恥ずかしの白いお通じ #6

初めての「一般健診」を受けた。

年に一度は欠かせない健康診断。
これまでの若年健診から、ついに一般健診へ。
そう、つまり、バリウムの扉を開けたのだ。

テレビやラジオでおじさんたちがこぞって盛り上がる人間ドックのお話。
実感としてわからないながらも笑わずにはいられない、バリウムのお話。

白くてまずい。

これはよく聞く。
でも、今日、それにぜひ付け加えたい情報がある。


重いのだ。


これは誰も教えてくれなかった。

見た目としては、片栗粉多めの水溶き片栗粉、といったところか。

最初に、粉を飲む。炭酸のようなものだと思うのだけれど、ソーダのような味がして、ちょっと楽しかった。

そして、重たい液体は、意外と激マズではなかった。
確かに美味しくはない。けれど、聞いてるほどにまずくはなかった。

検査は病院によって異なると思うのだけれど、わたしはラジオで「自分でレバーを持って動かすので体が『ガーン!ズガーン!』ってなる」であるとか「台から落ちそうになる」との情報を得ていたので、まさか可愛いお姉さんに、

「初めてのバリウムですよね、緊張しますよね」
「私の方を見てください」
「もう一回私の方を見てくるっと回ってください」

と可愛くアナウンスされながら、機械と自分両方の力で回ったり回らされたりするものだなんて知らなかった。
うつ伏せの時には何が起こっているのか分からなかったけれど、思った以上に楽しい検査だった。

そして、噂で聞いているほどに、胸からせりあがってくる空気感を感じなかった。最後に「ゴフッ」とのどが鳴った時、


「しまったーーーーー!!!!!」


と、思ったのだけれど、その時にはもう、「どんどんげっぷをしてください」の時間に入っていたらしい。ごふっ

終了の際、ちょっといやらしい形(!)をした機械でお腹をぐりぐり押され、げっぷが出る魔法みたいのをかけられた。
お姉さんの可愛さも相まって、本当に魔法にかけられたようだった。ごふっ

検査室を出ると、別の可愛いお姉さんが初のバリウムをねぎらってくれた。
下剤を渡された。
それによって出る便を「バリウム便」といって「白いお通じ」が出るらしいのだ。
基本的にお腹が弱いわたしはお姉さんに「下痢しちゃうんですか?」とすかさず確認した。
お姉さんから「人によっては、そうですね…」その後で「えっと、白いお通じがあります」と2度言われ、いずれもこっちが「なるほどー」としか言いようのないやりとりをし、そしてその後の検査が子宮頸がん検診であることに、心はちょっと曇った。

身体を診る、というのは実にストレスである。

けれど、そのお姉さんのねぎらいによって、間違いなくわたしの初胃部X線検査は悪くない思い出となったし、検査室のお姉さんの対応も、検査を楽しいものと思わせてくれた。

そう、わたしにとって、この検査は楽しかったのだ!

基本的にめちゃくちゃ込んでて、看護師さんが淡々とした印象の健診センターだったにも関わらず、バリウム近辺の看護師さんが優しかったことが何よりの救いだ。

子宮頸がん検診は初めてではない。でも、大切な人にしか見せない大切なところを、意思に反して開かれ、器具を入れられ、ぐりぐりされるのは、何度経験しても、嫌だ。
今回は女性の先生だったが、実は男性の先生の方が優しく器具を入れ、優しくぐりぐりする。女性の先生の方が、自分にもあるものだからか、ちょっと痛い。
今回は、後者だ。
検査後、ひたすら器具を洗う看護師さんがカーテン越しに見えて、複雑な気持ちになった。その部分だけを切り取れば、好き好んでやっている仕事ではないだろう。でも、俯瞰して見たら、女性を病気から守る大切な仕事をしている。

婦人科検診の待合室はものすごく混んでいて、テレビではマンモグラフィーの検査の仕方、みたいな映像がエンドレスで流れてる。
50代くらいの女性が上半身裸で検査を受けているのだけれど、当たり前なんだけど、思わず「丸出し!」と心の中でずっと呟いてしまうし、その女性が絶妙な表情で検査を受けていて、見てはいけないものを見てしまったような、なんとも言えない気持ちで待っていたのである。

わたしは健診の待合という、独特の世界が、好きだ。
病院でみんなが具合が悪いのとも違う。
スマホから解放され、みんなが同じ検査着を着ている。呼ばれた人を観察する。苗字や名前が自分と同じだと思わず凝視し、苗字と名前に同じ音が含まれていた時に「結婚してそうなったのか、親がそう名付けたのか」と妄想したり、「ああ、ここにいる人、みんなノーブラなんだ」と思ったり、みんなが同じマンモグラフィーの映像見ていても顔色ひとつ変えなかったり、そういうのを感じるのが好きだ。

病院は、体調を崩して日常生活を送ることが困難となった方がおり、そこで弱さが溢れてしまうのは当然の環境だ。けれど、健診は、環境としてはほぼ病院であるのにも関わらず、みんなが日常を保っている、ふりをしている。同じ検査着、ノーブラ、バリウム、子宮の器具。何もかも日常じゃない。それなのに、しれっとした顔で、そこにいないといけない。そんな空気を感じる。そんなしれっとした顔の奥の方を、想像すること。それが好きなのだ。
バリウムへの不安、子宮をかきまわされることの恐怖、そんな弱さを、その場で出したって、よくない?
淡々とした世界の中でも、わたしは弱音を吐きたい。

こうしてエッセイを書いている間にも、わたしのお腹はぎゅるんぎゅるんと鳴りやまない。

お腹と言えば。
今回から検査に検便も加わっていた。

検便。

この検査がわたしは大嫌いだ。
保育の仕事をしていた時に、間違って先輩がすでに採取したものを持ち帰ってしまった、思い出すと「うわあああああああ」としたくなる記憶も想起され、採り方もよくわからなかったもんだから、本当に嫌いだ。

今回、2日分の便が必要だった。
しかし、ズボラなわたしが健診センターからの書類を開けたのが2日前。焦った。
1日分はしっかり提出できたものの、2日分までは出せなかった。急にヨーグルト食べたり、水分たくさん摂ったりしたんですけどね~

ネットで調べた結果、とりあえず1本でもあれば提出はできそうだったので受付で1本を提出。もう1本は「キャンセル」という扱いで、その場では「?」という感じだったのだけれど、たぶん、精度は落ちるけど1本でも提出されていれば検査可能ですよ、ということらしい。いや、そういうことなら「キャンセル」って言い方じゃなくて、ちゃんと教えてほしいなあ。

検便キットを開けた時も、採取方法がきちんと書いてあって「あーなるほどこんな風に採るのか」と妙に納得。保育の仕事してた頃、誰かがコツとか方法とか教えてくれてたら、きっとこんなに嫌いになってなかっただろうな。

個室の中で繰り広げられてることって、個室の中なわけだから当然なんだけど、外には言いづらい。それは「恥」だからだ。だけど、恥の部分をすっ飛ばして「みんな知ってるよ」「そこは言わなくてもわかるじゃん」的な空気は、知らない人にとってはマウントだし、知らない人に「教えてください」と言う勇気を奪ってしまう。

ちょうどそれは、健診の時に、すました顔で待合室にいるように。
大切な感情を、覆い隠してしまう。

恥ずかしいことも、きちんと説明する。
このnoteでもたびたび言ってきたけれど、それが性教育のスタートだと思うんだ。

「白いお通じ」の正体を、みんなで語り合うくらいの空気感があってもいいじゃないか!

ちなみに、お腹の弱いわたしの白いお通じはやはり、お姉さんの言う「人による」に見事に該当。思ったより白くなかったぜ☆

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