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「宇宙人のソテー」SFショートショート


地球の人口がどんどんと増え、人々は食糧危機に悩まされた。
食糧危機は世界を覆い、飢餓で亡くなる人も随分と増えた。

そんな危機の最中、空から大きな宇宙船が地球に着陸した。

人々は宇宙人の襲来よりも、食糧のことで頭がいっぱいだった。

地球に降り立った宇宙人は、その状況を把握したのか、すぐに料理を作り始めた。そして無料で配り始めた。

宇宙人は様々なソテーを作った。

原料は宇宙のものなので、正確には分からなかったが、人々は無料で振る舞われる宇宙料理に喜び、長蛇の列ができた。

貪るように宇宙人のソテーを食べる地球の人々。

各国の政府も、大金を払い、また宇宙人の提示した内容の分からない署名にもサインし、とにかく自国の国民の食事の確保に努めた。

無料で食事を配ってくれる宇宙人は、どんどん宇宙船を地球に着陸させ、各国がその料理をもとに回復していった。

各国が食糧危機の悩みから解放された事で、それぞれの国は栄えていき、飢餓で亡くなる人もほとんどいなくなった。

人々が体も、そして心も満たされた。

宇宙人が来てから5年、地球の人口は以前よりも増加しており、豊かな世界となっていた。


その時、今まで料理を振る舞っていた宇宙人が、数千人の地球の人間を殺し始めた。

殺し方は銃や爆弾ではなく、特殊な光線を当てて、瞬く間に人の命が奪われた。
そして、大きな宇宙船にそのまま死体は回収され、人の手に戻ることはなかった。

それに対し各国の人々は激怒した。
しかし宇宙人は、地球の人もわかる言語でこう提示してきた。


「あなた達は、私たちの食糧になると契約したはずである。あなた方の食べていた料理も、他の星の、地球で言うヒトである。」

それを聞いた各国の人々は、様々な行動をした。

宇宙人からの食事を受け付けず、そのまま飢餓していく者。
罪悪感から自殺してしまう者。
地球に住む人を殺せば食糧が手に入ると分かり、簡単に殺しを始める者。
もう倫理観など世界には存在しなかった。

全く新しい価値観に遭遇した時、
人々はそれに飲まれるか、拒絶し命を捨てるほかなかった。

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