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素敵なウイスキー

初めてのウイスキー

今回は私が長く続けている趣味の一つであるウイスキーについてお話しします。ウイスキーの思い出を主な内容とし、ウイスキーの魅力を書き連ねます。ウイスキーの製法や歴史などは時間があるときに備忘録的にまとめたいと思います。

私がウイスキーに惚れ込むようになってからおよそ6年が経ちます。きっかけは大学の先輩に連れて行ってもらった新宿の京王プラザホテルにあったポールスターというバーでした。
そこでは眼前に広がる新宿の夜景と煌びやかなグラスにこれまた煌びやかなカクテルがあり、まさしく大人の世界です。まだ二十歳になりたての青二才には恐れ多く思え、緊張からか恐々とした手つきでグラスを傾けたのを鮮明に覚えています。
その時飲んだマティーニの味は、「まだまだお前にはこの空間は早いよ」と語りかけるが如くでした。(今でもマティーニだけは苦手です。ドライベルモットのハーブ香とジンのジュニパーの香りの組み合わせがダメみたいです。)

鍛え上げられたバーテンダーの作るカクテルをいくつか楽しみ、最後には「バランタイン 17年」を飲むよう勧められます。
これがウイスキーと初めての邂逅です。
ウイスキーの度数が高いことはなんとなく知っていたので、オンザロックで供されたウイスキーを前に恐れ慄いていました。
しかし、躊躇いつつも口をつけてみると、高度数のアルコールを感じはするものの、決して不快ではなく、その後に訪れる柔らかで丸みのある風味に驚きます。不思議とほのかに感じる甘みと形容し難い複雑な香りはとても素晴らしいものでした。
この時から、ウイスキーとの長い付き合いが始まります。

バランタイン17年を経て

バランタインを飲んで以降、俄然ウイスキーへの興味が高まります。最寄り駅周辺のバーを探し、酒棚にあるものを片っ端から飲んでみる…ということは出来ませんでした。高級なバーを経験したとはいえ、二十歳になりたての大学生が一人で見知らぬバーに入るというのは中々に心理的ハードルがあります。
まずは情報収集です。
ウイスキーに関する本を買い、勉強します。ウイスキーの作り方や、どんな地域で作られているのか、各地域での特徴や各蒸留所ごとの特徴などなど。
いくつか飲んでみたいものに目星を付けることが出来ました。

そして次にしたのはバーでのマナーについての情報収集です。
初めて行ったバーが高級なホテルのバーだったこともあり、バーというのは非常に厳格なルール・マナーの下でお酒を飲むものだと考えていたのです。ネット上でそれらしきことが書いてあるサイトをいくつか見て学びます。下記のようなことが書いてあったかと思います。

・入店後、勝手に席に座らない。案内されたのち着席する。
・着席後はなるべく早く1杯目の注文をする。
・グラスが空いたらなるべく早く注文する。
・1杯あたり15〜20分くらいで飲む。ダラダラと飲まない。
・勝手に瓶を触ったり、写真を撮ったりしない。
・ほろ酔いくらいで退店する。

その他、「匂いのきつい香水を振らない」「癖の強い着香をされたタバコは吸わない」等々ありましたが自分には関係がありませんでした。

さて、これで準備万端です。
ウイスキーに関して完全な無知ではなくなりましたし、バーで避けるべき行動というのも念頭に置きました。いよいよもってバーに行きます。

初めての一人バー体験

駅から近く、お手頃に飲める本格バーがありましたのでそこに行くことにします。場所は把握済みでしたが、これからするであろう経験を考えると緊張で足取りが重かったです。
外観を見てもなんだかおしゃれで分不相応に感じ、入ってみようかな、やっぱりやめようかなと逡巡し、お店の前を行ったり来たりしました。
しかし、せっかく準備までしたのだからと階段を上り、ドアノブに手をかけます。「ええい、ままよ!」の精神です。

ドアを開けると薄暗い照明と所狭しと瓶の並ぶ酒棚が見え、鬱蒼とした雰囲気を感じます。緊張度合いも最高潮に達しますが、どうにか冷静を装い、バーテンダーに指示された席に座ります。第一関門は突破しました。
次の関門は注文です。しかし、事前準備のおかげで飲みたいものが決まっていたのでこれも突破。案ずるより産むが易しです。

確かグレンフィディックとグレンリベット、ボウモアを飲んだかと思います。いずれも美味しく、特にボウモアには驚きました。グレンフィディック、グレンリベット、バランタインとは全く違う風味です。
燻製のような煙の香りに、潮気、そして穀物の粉末のような香りも感じます。同じような製法を採っていても、全く異なる風味を持ちうるのかと感心しました。

ボトラーズウイスキーを知る

初めての一人バーを体験してからはお財布の許す限り、バーに通います。ラフロイグやタリスカー、マッカラン、グレンモーレンジー、ハイランドパーク、オーヘントッシャンなどのスコットランド各地のウイスキーを試しました。どれもこれも確たる個性があり、どんどんのめり込んでしまいます。

そんな状況を自分のことながら嬉しく思い、最初にバーに連れて行ってくれた先輩に報告しました。先輩も自分がきっかけで、私がそこまでウイスキーにハマったというのが嬉しいようで、またバーに連れて行ってくれるとのこと。
それも私が飲んだことのないウイスキーがたくさんあるバーだというので、約束当日が待ち遠しくてたまりません。

そして来る日、ウキウキしながら新宿に向かいます。行き先は新宿二丁目とのことです。いわゆるゲイタウンです。独特の街並みでした。
先輩に連れられて雑居ビルに着きます。ポールスターとは正反対の雰囲気のとても狭いバーでした。6席ほどしかなく、トイレに行くにも、客同士が避け合わなければならないような場所です。しかし先輩の言った通り、酒棚には見たこともない瓶がたくさん並んでいます。期待に胸が膨らみます。

1杯目はジントニックです。それが飲み終わると、先輩がおすすめのやつをこいつに出してやって欲しいといいます。出てきたのはグレンスコシア 24年という初めて耳にするものです。
一目見て衝撃。
これまで飲んだどのウイスキーより色が濃く、深煎りのコーヒーと見紛うほど密な茶色をしています。
そして24年という熟成期間。これまで飲んできたのは10年か12年の熟成でした。その二倍以上の熟成ともなるとどんな味なのだろうか…。
様々な考えが頭の中を渦巻きますが、何はともあれ飲んでみないことには始まりません。
いざ飲んでみると、これまた衝撃です。それまでもウイスキーに甘みを感じたことはあったのですが、そのどれよりも甘い。ラムレーズンをドロドロになるまでミキサーにかけて液状にしたかのようです。その他にもコーヒーのやチョコなどの香りもあり、ほんの僅かですが塩気も感じます。色味に違わぬ濃厚な味わいに圧倒されます。
初めての体験でしたので当然このボトルに興味津々です。たくさん質問をします。

なぜこんなに甘いのかというと、熟成に使用された樽が理由とのことです。
熟成樽はペドロヒメネスという極甘口のシェリー酒の樽だということでした。ペドロヒメネスは、遅摘と天日干しにより、果実内の水分が蒸発して糖度が増した葡萄を使用するために、極めて甘い仕上がりです。当時はそのことを知らず、「こんなに甘くなる樽があるんだ」と驚くばかりでした。

また、このボトルは「ボトラーズウイスキー」と言われるものだとも教えてくれました。
ボトラーズウイスキーというのは、蒸留所が作ったウイスキー原酒を他の企業が買い取り、蒸留所とは違う独自の熟成を施してから商品化されたものです。蒸留所から原酒を買い取る企業を「ボトラーズ」または「独立瓶詰め業者」と呼びます。
対義語として、蒸留所が商品化したものを「蒸留所元詰め」や「オフィシャルボトル」と呼びます。

私が飲んだグレンスコシア 24年はメドウサイドブレンディング社がハートブラザーズというブランドで商品化したものでした。
これを機にウイスキーの深い深い魅力に傾倒します。

最小単位の個性を楽しむ

前述のグレンスコシアを体験して、同蒸留所の同原酒であっても、熟成樽が違えば味わいにも大きな変化があるということを理解しました。
そこで樽について勉強します。本を読み直すとバーボンの熟成に使用した「バレル」、シェリーの熟成に使用した「バット」、そして樽を組み直した「ホグスヘッド」などの種類があることを知ります(本当はもっとありますが本筋ではないので省略。)

また、「シングルカスク」というものも同時に知ります。
通常、蒸留所元詰めのウイスキーはいくつもの樽の原種を混ぜ、味の均一化をした上で商品化されます。
しかし、ボトラーズは樽ごとの個性を重視し、一つの樽の原酒をそのまま商品化するのです。

なるほどなと思わざるを得ません。
ウイスキーは国ごとの個性、各地域ごとの個性、そして蒸留所ごとの個性があります。しかし、それよりもっと小さな単位、樽ごとの個性もあります。熟成に使う樽は種類があるというのは先に述べた通りですが、同じ種類の樽であっても、個別の樽ごとにさらに個性があるというのです。
樽は樹木を原料としますから、プラスチック製の工業製品のように質が均一ではありません。それを考えると当然のように思えますが、そこまで個性が細分化されているというのが当時の私には新鮮でした。

現在に至るまで

シングルカスクを知ってからというもの、ウイスキーの勉強はさらに加速します。
飲んだことのない蒸留所元詰めボトルを色々試し、その蒸留所の個性を探る。ウイスキーは様々な香味の要素が渾然一体となっているため、その要素を言い表せるようにじっくりとテイスティングをして、舌と鼻を鍛える。同一の蒸留所で異なる樽のものを飲み比べ、各種樽の個性を覚える。熟成に使われる樽を知るため、バーボンやシェリーそのものも飲んでみる、勉強する。と言ったことです。
趣味の一つではありますが、トレーニングさながらのことをしていました。
自分の経験値が増えたことを実感すると、もっともっとウイスキーのことを知りたいと思うようになります。
経験値を数値化することは難しいですが、最初にバランタインを飲んだ時とは比べ物にならないほどの経験をしてきたつもりです。しかし、まだまだ足りません。6年という短いとは言えない時間をウイスキーに費やしましたが、飲んだことのないボトルの方がまだまだ多いのです。

熱しやすく冷めやすい質の私が一つのことにここまでのめり込めたのは、ひとえにウイスキーの神秘的で深い魅力のおかげでしょう。また、ウイスキーを知ろうと思えば、他の酒類も勉強しなければなりません。歴史も然りです。終わりが見えない趣味ですが。これからもウイスキーの本質に少しでも近づけるよう楽しんで勉強していこうと思います。

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