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喇叭亭馬龍丑。日記「券売機の前で発動する貧乏性」5/17(金)

2024.5.17(金)

「券売機の前で発動する貧乏性」

 仕事後に駅前の家系を食べに行く。今日はずっと「夕飯は家系ノーマルエディションとライス」と心に決めていた。踊り跳ねる心をねじ伏せつつ、冷静と情熱の間を右往左往する指先でガードレールにチャリをくくり付け、いざ券売機へ。

 ふと、入口扉に貼られた張り紙が目につく。『開店〜21時、ライス無料おかわり自由!』なるほど良いね。腕時計を確認する。二十一時を過ぎている。

 途端、ライス券を買うのを躊躇う。だってあと数分早ければ無料だぜ?悔しくないか?券売機を前にして貧乏性発動。今日は一日中家系のことを想い、舌が、喉が、細胞が家系を欲しがっている。そんなマイボディに対し、スープに浸した柔い海苔をご飯に巻くというデブの行いでねぎらってあげたかった。そこに嘘はない。

 しかし、しかしだ。あまりに悔しい。たかだか数分の違いで料金が発生するなんて。ーーーいや、分かっている。これが如何に浅ましく、ケチで、小さな器の話であるということは。仮りに年収が三兆六千億くらいあれば悩む必要すらないことだってことも。

 如何せん、ジャズメン。その金額を稼ぐにはあと十年は必要だ。そしたらもう五十も近い。そんな頃に家系なんてヘヴィ過ぎて食えなくなっているかもしれん。今。今なんだ。スープ浸し海苔巻きライスを食べるのはーーー今。

「良し!買うぞ」俺は言った。何度も声に出し、己を奮い立たせる。

 両親、祖父母の顔がよぎる。仲の良かった友達や喧嘩したアイツ、愛を語りあったあの人や夢破れ消えていったあの子。

 ーーー駄目だ。俺には…買えないよ。

 どうしてもライスのボタンが押せなかった。代わりに全部のせMAXラーメンを押していた。

 勿論、硬め/濃いめ/多め、の掛け声は忘れない。











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