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ケトジェニックダイエットとは何か〜腸活ラボマガジンVol.8〜

ケトジェニックダイエット聞いたことある人多いのではないでしょうか?
ケトジェニックダイエットは糖質制限の一つですが、メリット、デメリットがあります。
ここでは、メカニズムを論文を見つつ知っていきましょう!


ケトンとは?

そもそもケトン体とは何でしょうか?ケトン体は、以下のアセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸、アセトンの総称です。

図1 ケトン体:アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸、アセトンの総称
https://lifescience-study.com/1-genelation-and-use-of-ketone-bodies/

ケトン体は、主に肝臓で合成されますが、体内に糖、つまりグルコースが多量にある時はあまり作られません。理由としては、解糖や脂肪酸のβ酸化によって生じたアセチルCoAのほとんどは、クエン酸回路に入ってそこから酸化的リン酸化されるからです(図2左)。
一方で、低血糖の時は、どうでしょうか?この時、解糖が行われなくなり、ピルビン酸の生成が起こりません。結果として、クエン酸回路の一つオキサロ酢酸が不足します。この時、体では、足りない糖を作り出すために糖質からグルコースを作り出す糖新生が起き、糖新生酵素のピルビン酸カルボキシラーゼによってオキサロ酢酸の補充が起こります。しかし、解糖以外から補充されたピルビン酸がオキサロ酢酸になっても、糖新生に使われるのでオキサロ酢酸はたまりません。結果として、アセチルCoAがクエン酸回路で使われる量を超えるので、たまったアセチルCoAからケトン体が作られます
脂肪を分解してできる脂肪酸は、血液脳関門(BBB)を通過できないので脳はエネルギー源として用いることができません。しかし、ケトン体は、血液脳関門を通過できるので脳におけるエネルギー源として使われます。もちろん、脳以外の組織でも用いられます(図2右)。このようにケトジェニックダイエットは、身体のエネルギー産生の経路を切り替えて、ケトン体を活用するダイエットのことです。

図2 ケトジェニックダイエット(KD)と普通食のエネルギー産生の違い https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=650

ケトジェニックダイエットは具体的にどのようなものを食べるのか?

では、具体的にどのような食事をするのでしょうか?日本で、ケトジェニックダイエットを体系化して進めている日本ファンクショナルダイエット協会によると下記のような方針になります。
方針としては、まずタンパク質の確保です。肉、魚、卵、大豆などをとり、タンパク質を補い、筋肉量の減少を防ぎます。1日あたり、1.2-1.6 g/kgが推奨されます。
次に、食物繊維とミネラルの確保のために、葉野菜、きのこ、果物を摂取します。根菜は、糖質が高いのでとっても良いという分類です。
そして、脂質の方針ですが、オメガ3系脂肪酸や中鎖脂肪酸(ココナッツオイルなど)を摂り、オメガ6脂肪酸を避けるようにします。
最後に、糖質の量は1食20 g以下、1日60 g以下です。糖質の量が100 gあたり10 g以下なら、低糖質食品としてカウントしません。


図3 ケトジェニックダイエットの実践 日本ファンクショナルダイエット協会作成 https://woman.excite.co.jp/article/beauty/rid_E1425954190117/

治療への応用

ケトジェニックダイエットは、治療にも用いられています。
1900年代初頭からてんかんの治療法として絶食が用いられ、その際にケトン体の濃度が上昇することがかわったため、ケトジェニックダイエットがてんかん治療における食事療法として用いられはじめました。
てんかん治療になぜ効果があるのでしょうか?完全に解明されたわけではありませんが、ケトン体がTCAサイクルに入って消費される過程で、2-オキソグルタル酸からグルタミン酸の生合成が上昇し、抑制性神経伝達物質のγ-アミノ酪酸(GABA)の産生が増大し、これが抗てんかん作用をもつのではと考えられています(ref1)。また、ケトン体のうちアセト酢酸や3-ヒドロキシ酪酸は、その名の通り“酸”です。つまり、血中pHを変化させます。これに酸感受性のイオンチャネルが変化し、神経細胞に影響が及ぶこと、もしくは神経系の伝達に関与する受容体(NMDA受容体やGABA受容体)の発現に影響が及ぶことも理由の一つではないかと考えられています(ref2)。

さらに、2000年代になると、ダイエットブームや、二型糖尿病の治療法としても注目を浴び始めます。
そもそも、ケトジェニックダイエットにダイエット効果があるのかという疑問がありますが、これはあるとする報告がいくつも出ています。8件のランダム化比較試験を解析したメタアナリシスによると、ケトジェニックダイエットは、体重と血糖コントロール、過体重の二型糖尿病患者の脂質代謝の改善に効果的であるとわかっています(ref3)。
しかし、分子メカニズムについての詳細は明らかになっていません。寄与していると考えられていることは、脂質代謝の変化、糖新生経路の活性化、ケトン体によるホルモンへの影響などが挙げられます(ref4)。具体的には、マウスにKDを7週間与えた実験では、脂肪酸分解を促進し、脂肪酸合成が抑制されたという結果が明らかになりました(ref5)。これらのことからKDには、ダイエット効果があるといわれています。
ケトジェニックダイエットに加えて、中鎖脂肪酸(MCT)を用いたMCTダイエットや、修正アトキンスダイエット(MAD)、低グリセミック指標食(LIGIT)なども生み出され、アルツハイマー病やパーキンソン病などの精神疾患や心血管疾患、がんなどの治療法に対する効果が期待されて、研究が進んでいます。

運動への影響

また、ケトジェニックダイエットは、運動機能などへの影響も明らかになっていきました(ref6)。これまでの研究から脂質の利用効率が上昇するものの、グリコーゲン分解能力が低下する可能性が挙げられています。実際、競歩選手に3週間、ケトジェニックダイエットを実施してもらった場合、実施していない選手と比べて、レース成績の向上が見られなかったことがわかりました(ref7)。可能性としては、ケトジェニックダイエットによって、運動時のエネルギー効率が下がっていたことが挙げられます。


図4 競歩選手のレースに対するケトジェニックダイエットの影響 https://www.dnszone.jp/nutrition_guide/5-7/

また、ケトジェニックダイエットを健康な成人に6週間とってもらい、身体の運動能力(持久力、パワーの最大値、消耗の速さ)を調べたところ、軽度にマイナスの影響を及ぼしていることもわかりました(ref8)。
スポーツの観点では、ケトジェニックダイエットはおすすめできないかもしれないです。

ケトジェニックダイエットの副作用

ケトジェニックダイエットが、肥満改善や糖尿病の改善に有効だという研究が数多く出ている一方で、それを否定する(インスリン抵抗性を生じるなど)論文も出ています(ref9)。こういうことは、科学の発達段階ではよくあることで、文脈、つまりどういう条件であれば、成り立つなどの差によっても結果に違いが生まれることがあります。
また、ケトジェニックダイエットの副作用もあります。急性のものでは、無気力感やむかつき、吐き気などがあります、慢性的なものでは、LDLコレステロールの増加、セレニウムや銅、亜鉛などの不足があります。また、ケトン体には、神経保護作用などがある一方で(ref10)、アシドーシス(体の酸が過剰になること)やそれに伴う呼吸機能・意識の低下などを引き起こす可能性があります。
このように糖質制限の一種であるケトジェニックダイエットは、副作用を伴う可能性がある食事法です。もし実践される場合であれば、専門家の指導の下行うことをお勧めします。

論文を読んでみよう

最後にケトジェニックダイエットに関する論文として、2020年にCell誌に出たこちらの論文を見てみましょう。中身を見つつ、論文の読み方も簡単に紹介していければなと思います。
Ketogenic Diets Alter the Gut Microbiome Resulting in Decreased Intestinal Th17 Cells
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7293577/
タイトルを直訳すると、”ケトジェニックダイエットは、腸内微生物叢を変える結果として腸内のTh17細胞が減少する”です。
まず、Highlightsがあります。ここは、Cell Pressの雑誌にある4行ほどで論文の重要なポイントを箇条書きにしたものです。ここを見れば、何が明らかになって何がすごいのかがすぐにわかります
“•Ketogenic diets (KDs) alter the gut microbiota in a manner distinct from high-fat diets
•Gut microbial shifts on KDs are driven in part through host production of ketone bodies
•β-hydroxybutyrate selectively inhibits bifidobacterial growth
•The KD-associated gut microbiota reduces levels of intestinal Th17 cells“
ケトジェニックダイエットは、高脂肪食とは異なる方法で腸内微生物叢を変え、その変化の一部はケトン体によるということ、ケトン体の一つ、β-ヒドロキシ酪酸は、ビフィズス菌の増殖を選択的に阻害すること、ケトジェニックダイエットによる腸内微生物叢の変化によって、腸内のTh17細胞が減るということがわかります。
次のSummaryですが、多くの論文では、Abstractに相当します。論文の要約です。
多くの場合、ここをざっと読んで、論文の中身を見るかどうか決めます
Abstractの構成は、だいたい同じで背景・問題提起、今回の結果、結論という流れになっています。今回もそうなっていますので、見ていきましょう。


図5 abstract, summaryの役割

次は、Graphical abstractですが、これは図解して論文の内容をわかりやすくしてくれています。

Introduction これは前書き、序章ということで、論文を読むに必要な背景情報や先行研究でどこまでわかっていて、何がわかっていないか、そこで今回どういうことをしたんだよということがわかります。
イメージとしては、砂時計です。


図6 論文の流れ

イントロでは、その論文の分野の背景や先行研究が紹介されます
ここでも背景→問題点・わかっていないこと→今回の研究で明らかにすること→結論という流れです。
イントロでおさえておくべき点は、略語が何の略が理解することです。略語は、多くの場合、その論文で何度も出てくるので省略されています。そのため、キーワードに近い可能性が高いので意識しておきましょう。
ざっとまとめると以下のような感じになりました。
・超低炭水化物(CHO)、高脂肪のケトジェニック食(KDs)は、複数の疾患の治療に用いられている。
・腸内微生物叢は、食事の影響に敏感で、代謝や免疫を調整する。
・先行研究から、KDが腸内微生物叢の構造と機能を変化させることがわかっている。
・今回は、ヒトへの食事介入とマウスを用いた研究でKDの腸内微生物叢を変化させるメカニズムや代謝と免疫への影響を明らかにする。

Results 論文のメインです。結果にはメインの図が平均4~6個と、それらをサポートする図が同じくらいの個数があります。Cellでは、Supplemental Figureと呼ばれます。
論文を読むときは、全部の文章を読んでいません。まず、図を見て、その説明(Figure legend)を読んで何を言っているか理解し、それで理解できなければ、本文に戻り読みます。

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