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北朝鮮の無人機基地となるか?方峴飛行場と航空機工場などを考察する

亜覧澄視、小泉悠(@OKB1917

はじめに

 2023年7月27日に平壌で実施された軍事パレードとその数日前に開催が始まった「武装装備展示会-2023」で、以前に当DEEP DIVEにて発表された無人機と思われる「明星-9」多目的攻撃型無人機と6月に衛星画像でキャッチされた「明星-4」戦略無人偵察機が登場しました。
 これらの無人機は、どちらもアメリカの「MQ-9 "リーパー"」と「RQ-4 "グローバルホーク"」を模した形状で話題を呼びましたが、「これらが実用化された暁にはどこが拠点となるのか」という議論はまだありません。
 北朝鮮における「明星」系無人機の考察もしたいわけですが、最新の衛星画像を入手したので、まずは拠点がどこになるか考察していきます。

「明星-4」:右奥にチェイス機と思しきヘリコプターが駐機している Image ©︎朝鮮中央テレビ
本当に「明星-4」が方峴空軍基地で飛んだのかと言う疑問は、映像と衛星画像を照合すれば一目瞭然である Image ©︎朝鮮中央テレビ
滑走路上の損傷部位が一致している(2023年8月8日) Image ©︎ 2023 Maxar Technologies 

結論

① 現時点では、「明星」系無人機の拠点は方峴(パンヒョン)空軍基地か平壌国際空港、場合によっては元山葛麻飛行場となると思われる
② 上記の除く空軍基地を拠点にするような動きは見られない(ただし、一時的な配備は可能と思われる)

方峴空軍基地

 平壌から北北西約100km離れた平安北道亀城市に位置する方峴空軍基地は相当な旧式の「MiG-17」戦闘機を配備しており、2015年には金正恩朝鮮労働党第一書記(当時)が自身で「国産セスナ」を飛ばした飛行場としても知られています。

方峴空軍基地で「国産セスナ」と新造したと思しき「An-2」を視察する金正恩第一書記(当時):右奥に駐機している「MiG-17」に注目 Image ©︎朝鮮中央通信

 ここからは、2022年9月から2023年8月にかけての変化を見ながら、無人機運用の拠点となるか考察していきます。

方峴空軍基地(2022年9月25日)Image ©︎ 2023 Maxar Technologies
方峴空軍基地(2023年8月8日)Image ©︎ 2023 Maxar Technologies

 まずは駐機場を見ていきます。普段は「MiG-17」が列をなして駐機されていますが、8月8日の時点では1機も残っていないという状況となっています。
 このように駐機場が空というのは極めて異例のことで、直近であれば今年6月の「明星」系無人機の試験飛行時のみとなります。
 8月8日時点では無人機の姿は見えませんが、過去の事例を踏まえると、この状況が何を意味しているのか注目する必要があるでしょう。

通常の駐機場の様子(2023年3月4日)Image ©︎ 2023 Maxar Technologies
直近では1機も駐機されていない(2023年8月8日)Image ©︎ 2023 Maxar Technologies

 それでは、駐機場から消えた「MiG-17」戦闘機はどこへ消えたのでしょうか?結論を言えば、地下トンネルと滑走路を繋ぐ通路上に移動されていると考えられます。ただし、元から地下トンネル付近に駐機していた機体がそのまま通路へ移動した可能性があるため、別の基地へ移動したとも考えられることから、断言は困難を極めます。

地下トンネル付近にも駐機されているのが一般的な光景である(2023年3月4日)Image ©︎ 2023 Maxar Technologies
通路上に機体が駐機されているが、画像内の機数は3月の画像とほぼ
一致している(2023年8月8日)Image ©︎ 2023 Maxar Technologies

 次は基地東側にある整備施設・格納庫です。ここで世界で初めて北朝鮮の無人機が衛星画像で確認されました(これは当DEEP DIVE初の大きな成果でした)。これを踏まえると、この周辺の建物が無人機の格納施設となる可能性が高いと思われます。
 ただし、2022年9月にその姿を見せて以降の無人機は姿を隠したままです。それでも、ある程度の特異な動きが衛星画像でキャッチされています。

「明星-9」と思しき無人機が初めて撮影された際には周囲に数台の車両が展開していた(2023年9月25日)Image ©︎ 2023 Maxar Technologies
施設の前で人や車が集まっている(2022年10月24日)Image ©︎ 2023 Maxar Technologies
無人機が姿を見せる前に珍しく車両の出入りがあったことを踏まえると、この施設が無人機のシェルターとして機能していると思われる(2022年4月21日)Image ©︎ 2023 Maxar Technologies
施設の前に車両が1台だけ停車しているが、周囲に人と思しき黒点が見える点に注目(2022年4月27日)Image ©︎ 2023 Maxar Technologies

 現時点で確認されている北朝鮮の無人機は、「明星-4」が1機、「明星-9」が6機(軍事パレードで飛行:1機、パレードで行進:4機、武装装備展示会に展示:1機)です。こうした多くの機数を収容するような大きな施設は、空軍基地ですと方峴基地しかありません。
 パレードの会場付近で目撃された大型仮設シェルターを無人機のものと仮定した場合は、なおさらその傾向が強いと言えるでしょう(この場合、上の画像では東側の2棟がその役割を果たすでしょう)。

 方峴基地には、他の基地と異なって規模の大きい航空機整備施設が隣接しているという大きな特徴があります。こちらの変化は特段ありませんが、普段は駐機されている「MiG-17」や「MiG-19」が姿を消しています(ただし、以前からこのような光景は時折見られるため、特段珍しいものではありません)。この施設には複数の建物がありますが、「明星-9」が入れそうな建物は4棟、「明星-4」に限っては1棟となります。普段の航空機整備事業を踏まえると、無人機オンリーと言うわけに行かないでしょうから、これも今後の動きを注視して行く必要があります。 

普段は複数の機体が駐機されている(2023年3月4日)Image ©︎ 2023 Maxar Technologies
駐機数が1機に減っている(2023年8月8日)Image ©︎ 2023 Maxar Technologies
無人機を格納出来そうな建物群:左端の建物は「明星-9」自体が入らないため、必然的に除外される(2023年2月27日)Image ©︎ 2023 Maxar Technologies

 この基地には新しい動きとして、中心部に2年前から新しい航空機用シェルターが2棟建造されましたが、1棟は建造着手から1年経過した現在でも未だに未完成のままです。大きさは戦闘機用ですが、参考までに紹介します。

3棟並ぶうちの中央が2年前に完成したもので、左側は建築途中のもの(右は以前から存在している)Image ©︎ 2023 Maxar Technologies

 ところで、気になるのは無人機を管制する施設ですが、現時点ではこの基地にそのようなものを発見できませんでした。「明星」系無人機はともに機首が衛星通信用のパラボラアンテナを格納できるように膨らんだ形状となっていますが、外形は「RQ-4/MQ-9」をコピーしたに過ぎませんので実際に衛星通信での管制が可能かは不明です。
 少なくとも、6月の試験飛行と思われる際に撮影された映像には管制車両と思しきものが確認されたため、少なくともトルコの「バイラクタルTB2」やイランの「モハジェル-6」と同様の「見通し線通信(LOS)」による管制は確実と思われます。本格的に衛星通信を用いた管制を行うならば、施設の工事などの兆候が見られるでしょう(問題は管制の拠点をどこに設置するかという問題もありますが、車両に搭載できるシステムもあるので一概に断定はできません)。

「明星-9」の管制車両と思しき車両:上に突き出たのはアンテナ Image ©︎朝鮮中央テレビ
「明星-9」管制車両の内部:大型バスを思わせる内部からして上の画像の車両と同一と思われるImage ©︎朝鮮中央テレビ
「モハジェル-6」と管制車両 Image ©︎ Tasnim News Agency
「バイラクタルTB2」と管制車両 Image ©︎ BAYKAR Technology

方峴航空機工場の状況

 方峴空軍基地からやや南東部に下っていくと、北朝鮮で唯一ともいえる航空機工場があります。「Jon Tong Ryolが支配人を務める工場」や「1月6日工場」と呼ばれているようですが、ここでは方峴航空機工場と呼称します。
 この工場は1980年代に完成し、航空機・ヘリコプターの組み立てや整備を実施してきました。上述の「国産セスナ」の製造もこの工場でなされました。2014年頃からの戦闘機類へのオーバーホールを実施したことから、同様に独自改修を施したのもこの工場とみられています。
 また、この工場敷地の南東部から2017年に「火星-14」型ICBMが発射されたことは記憶に新しい方も多いかもしれません。

「国産セスナ」を視察する金正恩第一書記(当時) Image ©︎ 朝鮮中央通信
「国産セスナ」の近くでは「MiG-29」の整備が進められていた:この後に機体の塗装を緑から灰色の制空迷彩に変更されたと思われる  Image ©︎ 朝鮮中央通信
方峴航空機工場:屋根の形状と塗色、過去に飛行が駐機していた位置を踏まえると「緑屋根」が機体を収容可能な施設と推測できる(2022年3月2日) Image ©︎ Google Earth

 2023年8月3日から5日にかけて、金正恩総書記が「重要軍需工場を現地指導」したとの報道がありましたが、その中で「戦略巡航ミサイルと無人攻撃機のエンジン生産工場」も現地指導したと言及されていました。
 配信された画像では建物自体の場所を特定させる資料は少なかったものの、"金正日総書記が(北朝鮮がノックダウン生産した「Mi-2」ヘリコプターのものと思しき「GTD-350」エンジンを視察している状況"の写真が掲げられていたことから、同所が方峴航空機工場と推測できました。

「GTD-350」を見物する金正日総書記の画像が掲げられている Image ©︎朝鮮中央通信
金正日総書記の背後に「Mi-2」の機体が見えるので、おそらくは方峴航空機工場も一角で撮影されたものと思われる Image ©︎朝鮮中央テレビ

 金正恩総書記が訪問した数日後に撮影された方峴航空機工場の衛星画像を確認しましたが、特段注目すべき動きは見られませんでした。無人機の生産が本格化するに伴って動きがキャッチされる可能性が高いので、これも注視して行く必要があります。

方峴航空機工場(2023年8月8日)Image ©︎ 2023 Maxar Technologies
「緑屋根」の南側にある駐機場は雲に覆われて確認できず:それ以外も特に注目すべき動きはない Image ©︎ 2023 Maxar Technologies

元山葛麻飛行場

 「明星」系無人機を運用可能と思しき空軍基地としては、別に元山葛麻飛行場があります。ここは日本海側に面した基地でしたが、2014年に大規模な整備を得て北朝鮮で最も現代的な(軍民共用の)飛行場となりました。
 整備事業で航空機シェルターが建てられましたが戦闘機用であり、大型機については(金正恩総書記の専用機用と思われる)僅か1機分しかありません。ただし、シェルター自体は出入口や壁が存在しない柱と屋根だけの構造であるため、海に面した場所では塩害や砂によるダメージが少なからず予想されるので、長期的な運用には向かないでしょう。

元山葛麻飛行場(2023年3月9日)Image ©︎ 2023 Maxar Technologies
1棟しかない大型機専用シェルター:幅50m✕縦70m Image ©︎ 2023 Maxar Technologies
2016年にはムスダンこと「火星-10」中距離弾道ミサイルの発射試験で拠点に使われた:シェルター側面に壁が存在しないことがわかる Image ©︎朝鮮中央テレビ

平壌順安国際空港

 いわゆる平壌国際空港は、言うまでも無く北朝鮮の「空の玄関」として機能する最大の空港です。この空港の南西にはかつて空軍基地が存在しましたが相当の昔にその機能は失われ、2020年からは弾道ミサイルの拠点となりました。
 空港西側には、高麗航空または空軍大学の関連施設があり、「明星-4」を含む大型機を格納可能な格納庫が設けられています(一部は「火星砲-17」の格納に使用されました)。見通し線通信での管制と作戦対象(韓国とその周辺)を踏まえると、適当な場所はここが妥当と思われます。
 ただし、多くの無人機で格納庫を占拠すると別に機体が格納できないため、新たな施設が増設されるのかが問題となるかもしれません(衛星通信用の施設は見受けられませんでした)。

平壌国際空港で無人機を格納できる場所は赤円で囲まれた場所しかない (2023年4月14日) Image ©︎ Google Earth
2015年以降に建設されたこの区画で航空機が撮影されたのは僅か1枚だけである(2023年4月7日)Image ©︎ 2023 Maxar Technologies
以前から存在する区画の左側の格納庫は定期的に航空機が格納されているが、右上の格納庫は2022年に「火星砲-17」の出撃拠点に使われた  (2023年4月14日) Image ©︎ Google Earth

おわりに

 以上のとおり、北朝鮮が「明星」系無人機を運用する場所は極めて限られたものとなると思われます。しかし、北朝鮮が提示した国防5か年計画の完了まで約2年半の時間がありますので、北朝鮮の動きの速さを見ると、今後は加速度的に施設の改修などが行われる可能性も否定できません。
 ただし、この種の無人機は基本的に高価であることに加えて北朝鮮からすると部分的に技術的なハードルが高い問題があるため、十分な数を揃えることができるかは疑問が残ります(北朝鮮は無人機運用システムを海外へ売り込んでいるため、ノウハウが無いわけではありません)。
 北朝鮮が「明星」系無人機を「何機」揃えて「どこから」「どこへ」飛ばしていくのかを見極めるには今後の情報収集が欠かせないことは言うまでもないでしょう。

※ 将来的に「明星」系無人機に関する考察記事を投稿する予定です

参考資料
Identifying DPRK Machine Plants 
North Korea has started testing new military drone, satellite imagery suggests
New North Korean military drone spotted on runway, largest seen to date
A Small Mystery Solved at the Panghyon Aircraft Factory
Iran’s Army Furnished with New Drones
Command, Control, Communications, Computer and Intelligence (C4I)
朝鮮民主主義人民共和国の陸海空軍


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