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虹が象徴する物語 7

前回までのあらすじ
ODや不安の発作に悩むリズは、大学のスクールカウンセリングで相談しようと思い、予約した。今日はその初めてのカウンセリングの日だ。


トラムに揺られながら、リズはドイツ語でアガサクリスティーの伝記を読んでいた。課題のためだが、なかなか面白い。今日の大学の授業は午後から一コマとスクールカウンセリングだけ。リズは早起きをしたので、モールに寄って一休みしてから大学に行くことにしたのだ。トラムが目的の駅に着く。歩いて2分のところにリズのお気に入りのモール、「POPPYS'」はある。リズは本の虫だ。早速モール内の本屋さんに入ると、店頭にディスプレイされたコーナーが見えた。「東洋の思想」とある。リズは十数冊並べられた本の中から、小ぶりだが厳かで美しい装丁の一冊を手に取り、ぱらぱらとめくって眺めた。「老子」という中国の古代思想家の教えを分かりやすく書いた本だった。リズの専攻ではヨーロッパの思想や文化は勉強するが、東洋やアジアの思想はかじる程度だ。それでも老子の「無為自然」という考え方はなんとなく好きで覚えていた。大学の図書館にも置いてあるかもしれない、と思いリズはスマホにタイトルをメモっておいた。

本屋さんを出ると、服やアクセサリー、ステッカーや雑貨などを見て回った。いとこのヘイゼルの誕生日のために蝶のネックレスを買った。誕生日は3日後だが、ヘイゼルに会いたいので今日の帰りにでもバンに寄っていこう。その後ドーナツショップでコーヒーとドーナツ2個を平らげると、モールを後にし大学方向のトラムに乗った。

「おはよ、リズ」
友達の一人、ナターシャが声をかける。
「おはよ、ナターシャ。課題やった?」
「うん、ばっちり!……うそ、さっき10分で終わらせた。想像に難くないだろうけど、今学期最低のクオリティーよ」
インドネシア出身のナターシャは、リズの一つ上の年齢だが同じ学年、同じ学部で、リズの一番仲の良い友達の一人だ。いつもユーモアがあって、一緒にいると楽しい。リズはひそかに、ナターシャがたまに電話でインドネシア語を話しているのがかっこいいと思ってあこがれている。
二人でまじめに4時限目のイギリス文学についての授業を受けた後、一緒に図書館に行った。リズはモールで見つけた老子の本を探してみたが、まだ新しい本なのかおいていなかった。かわりにアガサクリスティーの続きを読み、カウンセリングの時間まで待った。
ナターシャを探すと、彼女はマンガを読んでいた。日本のアニメやマンガが好きなのだ。
「ナターシャ、もうそろそろカウンセリングの時間だから行くね、今日はありがと!」
ナターシャにはカウンセリングを受けていることについて話してある。
「こちらこそありがと、また明日ね」
「うん、マンガ楽しんで」
リズは緊張しながら、学生相談室を目指した。

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