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【創作大賞】頑強戦隊 メガネレンジャー(第16話・QB第5話)

QB5 命短し恋せよ

 部屋のベッドに横たわり動画を観ていた絵里は、1階のリビングからテレビの音が聞こえてきたことで、父親が帰宅していることに気がついた。
古い歌謡曲が微かに聞こえてきた。
『♩恋する女は綺麗さぁ けしてお世辞じゃないぜー』

(はいはいはいはい、お世辞じゃないけど嘘ね。全くもう、牛さんモーですよ。私は今、間違いなく恋をしている。けど間違いなく綺麗でも美人でもなく、誰が見てもブスというしかない)
「はぁ~(*´Д`)」
(タメ息しかでないわ。今頃、陽介先輩は何をしているんだろう。テレビを見てはいなさそう、勉強、運動、ネットかな。あぁ何をしててもいい。陽介先輩が生きていてくれるということは、何て幸せなんだろう)

 なんとなく「恋の悩み」「告白」などの言葉でネットサーフィンを始めた絵里は、見たことがないサイトにたどり着いた。さっきカーテンを閉めた時に感じた想いをその掲示板に書き込んだ。
『月が綺麗ですね』
(月は綺麗、私はブス。太陽のような陽介先輩と私は月とスッポン、兎と亀みたいなもんかな)
自嘲的な笑みを浮かべながらため息をつき、珈琲を口に運んだ。珈琲はすっかり冷めてしまっていた。ふと、背後に気配を感じて、ベッドから上半身を起こして部屋の中を見渡した。
「お悩み快ケツ キューティバニー推参。心の闇を照らしてあげる」(ポーズ)
いつの間にか白いバニースーツの女の子が立っていた。
「だ、誰、あなた。何でアタシの部屋に居るの?しかも、何でそんな恰好をしているの」
「私は愛の天使 キューティバニー。心から悩める人の心を照らすの。あなたの純粋な恋心が私を呼んだの。いい、アナタはとってもキュートで魅力的。好きな先輩にちゃんと向きって欲しい、幸せを捕まえて」
バニーの美少女に言われても絵里の心には全く響かなかった。
「満月でいる時間は短いし、少女でいる時間も短いの。このまま見ているだけで恋や青春の時間を終えるつもり。生きてる今、勇気を出さなきゃ」
「だって、アタシ、ブスだから」
絵里は自分の言葉に涙が出そうになった。自覚はしていても口に出すと現実を突きつけられたようで辛く苦しくなる。
キューティはウィンクをすると、
「まって まって まって まって 待ってなんだもん。
 ブスな女の子はこの世にいないわ。ただ、原石が磨かれていないだけ。
 月の光は真実を浮かびあがらせる バニーブラッシュアップ」
キューティの手が柔らかな桃色の光に包まれた。その手を静かに絵里の顔に近づけていく。絵里は不思議な状況なのに怖いとか、嫌という気持ちが湧かないまま、体を委ねるようにキューティに自分から近づいた。
キューティは桃色に光る手で、絵里の頭から全身をポンポンした。

「絵里ちゃん鏡を見て。これがあなたの本当の姿」
鏡には初めてみる美少女が写し出されていた。
「月の光は真実の姿を映すの。これが自信を持った絵里ちゃんの姿。勇気を出して愛を育てて、命短し恋せよ乙女よ。月は雲に隠れて朧月になるけれど、いつもその上空で輝いているの。絵里ちゃんの魅力も、ほんとはいつも側にあるのいつも輝いていて素敵なのよ」
キューティはウィンクをすると、窓から漆黒の夜に消えた。

 朝起きた絵里は鏡を見て(相変わらずブスだね。昨夜のことは夢か幻だったのかしら)と思ったが(命短し恋せよ乙女よ)という言葉が、何となく心に刺さったままだった。

 その日の午後、絵里は学校の階段で偶然陽介先輩たちとすれ違った。間近で陽介先輩を見たせいか、絵里は唐突に眩暈をおこして階段を踏み外してしまった。体が傾き落ちそうになった、その瞬間、絵里は
(命短し恋せよ乙女よ)
キューティの笑顔を思い出した。
(あぁ、死ぬ前に陽介先輩に一言想いを伝えたかった。こんな気持ちで死んじゃうなんて)
と思った絵里を、陽介先輩の隣にいた男が支えてくれた。
(【お触り厳禁】キューティバニー)
という思いとともに、絵里は思いっきり声が出した。
「ちがーーッう」(その役目はアナタじゃない)
一緒に手を出てしまい、助けてくれた男の子を突き飛ばしてしまった。
(あぁ、ごめんなさい。けど命短し恋せよだから、陽介先輩に想いを伝えたいの)
絵里は突き飛ばした男には構わず、陽介先輩にしがみつき叫ぶように告白した。
「陽介先輩、好きです。付き合ってください」

 その時、学校の屋上にはキューティバニーの姿があった。
「恋人月兎(ゲット) キューティバニー」
キューティは魅惑的な微笑を浮かべながら呟いた。
「二兎を追うものは二兎を得る。絵里ちゃん、素敵な恋人を月兎したわね。
 月に代わって 応援しているからね」
キューティはご機嫌そうに尻尾をフリフリしながら、白い月に向かい跳躍した。
 その顔には満面の笑みを浮かべていた。
(第16話・QB第5話 おしまい)

https://note.com/tarofukushima/n/nd53cc65dcd37

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