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テレワークゆり物語 (170)二地域居住の法改正を、テレワーク視点でひも解く

「この法律の改正は、一つのエポックメーキングであると考えています」

国土交通省 国土政策局 総合計画課の倉石課長が以下の記事で語った言葉だ。

LIFULL HOME'S
国交省が「移住・二地域居住促進」中間とりまとめを公表。施策の3本柱は「住まい」「仕事」「コミュニティ」

私もその通りだと思う。
時間はかかるが、法治国家の日本において、法律改正は「日本社会を変える」大きな原動力となる。

2024年2月9日。国土交通省の国土形成計画における移住・二地域居住等に関し、「広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定された。

閣議決定から、国会への審議を経て、法律改正へと進む。
法律の知識は乏しい私だが、内閣法制局の「法律ができるまで」というページで確認したので間違いないだろう。笑

テレワークを推進する視点で、この法律案をひも解いてみたい。


「広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律」とは

改正の元となる「広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律」は、2007年(平成19年)に成立し、2012年(平成24年)以来改正されていない。

法律に疎い私の知識で語ってはいけないので、該当法律の目的をChat GPTに聞いてみた。

ChatGPT4.0に教えてもらった「広域的地域活性化のための基盤整備に関する法理」の説明

ということだそうだ。でも長いな。笑

簡単にまとめると、地域が広域的に協力しながら、地域活性化のための基盤を整備しやすくするための法律、らしい。

「二地域居住」のために法律を改正する理由

では、10年以上改正されていない法律を改正する理由は何か?
キーワードは「二地域居住」である。

えっ⁈  ふたつの地域に、家を二軒も持つなんて、ムリムリ!
地方に別荘を持つなんて、高所得者だけの贅沢では?

そう思う人が多いだろう。また、お金だけではない。
地域での生活は不便ではないか。(住まい)
地域で生活できる仕事があるのか。(なりわい)
地域で良好な人間関係を気づけるのか。(コミュニティ)
移住する人の心配ごとや、地域が乗り越えるべき課題は多い。

とはいえ、内閣府の調査によると、地方移住への関心は、20歳代が全国平均を上回っている。

内閣府「第6回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・
行動の変化に関する調査
」2023年4月19日 より抜粋

さらに、テレワーク視点で注目すべきは、
「地方移住への関心理由(東京圏在住で地方移住に関心がある人)」において、「テレワークによって地方でも同様に働けると感じたため」という選択肢があり(!)、それは選択した人が25%前後もいるのだ。

内閣府「第6回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・
行動の変化に関する調査
」2023年4月19日 より抜粋

高齢化が進み、地域は若い世代の人に来てほしいと思っている。
若者は地域で豊かに暮らしたいと思っている。
そして、地域でもテレワークで仕事ができる人が増えている。
(田澤由利の推計値によると、雇用者では約950万人がテレワークしている)

とはいえ、突然移住はハードルも、リスクも高いし、課題も多い。

だったら、若者も二地域居住しやすくするよう法律を改正しよう!

ということである。(と私は考えている)

ちなみに、法律改正の前段である「移住・二地域居住等促進専門委員会 中間とりまとめ」では、明確に「若者・子育て世代をターゲットとする」と記載されている。

国土交通省 「移住・二地域居住等促進専門委員会 中間とりまとめ」より抜粋

「二地域居住」の定義とは・・・

法律を改正してまで、国が推進しようとしている「二地域居住」の定義はどうなっているのか。

実は、今回の法律改正案において、「特定居住」(法律上の「二地域居住」)の「定義」に追加がされている。

「新旧対象条文」の(定義)「第二条 一」をみてみよう。

「広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律の一部を改正する法律案」
「新旧対照条文」より抜粋

「当該地域外に住所を有する者が定期的な滞在のため当該地域内に居所を定めること」としており、改正前より、具体的かつ柔軟性を持たせている。

また、国土交通省「地方公共団体向け二地域居住等施策推進ガイドライン」では、二地域居住を「主な生活拠点とは別の特定の地域に生活拠点(ホテル等も含む)を設ける暮らし方」としている。

つまり、
決して「2つの地域に家を持ちなさい」というものではない。
施設ではなく、こだわるのは「定期的な滞在」のようだ。

これからの「二地域居住」はハードルが下がり、若い世代の人たちにも、身近なものになるはずだ。

改正案のポイント その1【都道府県・市町村の連携】

広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律の一部を改正する法律案
概要」をみていこう。

「二地域居住」の推進を促進するために、法改正案では、都道府県と市町村の連携に重きを置いている。

「広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律の一部を改正する法律案」
概要」より抜粋
  • 都道府県は、「二地域居住」の内容を含む「広域的地域活性化基盤整備計画」を作成しよう

  • これに基づき、市町村は、二地域居住の促進に関する計画「特定居住促進計画」を作成しよう

  • 「特定居住促進計画」で定められた事業の実施等については、「法律上の特例」を措置したり、予算をつけたりできる

  • また、市町村から都道府県に「広域的地域活性化基盤整備計画」について提案できる

これにより、市町村レベルで、地域の実情に即した「二地域居住」を推進できるようになる。

たとえば、私が住む北海道北見市の場合、長年のテレワーク施策により、テレワークやワーケーションでの来訪者が増えてきている。
しかし、オホーツク圏の経済の中心都市であることから、ビジネスホテルは多いのにもかかわらず、長期滞在できる宿泊施設が極端に少ない。
このため、以下のような課題が存在する

  • 地域に「空き家」があっても、築年が古く、改修に費用がかかる

  • 住居専用地域では、コワーキングスペースやシェアハウスを設置できない

改正案により、これらの課題を乗り越えることができるかもしれない。
(本件に関しては、あらためて記事を書く予定)

改正案のポイント その2 【官民の連携】

都道府県と自治体という行政が「二地域居住」に取り組むだけでは、継続性が担保しにくい。「二地域居住」を推進するNPO法人や民間企業との官民連携が重要となる。

「広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律の一部を改正する法律案」
「概要」より抜粋

改正案では、市町村長が「二地域居住」促進に関する活動を行うNPO法人、民間企業(例:不動産会社)等を二地域居住等支援法人として指定することが可能と記載されている。

支援法人の活動についての予算も措置される。

改正案のポイント その3【関係者の連携】

最後は、地域が一体となって「二地域居住の促進」を進める体制づくりである。

「広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律の一部を改正する法律案」
「概要」より抜粋

市町村、都道府県、二地域居住等支援法人だけでなく、地域住民をはじめ、関連する企業・団体(不動産会社・交通事業者・商工会議所・農協等)を構成員とする「二地域居住等促進協議会」を組織することを促している。

テレワーク視点からのまとめ

法律の名前だけを見ると「テレワーク」とは関係ないと思われるかもしれない。しかし、今回の法改正は、コロナ禍を経てテレワークができる人が急速に増えたことを背景に、「日本の社会課題をテレワークで解決する」具体的かつ、大きな一歩である。(と私は思っている)

ただ、「受け入れる地域」の整備とともに、「送り出す企業」を増やすことを忘れてはいけない。
二方向を同時に、バランス良く進めてこそ、「にわとりと卵」のサスティナブルなサイクルが回り出す。

そういう意味では、まだまだ「テレワークが可能な雇用者」を増やす必要がある。

実際の施策は、厚生労働省や、総務省、経済産業省の担当になるのかもしれないが、こちらも、これまで以上の「連携」に期待したい。




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