待つ)

  3. 200度の温度で20分焼き付ける

  4. 1〜3の工程を数度繰り返す

  5. 1日待つ(とても大切!)

 なお先に書いておくがフッ素樹脂の定着には24時間ほど掛かる。焼き付け工程を経ることで定着が進むものの、安定化させるためにコーティング処理から24時間は3Dプリンターで利用しないようにしよう。熟成が大切だ。

細かなポイント

 上記工程の中でいくつかポイントとなることがあるので参考にしてほしい。

  • 耐熱TFEコーㇳを直接吹き付けない
    絶対にスプレーを直接吹き付けてはいけない。ノズルという小さなパーツにスプレー噴霧は供給過多になる。スプレー缶をよく振って中身を撹拌した後、紙コップなどに噴霧。コップの底に少し溜まったコーティング剤を綿棒などで塗布するだけでよい。

  • 熱い状態のノズルに塗布しない
    焼き付けの工程後に塗布を行う工程に戻るのだが、この時に高温状態のノズルに直接塗布してはいけない。定着する前に乾燥してフッ素樹脂が霧散してしまう。時間は掛かるが自然冷却された後で塗るように心がけよう。

  • 3回ほど繰り返したほうが良い
    1回の塗布〜焼き付けでは十分な効果が得られないため数度繰り返しコーティングしたほうが良い。個人的な経験では3回ほど塗布〜焼き付けを繰り返すことで十分な効果が得られている。

  • 本当に24時間待とう
    今回のコーティングに関わらずフッ素樹脂を取り扱う場合は24時間待つ工程を挟んだほうが良い。定着のレベルが変わる。すぐ使いたい気持ちをグッとこらえて耐え忍ぼう。

  • 効果は永続しない
    コーティング効果は当たり前だが永続しない。定期的なメンテナンスが必要となる。またコーティングを施したからといって汚れなくなるわけではない。小さなフィラメントカスなどが付着することはあるため、定期的な清掃は忘れずに行おう。その時に再コーティングしても良い。

最後に

 ノズルの清掃とコーティングは人によって意見がマチマチだ。効果がないという人もいれば、効果を実感できているという人もいる。これは使っているフィラメントやコーティングの方法、ノズルの利用方法による差もあるだろう。

 ただ多くの場合に事前の脱脂など「コーティングするための下準備」を行っていないケースが見られる。もし本記事を見てコーティングに興味が湧いたのであればコーティング前に脱脂することを覚えておいてほしい。塗装や定着といった言葉が使われる工程に脱脂は絶対必要なのだから。


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