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【創作大賞】頑強戦隊 メガネレンジャー(第15話・QB第4話)

4 夜散歩

  深夜の住宅街、風も吹かず夏の蒸し暑い空気の中を男は千鳥足で歩いていた。誰がどこから見ても酔っぱらっていた。ふと思い出したように男は胸を抑えて、驚愕した顔を浮かべた。
(財布が無い)
 慌てて記憶を辿る。
(会社を出て電車に乗り、コンビニに寄り今。コンビニでの支払いは現金。そこまで財布はあった。ならばその後に落としたということか)
自宅を目前にして、踵を返しヨタヨタ走り出す。
(そういえばコンビニで支払いをした後に、上着を脱いだかもしれない)
キョロキョロと足元に視線を泳がせながらコンビニまで戻る。途中に財布は落ちていなかった。
(金はともかく、免許証やカード類を悪用されたら面倒くさい。まったく、とんでもないことが起きたもんだ)
コンビニに入りチャラチャラした茶髪の店員に財布の落とし物が無かったか確認したが
「無かったッスねー。へへっ」
答えは期待外れだった。
 
 コンビニを出たところで、男が来た方向から反対側に駆けていく小さな影を見た。小走りに走り去る手には、遠目ではあるが長財布のような影を確認することができた。男は若き虎のような血潮でダッシュし、男の子の小さな襟首に手を伸ばした。
「この、泥棒がー」
叫ぶとともに小さな影を引きずり倒した。その手に握られていたのは、間違いなく男の財布だった。
「子どものくせに夜遊びしたあげく、財布をパクろうとはとんでもない小僧だな」
男は子どもに吐き捨てるように言った。子どもは何が起きたのか解らない様子ではあったが、
「僕、盗ってないよ。道路に落ちていたから、急いで交番に届けようとしただけだよ」
怯えた顔、震える声で状況を説明しようとした。
「何だと、財布を盗んだだけじゃなく嘘まで言うとは、とんでもない子どもだ。おじさんが罰を与えてやる、世の中の厳しさを思い知れ」
男が手を振り上げた瞬間、男は背後に気配を感じ振り向いた。
「トラブル快ケツ キューティバニー推参。二人の闇を照らしてあげる」(ポーズ)
そこには、白いバニースーツの美少女が立っていた。
「ま、まさか本当に存在していたのかキューティバニー。呼んでもいないのに何しにきた。とっとと月に帰りやがれ」
男はキューティに近づき突き飛ばそうとしたが、キューティはスッと身をかわした。
「お触り禁止、だけど返事は即ケツ疑問は明瞭解答。ちょっとおじさん、混乱しすぎよ」
キューティは男にウィンクすると、男の子の側に寄り体の埃を落とし、痛そうにしている背中をを撫で、その手を天に向けて振り上げた。
「痛いの痛いの月まで飛んでいけぇ」
男の子の顔に笑顔が浮かぶ。
「お姉さん、ありがとう。痛くなくなったよ」
「痛みを月逃(ゲット) キューティバニー。おじさん、あなたのためにも申し上げますけど、まって、まって、まって、ちょっと待ってなんだもん。
 欠けても戻る月の光は、再生の力 ムーンプリズム ルネサンスパワー」
キューティの尻尾から銀色の光が放たれた。
 男たちの心にコンビニから出た男の子の姿が映し出され、その小さな手には袋を持っていた。道路に落ちている財布に気づき財布を拾うと
「急いで警察に届けなきゃ。だけど、警察に行ったらアイスが溶けちゃうし。一度、家に帰ってから警察に届けよう」
 そう呟いた男の子は歩きだしたが、2、3歩進んだところで足を止めた。
「いや、遅くなっちゃ駄目だ。財布を落として困っている人のために早く警察に届けなきゃ」
向きを変え小走りになったところで画像は消えた。

「この子は、お母さんから買ってくるよう頼まれたアイスが溶けてしまい、お母さんに叱られることを覚悟して、交番に行こうとしたのよ」
キューティの言葉に男は地面に投げ出されたコンビニ袋に目を向け、その場にヘナヘナとへたりこんだ。
「小さな、優しい心を踏みじる振る舞い お天道様は見逃しても、お月様は見逃さないわよ!」
キューティはポーズを極めた。

男は男の子に近づくと膝をつき
「自分の不注意なのに、君を傷つけるようなことをして、大変申し訳ない」
男の子に深々と頭を下げた。男の子は
「大丈夫です、お財布が戻って良かったです」
屈託のない太陽のような笑顔を見せた。
「拾得物としての謝礼はもちろん、溶けたアイスの再購入をさせて欲しい。そして、できれば君を、家まで送りとどけさせて欲しい」
男の提案を男の子は素直に承諾した。
寄り添うように立ち去る二人にキューティは満月のような笑みで微笑んだ。

 歩き出した2人が夜空を見上げたとき、月は銀色に輝いていた。

 この男の子が成長して就職試験を受けた際、人事担当の男が絶対的な信頼を寄せて採用を進言し、二人が会社を大きく成長させた未来があることを付け加えておく。
(第15話・QB第4話 おしまい)

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