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人のものが欲しくなっちゃう女①

昔、ワーキングホリデーで1年ほど海外に住んでいたことがある。
せっかく海外に行ったのに日本人同士でつるんで語学が伸びなかったり、あちこち旅して思い出はたくさんできたけど日本に帰ってきてから何も活かされていないことを「ダメホリ」なんて揶揄されるのだが、
私も例に漏れず語学がそんなに伸びず(というより途中で嫌になった)、日本人とつるんで旅行に行き、貯金を減らしただけのダメホリの典型を地で行ってしまった。
だが、酸いも甘いも含めて本当に貴重で楽しい時間だった。

海外の日本人コミュニティは狭いので、同じ学校、同じバイト先、同じエージェントを利用している等で日本人の知り合いがやたら増える。
その中で、中学か高校からずっと仲良しという女の子2人組がいた。
仮にマミちゃんと優子ちゃんとしよう。

マミちゃんは婚約中で、独身のうちにどうしてもやっておきたいことが海外生活だった。今後の人生を考えた時に「あの時行っておけばよかった」と後悔しないために彼や家族を説得して、帰国したら結婚する約束で日本に彼氏を置いてワーホリに来ていた。
実は結構そういう人は多くて、マミちゃん以外にも3人くらい結婚前提の彼を日本に置いて来たという人に会った。
または入籍を済ませているけど子どもができる前に最後のチャンスと思って来たと言う人や、夫婦やカップルで来ている人もいた。

優子ちゃんは既婚者の彼と別れ、心身ともに疲れ果て少し現実から離れたいと思っていた時に、仲良しグループのうちの1人だったマミちゃんが結婚前にワーホリに行くという話を聞き、元々海外旅行が好きだったこともあり、心機一転自分探しをするために同じタイミングでワーホリに行くことを決めた。

2人は語学学校に行ったりバイトをしたりして現地の生活を楽しんでいた。
世界各国から留学や観光ビザで来ているクラスメイトたちと遊びに行ったりクラブやバーではしゃいだり、日本にいるときとは全く違う開放感と毎日が新鮮なことの連続で、今ここに生きていることを実感するような濃密で刺激的な時間を過ごしていた。

私と2人には共通の知人がいて、時折知人が主催しているパーティに行くと2人がいて、ちょいちょい顔を合わせているうちに話しをするようになった。
最初のうちは左手薬指に指輪をしていたマミちゃんだったが、ある日ふと指輪をしていないことに気づいた。
たまたま忘れただけかなと思っていたら、彼女と同じ学校の友人が何名か一緒に来ていて、そのうちの一人のアジア人男性がマミちゃんの横に座りおもむろに肩を抱き寄せた。
ん!???と思った私は思わず目が見開いた。あれ?婚約者の彼と別れちゃったのかな?新しい彼ができたのかな?と思っているとそれに気づいた彼女はニコッと笑顔をこちらに向けて彼の胸に顔を埋め始めた。それからずっと2人はお互いの体を撫で回すように永遠にイチャイチャしていた。

キョトンとしている私に優子ちゃんが教えてくれた。
婚約者は婚約者、彼は彼。まったくの別物。アジア人彼も本国に婚約者がいるらしく、お互いにここにいるときだけの遊びの関係。終わりがくることをわかってて完全に割り切っているから、こんなに人目にさらされていても気にしないんだと。

これまで関わってきた人にこういうタイプがいなかったので衝撃が大きく、ずっと見てしまった。
優子ちゃんは平然としているけど何にも思わないのだろうか。私は会ったこともないマミちゃんの婚約者のことを思って少し悲しくなった。
マミちゃんはいつもこうだから、ごめんね、となんとも言えない表情で優子ちゃんが私に謝ってきた。
マミちゃんは昔からすごくモテていて、学校のマドンナ的な存在だったらしい。彼氏が途切れたことがなく、彼女と付き合うことができた人は羨望の眼差しで見られていたそうだ。そして、別れを切り出すのはいつもマミちゃんの方から。
優子ちゃんは「わたしがいいなと思う人は、みんなマミちゃんと付き合うんだよね。」とちょっと悲しそうな表情を浮かべた。

それからしばらくしてマミちゃんと優子ちゃんとカフェで会った時に、優子ちゃんから彼ができたと報告を受けた。
マミちゃんは先に聞いていたようだったが、私は前回会った時にはそんな素振りが全くなかったのでスピード展開にかなり驚いた。
その彼は現地の大学に通っている日本人で、家の近くのカフェで何回か顔を合わせる機会があり仲良くなったそうだ。

海外で日本人同士が会うと話しかけるハードルが非常に低くなるため、優子ちゃんたちももれなく話しをするようになった。
どうして留学をしているのか、なぜワーホリで来たのか、どのスーパーの何がおいしい、どこどこのマーケットは見ごたえがある…会話に困ることがないくらいずっと話していられた。
それから2人はカフェで会ったり遊びに出かけたりして距離を縮めていった。
そしてある日、ついに彼の家に呼ばれてそういう関係になった。

1つ前の恋愛で苦しい思いをした分、次は何も後ろめたいことがないハッピーな恋愛がしたいと望んでいた優子ちゃんはとても楽しそうでキラキラしていた。マミちゃんも私も本当によかったね、今度会わせてよ。とお祝いムードだった。

優子ちゃんはバイトがあるため一足先に店を出て、バイトまでもう少し時間があった私はマミちゃんに残ってもらった。
私は以前から婚約者彼とアジア人彼のことをどう思っているのか本人から聞いてみたくて、デリカシーがないかなと思いつつも今まで出会ったことがないタイプの彼女に思い切って質問した。


すると彼女から驚きの回答が返ってきた。

マミ「婚約者彼はねぇ…ちょっとうざいんだよね。とにかく束縛が激しくて…。だから本当は婚約破棄したくてこっちに来たの。1年も間が空いたら向こうも冷めるかなって思って。でもこの前日本からこっちに遊びに来た時に全然冷めてなかったから、別れてほしいって話したんだよね。全然納得してなかったけど。
アジア人彼はね、完全に遊びだね。お互いにここにいる間は楽しもうねって感じ。向こうも婚約者いるしね。」

私「別れたいのに納得してくれないのはキツイね…。婚約者彼とはどうやって出会ったんだっけ?」

マミ「言ってなかったっけ?彼は略奪だったんだよね。出会った時はお互い別に彼氏彼女がいたんだけど、、、その時はいいなって思ったんだけどね。」

私「あ、そうだったんだ。」



マミ「そうそう。私、人のものが欲しくなっちゃうの。」









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