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虹が象徴する物語6

キャンプ場に止めたバンの中で、ステッカーのデザインを考えてヘイゼルを手伝ったあと、リズをフラットまで送ってくれた。シートベルトをはずしてヘイゼルにお礼を言う。
「今日はありがとう。一週間後に行くかどうかはまた考えるね」
「わかった。いつでもバックレていいからね。なんかあったらチャットで送って。じゃあね」
リズが車から降りると、ヘイゼルは手を振って帰っていった。

リズはフラットの階段を重い足取りで上り、玄関のカギを開けて家に入った。体が重く、いつもの浮動性のめまいを感じる。三半規管がやられているのだろうか。頭を動かすと吐き気が増すので、ソファに横になった。ママはまだ仕事から帰ってきていない。スマホを取り出し、検索エンジンで「OD やめるには」と検索する。しかし、リストカットのやめ方の記事ばかりで、ODのやめ方についての記事はほとんど見当たらない。少し下のほうまでスクロールすると、アダルトチルドレンと自傷行為の記事が目に入った。アダルトチルドレンと自傷やうつには強い関係があることは知っている。でもリズはアダルトチルドレンではない。むしろ家庭に恵まれてきた。じゃあなんでODしてるんだろう。恵まれてて幸せなはずなのに。環境のせいではないなら自分のせいでこうなってるんだ。またあの思考が駆け巡る。いや、思考が勝手に駆け巡ってるんじゃなくて、私が思考を駆け巡らせてるんだ。すべて自分のせいなのだから。吐き気の波が打ち寄せ引いていくのを待って、チャットのアプリを開いて、ヘイゼルにメッセージを送った。
リ 「すべての物事には理由があると思うんだけど、その理由って1つ?複数あると思う?」
返信はすぐに返ってきた。
ヘ 「たいてい複数なんじゃない?すべての物事には理由があって、すべての物事は複雑なんだと思うよ。だから理由や原因が複数絡まりあってるんじゃない?」
リ 「なにか一つだけのせいにはできないってこと?」
へ 「そう。イギリスの天気が悪い理由と一緒だよ。二つの気流がぶつかるから雲ができやすくて、その二つの気流ができるのにも複数の訳があって…。そう思わない?」
リ 「確かにそうだね。ヘイゼルは、虹が好きなんだよね?なんで?複数理由があるの?」
へ 「うん。いくつかあるよ。虹はいつも太陽の反対側にできるし、雨が降った後にできるから。雨の水分が空気中に残ってプリズムになって、太陽の白色光をカラフルに分解するんだ。それと、天気が悪いことで知られるイギリスには実は、虹がかかることが多いんだよ。知ってた?」
リ 「知らなかった。」
へ 「また質問思いついたらテキストして。じゃあね。」
リズはスマホをしまうと、さっきまでの発狂しそうな思考と吐き気がどこかに消えていることに気づいた。自分が何かを誰かに話したところで、細胞の感染や癌化はなくならないし、過去の行動もイギリスの天気が悪いのも変わらない。でも、自分が何も行動しなかったら、何も変わらないままだ。カカオを作るアフリカの子供たちや、地球環境のためだけじゃなくて、自分自身の思考を少しでも良い方向に変えるためにできることがあるはずだ。効果はわずかだし、短い時間でできるものではないけど、やらないよりもやったほうがいいこと。小学生の時からもう10年以上、人工甘味料を避けることが出来てるんだから、ほかのことだってできるはず。誰か話せる人を見つけてみよう。リズは大学のホームページを開くと、学生相談室の項目をクリックした。

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