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21 「完全呼吸」への道

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 今まで呼吸法について書いてきましたが、少しまとめてみましょう。腹式呼吸は管楽器の演奏にとても役立ちますので、ここで確認をします。

腹式呼吸

 腹式呼吸とは、吸気時に横隔膜が下降して腹部が膨らみ、呼気時に横隔膜が上昇して空気を押し出す呼吸法のことです。腹式呼吸を正しく実践してみると、驚くべきことが起こります。「お腹の底からたっぷりとした息を気持ち良く吹き出す」とイメージするだけで、音色はとても豊かな表現力のあるものになります。
 もちろん、繊細な音色の変化や劇的な表現、多様なテクニックは、この単純な呼吸だけではできませんが、全ての呼吸法の原点はここにあり、「大自然の中で深呼吸するような」「深い安らぎを得たときのような」気持ちの良い息から生まれる豊かな音は、多様な表現の出発点となります。
 まずはこの、気持ち良い息の方法をマスターしてください。

腹式呼吸の息の吸い方

 腹式呼吸は、就寝時には無意識に行われている自然な呼吸方法です。仰向けに寝て安静にしていると自然にお腹が上下して、息を吸い込み吐き出しています。これが腹式呼吸です。この呼吸を拡張して楽器の演奏に使用します。

 体を起こした状態で、お腹を引っ込めて息を吐き切ってから力を抜くと、お腹は自然に元の状態に膨らみ、息がお腹に入ったように感じます。これは、重力の働きによって内臓や腹部脂肪の重さで横隔膜が下がり、息が肺に入るためです。

横隔膜の場所

しかし、この状態だけでは管楽器の演奏には不十分ですから、訓練によって、もっとたくさん息を吸えるようにする必要があります。それをこのnoteでは解説してありますので、順を追って訓練してください。正しい腹式呼吸を身につけるには、継続して訓練を積み重ねる必要があります。

腹式呼吸の息の吐き方

 一般に呼吸法というと、吸気(吸う息)ばかりがクローズアップされますが、管楽器の演奏には、呼気(吐く息)が重要になってきます。
 腹式呼吸によって肺に入った息は、呼気筋(腹斜筋、背筋、臀筋、胸筋等)の収縮で押し出されます。腹の底から「吹き上げる」感じで吐き出す息は、とても気持ちの良いものです。そして、その音色も極上のものとなります。
 この呼吸を「一の呼吸」と呼びます。

胸式呼吸

 もう一つの呼吸法である胸式呼吸は、胸郭や肩を使って息をする方法です。胸式呼吸では背筋や肋間筋(肋骨と肋骨の間で呼吸運動に深く関与する呼吸筋)、それに肩の筋肉など、胸郭部にある筋肉を使います。

重要なのは腹式呼吸との連携

 胸式呼吸で息を吸う時には胸郭が広がり、肩が上がります。腹式呼吸に胸式呼吸を連携させると、最大の肺活量が確保できるので両者の連携はきわめて重要です。
 しかし教育の場では、胸式呼吸は「してはいけない呼吸法」と教えられます。なぜなら、胸式呼吸だけで演奏を続けると、胸郭が狭くなって息の支えを失い、安定した音が出せなくなるなどの弊害が出てくることがあるからです。
 そのため実際の演奏では、胸式呼吸は常に腹式呼吸と連携して用いられます。これにより、豊かな表現に不可欠な息の量が確保され、自由自在な音楽表現をする上で、きわめて有効な呼吸法となるのです。

完全呼吸

 実際の演奏では、胸式呼吸と腹式呼吸を組み合わせた呼吸法を使います。演奏上の要求に合わせて呼吸を最適化させるこの呼吸法を、私は「完全呼吸」(Perfect Breathing)と名づけました。

完全呼吸の息の吸い方

 まず、腹式呼吸でお腹を膨らませて息を吸ってから、次に胸に息を吸い込みます。この時お腹は軽く凹みます(これが後で重要になるので覚えておいてください)。さらに肩を上げ、息の量を増やすことがあります。「胸腹式呼吸」と呼ぶ人もいます。
 ①腹式呼吸でお腹を膨らませておいて、鼻から軽く胸に吸う
 ②腹式呼吸でお腹を膨らませておいて、口から細く胸に吸う
 ③腹式呼吸でお腹を膨らませておいて、口から素早く胸に吸う 
 ④腹式呼吸でお腹を膨らませておいて、胸を広げ肩を上げて吸う 
など、状況に応じていろいろな方法で吸気をします。

完全呼吸の息の吐き方

 まず、鼻から軽く息を吸います(前述の①)。そのあと口を閉じ、軽く咳払いをしてください。すると鳩尾(みぞおち)が前方に押し出され、下腹が凹むことが分かります。鳩尾で支えられた、この息のバランスを「二の呼吸」と呼びます。「一の呼吸」と比べて器楽的な表現に向く方法です。

*低音域の音を出す場合、息を支える場所は鳩尾ではなく、ずっと下がって腰やお尻(肛門・会陰)となります。
*高音域になると、息の支えは肺の上方へと移動します。

 これらの「息の支え」の感覚は、アンブシュアや息を当てるポイント(息の出し方)を考える土台となるので、はっきり意識する必要があります。

 この「二の呼吸」が、「完全呼吸」をマスターするための入り口となります。前節「完全呼吸の息の吸い方」で胸に息を吸い込むと、「この時お腹は軽く凹みます」と書いてあったのを思い出してください。

 「お腹は軽く凹みます」というのが、実は「一の呼吸」で息を送り込む動作にもなっているのです。

このようにして「完全呼吸」のバランスができていきます。
*「一の呼吸」は声楽的で感情豊かな表現。
*「二の呼吸」は器楽的で安定した表現。
そして、この二つはいつも同時に起きていて、どちらにでも瞬時に移行できる準備が整っているのです。

 「完全呼吸」は音量や音域の拡張、音楽表現の自由さ等々、いろいろなテクニックに欠かせない管楽器演奏の基本です。

 立奏の場合には、下腹から地球の中心に向かって重心を下げるイメージを抱くだけで、息は自由に吹き上がり、どんな音楽的要求にも応えられる演奏ができるようになります。
 これが究極の目標です。座奏の場合は脚が使えないので、「一の呼吸」と「二の呼吸」の違いをはっきり意識して吹くことが、演奏の安定性に大きく寄与します。

 → 次回へ続く


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