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「謎の人物からの通信」SFショートショート


2035年、謎の人物からの通信が全世界の首脳たちに届いた。

「私はもう一つの宇宙の地球人である。私たちは、あなた達の少し先の未来を生きている」

その通信に、各国の対応は様々であった。無視する国もあれば、しっかりと国家対策委員会をたてて話を聞く国もあった。その話を聞く国の1つが日本であった。古くから議員として活躍している人々は、あまりこの通信を気にしない様子だったが、SNS等を早くから利用してきた世代からすると、この通信は逃したくないチャンスだと思ったからだ。

なぜなら、ずっと日本の少子高齢化とデフレに悩まされ、もうにっちもさっちもいかない状況に2020年代ごろから対峙していた若い議員にしてみると、もうこの機会を逃すと、日本復興の希望がないように思えたからだ。

日本の大臣達は、すぐさまその謎の通信の人物に連絡をした。そこで分かったのは、もう一つの宇宙の地球人は、パラレルワールドのようではあるが、どうもそれとは違う要素があった。
過去が似ている、というよりほとんど同じ過去なのである。
人類の起源、大きな戦争、言語、また昨今の情報化社会とSNSの普及や、各デバイスの製造メーカーの名前まで同じなのだ。
そして、少し先の未来を生きていると言うのは、おおよそ10年くらい先を生きているのだろうか、各国の情勢の変化について聞くと、少し変化はあるものの、そこまで今までと変わりない10年が続くらしいのだ。ただ、今から2年後の2037年に恐ろしいことが起こるということだけが伝えられた。

この首脳達だけが知り得ることの出来る情報は、さすが情報化社会ともいえようか、社会全体、厳密に言うと、SNSで情報として出回ってしまっていた。
そのため、2037年に起こる出来事と、そこへの恐怖心が社会全体で膨らみ、各国の首脳はその社会全体の意思も汲んで、この謎の通信の人物と向き合わなければならなかった。

恐ろしい事について、謎の人物はこう言った。
「2037年に宇宙人が侵略してくる。地球人はその宇宙人との戦いにおいて、最終的にはその宇宙人を撃退し追い返したものの、地球の約半数の人間が死に、約3分の1の地域が人間の住めなくなる場所になる。だからそれを防ぐために私は、あなた達へ連絡したのだ。」

人々は、宇宙人の脅威に怯えると共に、どうやって撃退することが出来たのか知る事に必死だった。

謎の人物の回答はこうだった。
「宇宙人は、塩水に弱いようである。塩分に含まれるミネラルがなんらかの作用により宇宙人の皮膚を破壊し、それによってなんとか撃退することができた。ただ、粉末の塩ではいけない。粉末の塩であれば、効果がないのだ。塩水を作れればいいのだが、難しいのなら、海水でもいいだろう。私たちは陸地の中央に追い詰められ、海水へアクセスすることが出来なかった。そのために大きな被害が出た。」

世界中の首脳達はそれを聞き、すぐに動いた。
社会全体も、この通信に信頼を置いており、この謎の人物の言うことを聞くべきだと言う世論もあり、世界中が動いた。
どの場所にでも海水をかけることが出来る設備が整えられていった。
全世界に配置するのだから、設備を整えるにあたり、多くの人々が雇用された。その雇用の増加のせいか、多くの国が今までの経済状況から逃れ、特に2036年は景気が良く、人々が来年来るとされる宇宙人に怯えながらも、幸せな表情で過ごしていた。2037年の始まりも、設備を整えた安心と、この景気の良さが、人々の頼りだった。

そしてついにその時がやってきた。
宇宙人の襲来である。
それと同時に各国の海水を撒く装置が作動する。
大きな音と共に、地球全体が海水で覆われて、宇宙からみると地球は、水の惑星そのものであった。

人々は海水に濡れながらも、どこか安心していた。

しかし、様子がおかしい。宇宙人と思われる生き物達は、全く海水の効果なく進行してくる。

様子がおかしいのは他にもあった。
塩水に弱いはずの宇宙人が、次々と海から現れるではないか。
地球の人々は、抵抗する事もできず、次々にその命が空に向かっていった。


謎の人物
「この装置のおかげで、私ども海底人の侵略が楽になった。」

海水が埋め尽くす世界では、ついに地上がなくなり、全てが海となっていった。

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