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モグラが土を掘り、母は花を植える

秋の終わりの頃。庭から畑へ通じるちょっとした原っぱのようなところに、いくつか小さな穴が掘ってあった。

モグラかな、と思ったが、よく見るとちょっと違う。畑でよく見るモグラの穴掘り跡は、黒くてやわらかい土が、こんもりと山になっている。でも私が見ているこれは、黒い土ではあるが、穴になっている。こんもり山ではない。

夕食時に思い出し、母に話してみる。
「あそこにあちこち穴あいてんだけど。モグラっぽいけど、穴だからなんか違うなーって思って……」
言ってるそばから母が大きくウンウンとうなずいている。

「なんか知ってる?」
「知ってる。あの穴は私が掘ったのよ」
ウフフ、と母が照れ笑いしている。

「なんで?」
「あそこ、モグラちゃんがミミズ追って、黒い土の山になってたのよ。だから花壇さ持ってったの」

花壇? 予想外の答えが返ってきた。

「だって。いい土だし、フカフカってやわらかい土だし」
「まあね」
「だから、ありがとー! ってスコップですくって花壇に持ってったの」
「メルヘンだね」

その発想は私にはなかった。満面の笑みで、ウキウキしながら花壇へ土を運ぶ母の姿が目に浮かぶ。

モグラと母が掘った跡の黒い土に霜が降り、近頃ではうっすら雪もかぶるようになってきた。

この前は「今年もっとも早い日の入り」だったとかで。じゃあこれからはちょっとずつ日の入りが遅くなるんだな、と喜ぶ一方で、今週末は今季一番の冷え込みになるらしい。

これからが冬本番で気が沈むが、私も母も、もうじきやってくる冬至をささやかな心の支えにして、春が来ることを待ち遠しく思っている。冬至さえすぎれば、あとは日が長くなるのだから。

モグラもまた、春に会おうぞ。


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