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【サッカー】”戦術的ピリオダイゼーション”の教本からのヒント:理論から実践へ

1.導入:「戦術的ピリオダイゼーション」の教本を読んで、クリアになった点

以前、『エディ・ジョーンズと戦術的ピリオダイゼーション』という記事を書いた。その記事のなかで、カタールのアスパイアアカデミーで活動しているアルベルト・メンデス・ビジャヌエバというフィジカルコーチを紹介した。

このビジャヌエバが、同アカデミーでテクニカル・ディレクターを務めていたフアン・ボルドナウと2人で「戦術的ピリオダイゼーション」の教本らしきものを書いている。

アマゾンで購入できる本のリンクはこちらである。日本でもたぶん買えるはずなので、興味のある人は読んでみてほしい。

ここでは、いちいち、戦術的ピリオダイゼーションがどのようなものかは説明しない。それは、前述の記事『エディ・ジョーンズと戦術的ピリオダイゼーション』を参照してほしい。今回は、トレーニングのなかで実践する上で、個人的にクリアになった部分だけをメモしておきたい。とりわけ、このトレーニングメソッドのなかで鍵となる、「原則」の設定のしかたは、具体的で役に立った。

2.メイン原則、サブ原則、サブサブ原則の区切り方

戦術的ピリオダイゼーションで最も重要ながら、明確に理解できていなかった問題がある。とりわけ個人的に気になっていたのは、『プレー(ゲーム)モデル』を構成するメイン・プリンシプル(原則)、サブ・プリンシプル(原則)、サブ・サブ・プリンシプル(原則)をどのように区切っていくのか、という点だった。

この本では、かなりシンプルに区切られている。「構造的なオーガナイズのレベル」と日本語に直すと少し大げさになるが、11人からなるフォーメーションとシステムをどのように区切るのか、という話だ。ざっと次のようになる。

1.インディビジュアル(個人):サブ・サブ原則
2.セクター&グループ(3-4人からなる少人数グループのポジションごと、あるいはサイド、中央といったセクターごとのグループ):サブ・サブ原則およびサブ原則
3.インターセクター(GKを含む7-8人程度のグループ。”インター”とあるように、複数のセクターが連結してひとつのユニットを構築する。例えば、中央とサイド、前線と中盤、あるいは中盤と最終ラインなど):サブ原則およびメイン原則
4.コレクティブ(11人):メイン原則

つまり、サブ・サブ原則とは、基本的な個人戦術および少人数のグループ戦術全般をモジュール化し、”プレー(ゲーム)モデル”というフィルターにかけて組み合わせる作業ともいえる。

3.「コーチング」という戦術的行為

余談だが、この本のなかで「サッカーの戦術的行為における社会的能力」というくだりがどこかにあって気に入っている。情報処理、情報交換という”コミュニケーション”を正確に行うことも戦術的行為で、それを実行する能力も選手のパラメーターとなっている。

そのため、例えば「守備」や「攻撃から守備のトランジション」のフェーズの場合、サブ・サブ原則のひとつとして「ユニットとしてプレッシングを行うためのコミュニケーション(お互いが確実にカバーし合う)」という項目が設定されている。コーチングもトレーニングされるスキルのひとつなのだ。

4.負荷と高い集中力を維持するための調整

2つ目は、負荷の調整。例えば、リカバリーや試合前日のトレーニングなどはどうしているのか、という点。

これも、基本的にはプレーモデルにしたがって実戦形式で行われる。ただ、フィールドを大きめにしたり、人数を多めにしたり、対戦相手の人数や行動エリアを制限する、ストップをかける頻度を増やす、時間などでインターバルと戦術的行為のフィードバック学習を同時に行うようだ。

スピード・トレーニングの場合などは、30秒のセッションを12本というように分けてやると。他の場合も、時間とセッション数がきちんと決まっている。こういうところから見ると、時間をかけてダラダラやるよりも、きちんとセットした状態でテーマに合わせたトレーニングをセッションごとに”高い集中力”のもと、しっかりと行うことに重きを置いていることが分かる。

5.RBライプツィヒに見られる戦術的ピリオダイゼーションとの整合性

手前味噌だが、むかしRBライプツィヒでラルフ・ラングニックとともにコンセプトを作り上げたヘルムート・グロースを紹介したことがある。

このインタビューのなかで、「何かを学習するためには、極端な形で実践しなければならない」というようなことを言っていた。RBグループのトランジションに重きを置いたトレーニングも、似たようなものだったのかもしれない。ナーゲルスマンは、明らかに戦術的ピリオダイゼーションを踏まえたうえで仕事をしているが、監督交代もスムーズにいったのはこの辺りに共通する部分があったのかな、とも思う。

ゲーム形式や条件付けのトレーニングの場合、なんとなく流してしまうケースもあるけど、キッチリとリセットしてトレーニングをやり直させることは、やはり重要。コーチが介入できるタイミングや方法やトレーニングの学習過程などもシンプルに紹介されており、指導者の仕事の進め方の基本も同時に学べる。

6.最後に:育成に適用できるか?

戦術的ピリオダイゼーションそのものが育成のために作られたのかは、分からない。だが、個人的な解釈としては、少なくともKPI(プレーモデル)を作って、PDACを回す作業と考えれば、指導者としての作業のベースになるとは考えられる。

例えば、ホルスト・ヴァインのコンセプトである年齢に合わせて選手の人数を増やしていくシステムに適応させるとどうなるだろう。

例えば、11人制ではサブ・サブ原則となる個人(戦術・技術)や3人程度の少人数グループのユニット(戦術・技術)は、10歳以下の3人制のサッカーならプレーモデルになりうる。サブ原則として個人技術・戦術をまんべんに学べるようなテーマを設定していけばいい。

さらにジュニアの8人制なら、3、4人というのはすでにインターセクターのサブ原則として見ることも可能だ。11歳、12歳ぐらいなら、3対3をもとにフリーマン、条件、スペースなどを調整しながら戦術的な学習を目的としたプレーモデルの設定も可能だろう。

別に戦術的ピリオダイゼーションという言葉を使う必要はないが、サッカーを学習していく上でのフレームワークとしてかなり有用な本である。






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