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【創作大賞】頑強戦隊 メガネレンジャー(第13話・QB第2話)

2 親切な暗殺

 中東にある都市の中心部にある超高層マンション最上階の窓から、男は街を見下ろしていた。煌びやかな灯りが都市の繁栄を謳歌している。その先には漆黒の砂漠と闇が広がり、空には孤高の月が見えた。
男はデスクに戻ると、奥歯を強く噛み締めながらインターネット上の掲示板に書き込んだ。
『月が綺麗ですね』
背後に気配を感じて振り向くと、白いバニースーツの美少女が立っていた。男は迷わず銃を取り出した。
「まって まって まって まって まってなんだもん。ほんとは、お悩み快ケツ キューティバニー推参(ポーズ)って言いたいとこですけど、けど、けど、暗殺なんて物騒な話は、あっ、おことわりよー」
キューティは歌舞伎役者のように、右手を前に出して見栄を切った。

「しかし、この国の、国民の平和と未来のためには、独裁者として君臨する父を殺して体制を壊すしかないのです」
男は銃を持った手を降ろし淡々と告げる。男が父を暗殺しようと考えていることをキューティが既に知っていることに驚きはなかった。
「別な方法があるはずよ。諦めないで」
「キューティさん、あなたは世界の平和のために、父である悪の首領を倒したそうですね、他ならぬあなたなら、私の心をわかっていただけるのでは」
男は鬼の形相でキューティをにらみつけた。
「今の私は愛の天使 キューティバニー。戦うことも、命を奪うこともできないわ。でも、でも、平和のために誰かが手を汚さなきゃならないのなら……」
キューティの顔に暗い影が浮かぶ。
「引き受けていただけますか父の暗殺を。国内では難しいですが、外遊している時なら警備も甘いと思います。必要な情報は全て提供します。ただ、できれば、痛みや苦しみが少ない方法で、安らかに送ってください」
男はキューティに近づき、手を取ろうとした。
「お触り厳禁、キューティバニー。ずいぶんと親切な暗殺を希望されるのね。依頼は承りましたが、やり方は任せていただきますわよ」
キューティは窓から漆黒の空に飛んだ。

 しばらくして中東にある国の大統領が、某国の石油メジャーと大型契約締結を主要な目的に外遊を始めたが、外遊先の国で国内資源の流出に反対するテロリストによる拉致され翌日に解放されたとのニュースが流れた。

 男は外遊中にキューティが結果を出してくれることを祈りながら待っていたが、期待した内容では無かった。
 それどころか、大統領が独裁者としての権力を濫用し、売国に繋がる石油売買契約の破棄、側近の更迭、新たな産業振興に向けた企業誘致の施策などを矢次早に打ち出し、その投資資金として、自分の保有する資産を放棄することを発表したとのニュースが流れた。更に数日後には大統領は退任表明をし失踪、その後惨殺された遺体が発見されたとのニュースが流れた。
「ど、どういうことだ」
男はわなわなと震えながらモニターの電源を消した。真っ黒な画面には男の顔と少女の影がぼんやりと写っていた。
 
 男が振り返ると、白いバニースーツの少女がいた。
「お悩み快ケツ キューティバニー推参!」
「どういうことですか、何が起きたんですか。父は誰に殺されたんですか。苦しみながら殺されるなんて」
キューティは菩薩のような笑みを浮かべた。
「独裁者だった大統領は謀殺されました。もうこの世界には存在しないわ。
 古い知り合いに、変身が得意な「魔怪人タヌッキー」がいたので、その子に「国を騙してみない」って依頼して大統領と入れ替わって貰ったの。入れ替わった偽大統領のタヌッキーは失脚、失踪した後、関係者からの報復で殺されたわ」
「そ、そんなことが起こるなんて。では、父は、私の父は、もしかしたら生きているんですか」
「公式には死んだことになりました。これ関係書類一式です。これから後処理が大変だと思いますけど、少し落ちついたら、日本の温泉で疲れを癒やすと良いと思うの。fukushimaにある秘湯で、あなたと同じ国出身の人が働いているから、ハラル食も対応でおススメよ」
キューティが爽やかなウインクとともに旅館のパンフレットを手渡した。
「しかし、父の代わりに殺されたタヌッキーさんのことを考えると、私だけ温泉で過ごすなんて」
キューティは小悪魔的な笑みを浮かべた。
「タヌッキーは、変身だけじゃなく死んだ振りも得意技の一つなの。誰も死んだりしてないから安心して。タヌッキーは今日も元気に残飯を探していると思うわ」
男はヘナヘナと床に崩れ落ちた。
「じゃあ、誰も、誰も被害者が無いまま。この国は変われるのでしょうか」
「それは、あなたや国民の皆さん次第ね。けど
#地には平和を人には愛を
そんな世界を一緒に目指しましょう」
「ありがとう、ありがとうございます、キューティさん。きっと期待に応えてみせます。あなたが親切な暗殺どころか、親切な革命を起こしてくださったのですから」
キューティは満月のような輝く笑みを浮かべた。
「ところで、お父様は資金を放棄しましたが、あなたには余剰資金があるようにお聞きしましたが、私に投資していただきますと、何と、予想利回りが」
男は静かに首を横に振った。
キューティは魅惑的な表情で男に微笑み
「お悩み快ケツ キューティバニー。月の光で心を照らしたわよ」
音もなく姿を消した。新たな光を輝かせるために!
輝く未来はみんなの心に。

【ナレーション】
 ちなみに今回は、何の技も出せないで終わったキューティだけど、いざという時のために体と技を鍛えているぞ。新技は魅力で敵をメロメロに酔わせる。
 バニー ウメッシュ!

(第13話・QB2話終わり)

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