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「ザリガニ、サッカーW杯へ出征」

【ホット検索ワードから見る中国 vol.3】

中国版Twitter“微博(ウェイボー)”で話題になっているホット検索ワード“热搜(rè sōu)”をもとに、「中国の今」を紹介していきます。

今回のホット検索ワード
「小龙虾出征世界杯(ザリガニ、W杯へ出征)」

4年に1度のW杯、日本のお隣、中国でも大変盛り上がっています。しかし、肝心の中国のチームは不参加。その代わりに、多くのサッカーファン、中国の広告会社、そして「ザリガニ」がロシアへと乗り込んで行きました。

なぜ「ザリガニ」なのか?「ザリガニ」と言えば、小学生の頃、川で捕まえたり、学校で育てたりした思い出があるひとも多いはず。しかし、中国人にとっての「ザリガニ」は少し違います。今回は、「小龙虾出征世界杯(ザリガニ、W杯へ出征)」というキーワードを元に、中国のW杯文化をお伝えしたいと思います。

サッカー観戦 お供の定番は…

サッカーを見るときは、やはりお供が欲しくなると思います。日本の定番はビールとおつまみ類ですが、中国の定番はなんと「ザリガニ」。「ザリガニって臭みがありそう…」とか、「食中毒になりそう」と思われる方も多いと思います。しかし、実際は養殖されたものであり、キレイに洗われ、泥抜きがされた上で味付けされているので、心配はありません(と思います)。
味も、エビや蟹と比べ、磯臭さが少ないうえに、大量の唐辛子とニンニクと一緒になり旨味が倍増しているのでとっても美味しいのです。

特に、夏の暑い日にビールと一緒に食べればまさに最強タッグ。中国の夏のグルメで、彼らの上に立つものはいないのです。

(凤凰网より)

さて、ここでホットワードに戻ります。「小龙虾出征世界杯(ザリガニ、W杯へ出征)」、文字の如く、10万匹のザリガニがロシアに運ばれて行きました。目的は世界各国の人に中国のグルメを味わってもらうこと。つまり、世界中の人たちが集まるW杯の地で、中国のザリガニを宣伝するという魂胆。商魂たくましい中国らしい戦法ですが、結局はW杯を見に行った中国人観光客によって食べられたのではないかという話も。

(梨视频より)

W杯に合わせて、外にテレビやスクリーンを設置する店も増えました。日本では著作権の関係で、契約を結んだスポーツバー以外は大きなスクリーンで放送するのはNGです。しかし、中国の場合、それを違法とみなしていないため、街のいたるところでW杯が放送されています。

(台州酷车小镇より)

クーラーが効いた室内で、出前でとったピザやフライドチキンを食べながらの観戦も悪くないですが、蒸し暑い屋外で、出来立ての料理をつまみに、酒を飲みながら、見知らぬ人たちと一緒にサッカーを観戦するのもとっても気持ちがいいものです。

「次は何を買うの?」「墓地。」

たくさんの中国人が熱狂しているW杯ですが、全ての人が純粋なサッカーファンというわけではないようです。「1/3はサッカー観戦に夢中、1/3はサッカー賭博に夢中、残りの1/3は賭博に一喜一憂する人々の観戦に夢中」と言われるように、賭けに夢中になっているひとも多いのです。

中国で唯一、合法とされる賭博「体育彩票(スポーツ宝くじ)」。このW杯シーズンは普段に比べ、購入者が何倍にも増え、7月1日までの販売額は4770億円にのぼったそうです。4年前に比べ、ネット決済が普及している現在、街中の窓口だけでなく、スマホでも宝くじが購入できるようになりました。それもあり、前回のW杯と比べても2倍以上の売り上げに。

しかし、W杯が開幕してから数日で、ネット決済が一斉に禁止されることになったのです。

波乱のW杯予選。前回王者のドイツの敗退、日本の快進撃等々、
人々の予想を裏切る展開に、多くの人が一喜一憂しました。

この大波乱、多くのスポーツ宝くじ購入者には「憂」と出たよう。ドイツがメキシコに負けた夜、結果に絶望した多くの人が「どこから飛び降りたらいいんだろう」と言い出す始末。そんな状況を見た警察は、こんなツイートを。

「警察からのお知らせ:ドイツサポーターの皆さん、冷静になってください。まだ1試合目です。感情的にならず、飛び降りなんてやめて下さい。まだ2試合残されています。」

“ただの冗談でしょう”と思う人もいるかもしれません。しかし本当に、前回のW杯では、賭博に負けて飛び降り自殺した人が何人もいたそうです。

今回は、特に電子決済により自分の支払い能力を超えて宝くじを購入する人も増加。その上、毎試合波乱の連続。この状況を見た政府は、ネット上での宝くじ購入を禁止にしたのです。

「次の試合は何を買うの?(どこに賭けるの?)」「墓地」(挖卡惠生活・百家号より)

サッカー中国代表以外はみんなロシアへ

W杯を観戦している時に気づいた人も多いと思いますが、今回のW杯では、たくさんの中国企業が広告を出しています。中国が今回出した広告料は、アメリカやロシアの会社を超え、世界1位となっています。

そんな状況に、「W杯に行っていないのは、中国代表チームだけだ」という皮肉まで生まれました。多くの会社が広告を出し、多くのサッカーファンが現地まで観戦しに行き、中国のグルメ・ザリガニまでロシアに行ったのに、肝心のチームは中国に残ったまま。なんとも悲しい皮肉です。

国外のみならず、国内でもW杯に関連した広告がたくさん見られました。

特に話題を呼んだのは、アルゼンチン代表のメッシを起用した蒙牛(乳製品会社)、ブラジル代表のネイマールを起用したOPPO(携帯会社)、ポルトガル代表のクリスティアーノ・ロナウドを起用したWEY(自動車会社)の3つ。

話題になった理由は、単に各国のスターを起用したからではありません。

予選が始まったばかりの時、多くのサッカーファンの期待に反して、彼らの活躍を見ることがあまりできませんでした。その状況を見たファンたちが、中国で放送されている広告の内容と絡めて、文句を言い始めたのです。

(腾讯视频より 蒙牛の広告)

「メッシは蒙牛の広告で、寝転がってるから活躍できないんだ」

「ネイマールは広告で美女を追いかけてばかりで、サッカーに集中できないんだ」(美女に扮した新発売のVIVOの携帯を追いかけるという内容の広告)

など、痛烈な文句がネット上に相次ぎました。

そんななか順当に活躍を見せていたのが、クリスティアーノ・ロナウド。クールに決まった広告には、「从全力到胜利(全力から勝利へ)」「从优秀到领袖(優秀からリーダーへ)」とかっこいい広告文句がずらり。

(WEYの広告)

この状況を見た人たちは、「広告がかっこよく決まっている人は、サッカーでも活躍している!」と言い出し、これらの広告がさらに話題になりました。

中国代表が参加していなくとも、色んなところに商機、面白さを見出し、コンテンツを生み出していく中国。強化の出場枠が増えると言われている2022年のW杯には、中国代表も出場しているかもしれません。

変化のスピードがとても速い中国。4年後の中国にはどんなW杯コンテンツが登場しているのか、どんな姿が見られるのか、今から楽しみです。

(記事作成 竹内亮 石川優珠)

竹内亮
ドキュメンタリー監督 番組プロデューサー (株)ワノユメ代表

2005年にディレクターデビュー。以来、NHK「長江 天と地の大紀行」「世界遺産」、テレビ東京「未来世紀ジパング」などで、中国関連のドキュメンタリーを作り続ける。2013年、中国人の妻と共に中国·南京市に移住し、番組制作会社ワノユメを設立。2015年、中国最大手の動画サイトで、日本文化を紹介するドキュメンタリー紀行番組「我住在这里的理由」の放送を開始し、2年半で再生回数が3億回を突破。中国最大のSNS・微博(ウェイボー)で「2017年・影響力のある十大旅行番組」に選ばれる。番組を通して日本人と中国人の「庶民の生活」を描き、「面白いリアルな日本・中国」を日中の若い人に伝えていきたいと考えている。