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猫の大冒険

 ぼくルーちゃん。こねこのルーちゃん。
 ぼくね知ってる。なんでも知ってる。

 みんなはこねこだっていうけれど、ぼくね、なんでも知ってるの。
 だってぼくもう大人だもん。
 ぼくは近くの公園で生まれたの。兄妹三人で遊んでいたら、なんだか人間に捕まっちゃった。
 でも大丈夫、優しい人に貰われたよ。

 あのね、カサカサ。あの袋。
 ぼくね知ってる、あれの中。中には美味しいものが入っているの。
 だってこの前開けたもん。爪でひっかいてたら穴があいた。あいた穴からカラカラ出てきた。とってもとっても美味しいの。だからたくさん食べちゃった。

 そうだ、あのね、ここにはね、キキ姉さんがいるんだよ。
 キキ姉さんはとっても気高いの。とってもとっても気高いから、僕とはなかなか話してくれない。
 プロレスごっこがしたいけど、キキ姉さんは遊んでくれない。こどもの遊びはしてくれない。
 たまに飛びかかってみるけれど、ただシャッシャッ、パシッて怒るだけ。

 ある日、二人で大冒険に出かけたの。
 いつもは閉じてる和室の障子が空いてたの。
 最初に出たのはキキ姉さん。するっと器用に外に出た。
 たいへん大変、これはたいへん。
 僕も遅れないように行かなくちゃ。

 お外の空気はとっても素敵。なんだかいろんな匂いがする。
 今日もお外は異常なし。お庭を回って表に回る。
 門を潜って大通りへ。
 ここは危ない、気をつけないと。はねられちゃったら死んじゃうもん。

 壁際歩いてお隣へ。
 ぴょんぴょんぴょん。急いでキキ姉さんを追いかける。
 置いてけぼりは大変たいへん。帰り方がわかんない。置いてかれると迷っちゃう。

 通りを渡るのはとっても怖い。
 キキ姉さんはぜんぜん平気。でも僕は怖くて走れない。
 お尻をモズモズって振ってから、ぼくは一気に駆け抜けた。
 壁の前で急ストップ。勢い余って壁に乗る。

 鈴木さんちはすぐ隣。畑をやってていい匂い。
 トマト、とうもろこし、おナスにきゅうり。食べられないけどいい匂い。
 畑の匂い、土の匂い。
 とってもとってもいい匂い。

 鈴木さんちの縁の下、おしっこしてからまた外へ。
 今度は近藤さんちに遊びに行く。
「あら、来たの?」
 近藤さんが笑ってる。笑ってくれるとみんなが優しい。
 近藤さんはとっても優しい。
「お連れさん? 大変ね」
 いつものように近藤さんはかつ節くれた。お皿にどっさり、山盛りで。
 ウニャウニャウニャウニャ。
 うちでもかつ節くれるといいのにな。かつ節大好き、美味しいな。

 近藤さんにさよなら言って、キキ姉さんと塀に乗る。
 たいへん大変、遅れちゃ大変。一生懸命追いかける。

 乗っかったのはうちの塀。ぐるっと回っておうちの庭へ。
 カシカシ叩いて帰りの合図。
 キキ姉さんが窓を掻く。肉球使ってガラスを叩く。

 大冒険はもう終わり。
 タタタタターって台所。
 山盛りどっさりいつものカリカリ。
 二人でもぐもぐたくさん食べた。
 たくさん食べて、もう一杯。
 もうお腹はポンポコリン。
 もうすぐテレビだ。ニュースの時間。

 ぼくはソファでママを見た。
 ママも、パパも笑ってる。圭ちゃんも誠君も笑ってる。
 笑顔は素敵。とっても素敵。
 
 ぼく、このうちにきてよかったな。



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