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卒業論文を提出したのでその体験と感想

大学卒業における最後の関門。それが卒業論文です。

先日無事に教育学部の卒業が確定したので、卒論を書いた流れと感じたことを振り返りたいと思います。主には自分の修論執筆に向けた振り返りですが、教育学部ではない別の学部・大学の人にとっても「この人はこんな感じで卒論書いたんか〜」という参考になれば嬉しいです。


はじめに

読むにあたって:特に文字数について

初めて卒論に取り組むにあたり、最大の心配事はやはり文字数だと思います。自分の学部の基準は、800字詰の用紙25枚、すなわち2万字以内です(ただし表紙や目次、脚注、参考文献一覧等は除く)。学部や研究室によっては、調べてきたことをいっぱい文章にまとめれば卒業論文の単位が出るらしいとも聞きますが、多くの学生にとっては講義で提出してきたレポートよりも分量が多く、不安だと思います。しかしながら、文字やページの埋まりやすさは

  • 分野・テーマによる:例えば実験を行う場合は、その方法やデータの解釈などを説明するパートが必要。テーマによっては、本文で扱うべき図表を挿入することもある

  • 文章の情報密度にもよる:報告書や資料の地の文を引用する場合は、文字数は必然と増えるし、一文に1引用文献くらいの勢いで書く場合、多くの文献に目を通さなければ文章は進まない

ので、負担感を判断するには微妙な基準だというのが自分の感想です。卒論の負担感をイメージする際は、文字数云々よりも所属するゼミの先輩のものを見る方がはるかに大事な気がします。

卒論で行ったこと

学校教育の理論と実践について研究する教育方法学研究室に所属しています。卒論では、東京大学の研究グループが提起した知識構成型ジグソー法(Knowledge Construtive Jigsaw、長いので以下KCJと表記)という授業法について調べました。

KCJはグループ学習の形態をとる授業法で、アクティブ・ラーニングの手法としても紹介されることが多いです。アクティブ・ラーニングについては「日米におけるアクティブ・ラーニング論の成立と展開」という論文で概説されていて、一律に指導方法を定めることによる教師の専門性への影響と、外面的な活動がアクティブであることのみが求められ、学習の質を問う視点がないことが問題点として指摘されています。上記の2点がKCJで克服されていることを論証するために、研究グループの中心人物である三宅なほみの文献や研究を跡付けること(文献研究)が卒論の内容でした。

スケジュール

ゼミでは3回生の前期・後期に構想発表が1回ずつ、4回生になると前期・後期で発表が2回あるので、発表の時期が来たらとりあえずそれっぽい内容が話せるように調べる、を繰り返していました。発表がペースメーカーの役割を果たしていて、自分の進み具合の把握や、直前期にそれほど慌てなくて済んだ点でとてもありがたかったです(これだけ体制が整っている研究室は、学部では珍しい印象)。以下、大まかなスケジュールと各時期の所感です。

3回生後期:テーマを選ぶ

3回生の終わりには研究対象について見通しを立て、4回生になったら研究を進める、というのが方法研で卒論を書く人の大まかな流れでした。これは学部の中でも結構早いと思いますが、外部から大学院に入ってきた人は3回生の秋学期から研究を始めたと言っていたので、(いわゆる文系学部で)大学院進学を考えている人はこの時期から卒業研究に着手できていると良さそうです。

11月にゼミで構想発表があったので、10月から研究対象を探すために色々本を読んでいました。当時、教育工学と認知心理学に興味があったので、
それらの教科書を読みながら関連しそうなテーマを探す
→「協調学習」というキーワードを見つける
→さらに調べてKCJを見つける
→三宅の研究史をJSTAGEで見つけ、面白そうだったので卒論の対象にする
という感じで研究対象を選びました。研究をする上で、テーマ選択は重要で難しいポイントの一つですが、自分の興味・関心から絞りつつ、実際に少し調べてみて掘り下げられそうだと感じた(例えば、調べていて自分が面白いと思える、あまり知られていない内容が多い)トピックにするのが良いと思います。

修士を目指す場合、テーマの「大きさ」についても念頭に置くべきかもしれません。ここでいう「大きさ」とは、対象を調べる中で浮かび上がる論点やその背後にある研究の厚みをイメージしています。対象が小さいと調べても面白い研究が出なかったり、逆に凄い研究者・テーマを対象にとると研究が広すぎて論文にまとめきれなかったりします。修士・博士を見据えている場合、卒論(又は修論)ではテーマの一部分を取り上げ、以降の研究でより広い射程から扱うという進め方もあります。このようなサイズ感を掴む上でも、ゼミの先輩・先生からアドバイスをもらうことが大事になります。

4回生前期

研究の進め方が分からなくて困っていた時期です。分からないことは色々ありましたが、中でも先行研究とはどういうものか、どこから探せば良いのかが分かっていませんでした(三宅やKCJをキーワードに論文を探しても満足するものがあまり見つからなかった)。

今から振り返るに、この時期(というか12月に入るまで)はそもそも論文がどういうものなのかをしっかりイメージできていませんでした。論文では問い(論点)とそれに対する主張があり、その主張を支えるために論証が重ねられます。この構造が分かっていなかったので、適当なリサーチクエスチョンを立てられず、その問いに沿った先行研究の検討が出来ていませんでした(実際は問いがあるから先行研究の範囲がはっきりする、という順だけではなく、関連した文献を読むことで問いが明確になり、結果として先行研究の中に入ることもある。自分は後者だった)。

そして、論文の構造を考える上で非常に重要なのが、その出発点となるリサーチクエスチョンの設定、特に論証できる射程から問いを立てることです。論証できる射程とは、例えば「理想的な教育とは何か?」みたいな遠大な問題ではなく、「この授業法の特質はどこか?」といったはっきり答えを出せる部分から問いを立てていこうという指針です。問いの射程範囲については、ゼミの先生が砂時計で例えていて、自分の興味や研究関心といった間口の広い問いから入り、論文に出来る範囲まで対象を絞って丁寧に論証することで、元々の関心に対しても指針が得られる、と言っていたのが印象に残っています。

イメージ図

4回生後期

前期2回目の発表の内容から、卒論の1章が出来上がりました。後期1回目の発表では、前回までの分から飛躍があるとコメントを受け、その飛躍を埋めるための内容を後期2回目の発表で検討しました。これらはそれぞれ卒論の3章、2章の一部分になりました。

ちなみに後期1回目は院試の2日後、後期2回目はNFの前日でした。キツかった。

1ヶ月前〜提出まで

NFが終わり、一息ついた12月から最後の追い込みです。卒業論文完成に向けて本腰を入れるこの期間は、就職する人にとっても自分の仕事の取り組み方に擬似的に向き合う良い機会になると思います。なぜなら卒業論文は内容的にも精神的にも負荷のある作業で、なおかつ厳しい締切があるからです。このような作業への取り組み方として、コツコツ計画的にやるタイプと期日前に一気に片付けようとするタイプの2タイプが考えられます。卒業論文は、言うまでもないですが、後者のような追い込みタイプには不向きです。

期日前のやる気でなんとか課題をやろうとする追い込みタイプの図

追い込みタイプのやる気と課題の時間経過は、経験的に上のようなグラフになることが多いイメージです。自分も締切前にブチ上がったやる気で課題をこなしがちな追い込みタイプの人間ですが、このタイプは「そろそろマズい」という危機感知が上手く機能しなかったときや、課題の内容が重いときに詰んでしまうおそれがあります。このような人間が、卒論のような締切ありの高負荷タスクをこなす場合、

  • 課題の心理的ハードルを下げられるような習慣づけ(決まった時間に論文を読む、など)

  • 強制力のある締切(ゼミの先輩への原稿確認、など)を計画的に、定期的に設定する

といった工夫を考え、実行する必要があると思いました。

とはいっても、発表のおかげでこの時点で15000字くらいのレジュメがある状態なので、周囲よりも心の余裕があります。と思っていると、想像より筆が進まなくなるので注意です。文章作成には、主に

  1. 知る:本を読んだり、経験を得たりすることで知識を蓄える

  2. 考える:1の内容から書きたいものの構成を考える

  3. 書く:2を元に文章化する

という3つのパートがあると思います。そして、3が結構しんどい。思いつくだけでも

  • ある文献ではAという語を使っているが、別の文献では同じ内容にBという語を使っているとき、どちらの語を選ぶか(単語選び)

  • 意識せずに情報を詰め込んでいくと一文が冗長になる。読みやすいリズムを考えて適度に文を区切ったり、内容の優先度を考えて言葉を削る場面が生じる(文のバランス)

  • そうして考えた文章をまた読み直すと、一文目と次の文に飛躍があるのでつなぎが必要だったり、順序を入れ替えた方が良さそうな場面が生じる(段落単位でのバランス)

  • 考えていた内容は文章を書く中でも変化する。どのタイミングで完成にするか(区切りのタイミング)

など、考えることが多くあり、個人的に苦手なパートです。しかしながら、同期や院生を見ていても同じように苦労してそうなので、結局はひたすら頑張るしかなさそうな印象です。たくさん読む、たくさん書く、慣れる、という感じでしょうか(厳しい…)。

そんな感じで12月下旬に初稿を完成させました。この段階ではリサーチクエスチョンがはっきり固まっていませんでしたが、先生方のフィードバックを受けて方針が定まり、追加で必要な考察を年末に追加しました。途中でM1を見たり、学部棟で紅白歌合戦を見たりとダラダラしてしまったものの(反省…)、なんとか締切1日前に提出しました。

口頭試問

1月上旬に卒論を提出し、1ヶ月くらい経つと卒論の口頭試問があります。大学院入試の面接でかなりしどろもどろになってしまったので、そのリベンジをするつもりで準備して臨みました。聞かれたこととしては

  • 論文でやったこと、要約

  • 研究テーマの意義と課題

  • 主要トピック(や細かい項目)についても説明できるか

  • ゼミに所属しているなら気にしておきたい側面からの質問(方法研の場合は、理論だけでなく実践を見ているか)

これに加えて(大学院に行く人だけかもしれないですが)

  • 論文の面白い部分

  • 大学院での研究との関連

  • 別の視点(他の学問分野など)から同じ対象を見たときにどのように論じることができるか

といった質問を受けました。論文を読んでいるときにこういうことを考えていたんだな〜というのが分かり、かなり勉強になりました。

おわりに

卒論の提出稿について、博士課程の人から「各章や節の内容がオムニバス的だったので、それらの内容が大元の問いへとレンズを絞るような形で展開できるとさらに良いですね」というコメントを頂きました。その辺りの論理展開も意識することが、修論での目標の一つです。2年間はあっという間だと思うので、色々な知識を吸収して、後悔が残らないような修士生活にしたいと思います。

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