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 家に帰ってきたら友人が待っていた。
 彼は手品師だ。鍵開けも得意なのでそれできっと忍びこんだのだろう。
 しかも彼は彼女を連れていた。
 勝手にコーヒーを入れて彼女と楽しそうに話し込んでいる。
 しかし、ひとんちでくつろぐってこいつらどういう神経をしているんだろう?
「おう、おかえり」
 雄介は椅子に座ったまま、俺に片手をあげた。
「はじめまして。睦美と申します」
 雄介の彼女が頭を下げる。
 雄介にはもったいない美人だった。スタイルもいい。
「なあ浩二、なんか食い物買ってきてくんね? 冷蔵庫漁ったんだけどさ、何にもないんだよ」
 なんか腹が立ってきた。
「わかったよ雄介、食い物はピザ取ってやるよ。それよっか例の手品見せてくれね? 急にみたくなった」
 彼の得意にしているのは縄抜けだ。
 だが、僕は彼では絶対に縄抜けできない縛り方を知っていた。
「おお、いいぞ。じゃあ、俺のカバンに縄が入っているからそれで椅子に縛りつけてくれよ。彼女も縛るといい。彼女も縄抜けの達人なんだ」
 睦美はだまってにっこりと笑った。
「わかった」
 僕は彼のカバンから白い紐とピンクの紐を取り出すと、渾身の力と恨みとその他色々を込めて厳重に縛り上げた。
 念のため、二人にはアイマスクもつけた。
「浩二、力入れすぎ。いつもみたいにもっと優しく縛ってくれよ」
 雄二が文句を言う。
「うるせえ。この不法侵入者が」
 僕は厳重に縛り上げると、最後に紐の端を椅子の足にも縛り付けた。こうすると紐抜けできない。
「ピザは全部盛りにしてくれな。分厚い方で、サイズはLな。ビールもつけてくれ。三人で飲むんだから6本な」
 呑気に雄二が僕に言う。
「わかった。じゃあ、ちょっと注文してくるわ」
 僕はパソコンを操作するふりをして自分の部屋から警察に電話をかけた。
『事件ですか? 事故ですか』
 警察のオペレーターがすぐに答えてくれる。
「事件です。家に帰ったら人が侵入していたんです」
 僕は正直に状況を申告した。
「しかも今、ピザとビールを強奪されそうになってます。急いで来てください」
 僕はそういうとうちの住所を警官に伝えた。
『すぐに警官を向かわせます』

 僕は電話の内容に満足すると、キッチンに戻った。
 ところが、二人がいない。
 あれ? あの紐は絶対に抜けないはずなんだがなあ。
 テーブルを見ると、雄二の汚い文字でメモが残してあった。
『浩二、残念だったな。次はもっとうまく縛ってくれ』

 やられた。
 あの女が怪しい。彼女はきっと雄二以上に縄抜けがうまいのだろう。
「くっそ」
 仕方なく俺は椅子に座ると、警察とピザの到着を待った。

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