見出し画像

DINKsでも子育て世帯でもない。不妊治療をしながら女性が働くということについてのお話。

はじめに

私はいま、結婚4年目で31歳、コーチングサービス「mento」を運営する株式会社mentoで取締役COOをしています。

現在子供はおらず、傍から見れば自由気ままに仕事を頑張るDINKsなんだと思います。

DINKsとは「共働きで子供を選択的に作らない、持たない夫婦、またその生活観のこと」だそうです。

しかし私たちは選択的に子供を作っていないわけではなく、1年以上不妊治療を続けていますが、まだ妊娠はしていません。

そしてこれまで、このことを周囲にほとんど話してきませんでした。

1年というと、不妊治療に向き合われている方々の中で言えば短い方かもしれないですし、もっと大変な想いをされている方はたくさんいると思います。それでも、私なりに経験したことや感じたことをnoteにすることで、似たような状況ある方の助けに少しでもなれば幸いです。

そして不妊治療の当事者でない方にとっても、人にオープンにしづらかったり、すべての職場で支援がされているわけではなかったりするようなライフイベントの悩みを抱え働いている方々への向き合い方について、考える機会になれば嬉しいです。

最初は「すぐ終わるだろう」と思っていた

病院に通い始めたのは1年以上前の話です。当時は、少し通院すればすぐに終わるだろうと楽観的に考えていました。

不妊治療で病院に行ってみたという知人は周りにもたくさんいましたが、「お医者さんにタイミングを教えてもらったらすぐに妊娠した」という声がほとんどだったので、自分もそうかな、なんて軽く捉えていたのです。

昔からPMSが重い方でもあり、生理のときには腹痛を通り越して太ももまで痺れる勢いだったので、「こんなにつらい想いを毎月乗り越えてるんだから、きっと神さまは妊娠では苦労しないようにしてくれるはずだ」という根拠のない願掛けをして生きてきたというのもあります。見事に外れました。

不妊治療をはじめたときにまず驚いたのは、最初の検査がすごくたくさんあることでした。

性病や風疹抗体などの感染症検査、子宮がん検診、甲状腺機能の検査、卵巣内の卵子の在庫量を調べるためのAMH(抗ミュラー管ホルモン)検査などなどです。

これらの結果によって治療計画を立てていくのですが、私が通っていた病院ではすべての検査が別日に行われました。無数にある検査をスタンプラリーのようにコツコツ完了させてからでないとスタートラインにも立てないのかと、早々にめげそうになったのを覚えています。

そして不妊治療の検査は採血によるものが多いのも、自分にはすごくストレスでした。昔から注射が大の苦手で健康診断の採血は何日も前から気分が憂鬱になるような私でしたが、不妊治療を始めてからというもの、月に何度も採血や注射があります。注射は今も大嫌いなので、「なんでこんな目に合わなきゃいけないのか」と毎度恨めしい気持ちで通院しています。

不妊治療の過酷さに16%が退職

とはいえ、働きながら不妊治療をするとき最も課題になるのは断然「通院回数の多さ」だと思います。

タイミング法や人工授精などの一般不妊治療なのか、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療によって変わりますが、1回数時間の診察を、月に何日も通う必要があります。

画像3

さらに通院日は自分で選ぶことはできず、自分の月経周期や卵子の状態によって病院がピンポイントで指定します。

指定された日に向けて必死に仕事を調整し、やっとの想いで時間を作って診察を受けたとしても、「排卵はまだみたいなので明後日の午前中にもう一度来てください」なんて言われることもザラです。じゃあ頑張って捻出した今日この時間はなんだったのかと、無駄じゃないかと、やるせない気持ちでいっぱいになります。

仕事の都合で言われたとおりに通院できないことも当然多かったので、頑張りたい気持ちはあるのに頑張りきれない自分の現状への不満や焦りも溜まっていきました。

そしてなにより、言われたとおりに通院し、注射も薬もやりきれた月があったとしても、上手くいかないときはいかないのです。生理が来るたび、その月に使った時間やお金に想いを馳せながら、「あと何ヶ月、いや何年、これを繰り返すのかな」という先の見えなさを感じてしまいます。

厚生労働省の調査によれば、不妊治療をしたことがある人のうち16%が退職、8%が雇用形態を変更、11%が両立できず不妊治療自体を辞めているのだそうです。

「妊活に専念したいから仕事を辞める」ってどういうことなんだろう、と思っていましたが、自分がやってみて、そりゃそうだわ、と思いました。女性たちにも仕事や予定がある、という前提で治療を組めないケースがほとんどなのです。

厚生労働省「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査事業」の調査結果報告書

画像3

理解されたいけど言いづらい、葛藤の日々

「まだ若いんだからそんなに焦らなくても大丈夫だよ」と声をかけてもらうこともありました。でもそれは一般論であって、実際の状況には個人差があります。

単に年齢だけが、卵巣の状態を反映しているわけではありません。年齢が高くなるにつれて卵巣機能は下がっていきますが、それにも個人によるバラツキがあるそうです。

私の場合はAMH検査の結果が芳しくなく、「あなたの実年齢は31歳だけど、卵巣年齢でいうと40歳前後、ステップアップするならできるだけ早くをお薦めします」と早々に医師から言われていました。それ以外にも子宮筋腫やら多嚢胞性卵巣症候群やら、良くない検査結果がゴロゴロと続きました。

スタートアップの経営者として、いまは妊娠出産にベストなタイミングではないのではと考えた時期もありましたが、私の身体はそんな猶予をくれないようでした。

生殖機能に関する疾患は、とてもセンシティブでなかなか人に話しづらいものですし、外から見てわかるものでもありません。不妊症への切迫度は本人にしか分からないことが多い中で、職場や周囲に協力を仰ぎながら通院することの心理的なハードルはとても高いと感じます。

仮に妊娠したとしても、つわりや出産、その後の子育てもきっと壮絶に大変だろうし、自分は本当に両立できるんだろうか、それはそれで職場に迷惑をかけてしまうんじゃないかすらも不安で、自分は一体どうしたいんだろうと、いろんな感情に七転八倒しながらも、やっぱり人に話せなくて一人悩んでしまう、そんな辛さが不妊治療にはあるんじゃないかと思います。

多様な働き方の尊重には「カミングアウト」と「共感」のプロセスが必須なのか

不妊治療をしている方のうち、62%が職場にそのことを伝えていないそうです。

理由は様々ですが、「不妊治療をしていること自体を知られたくない」「周囲に気遣いをしてほしくない」「うまくいかなったときに職場に居づらい」などが上位にあります。

画像3

私自身も今日までオープンにしないできたので、この気持ちはとてもわかります。伝えるも伝えないもご本人の自由ですし、しっかり周囲に伝えている方を素晴らしいと思う反面、私にとってこれはすごくプライベートなことで、感情的にはできれば人に知られたくないと感じていました。周囲に気を遣わせることになるだろうという不安ももちろんありました。

実際にカミングアウトした女性が自身のキャリアに支障が出る場合も多く、上司に不妊治療を伝えたことで「もうすぐ妊娠出産を控えているから」「体力的にも大変だろうから」と不要な配慮が重なり、重要プロジェクトにアサインされなくなってしまったというケースもあるそうです。

現状の日本において、不妊治療のカミングアウトは少なからず本人へのリスクやダメージがあると感じてしまいます。

私がこのnoteを書いているのも、「不妊治療はこんなにも辛いんだからもっと社会で理解・支援されるべきだ」ということをカミングアウトしたいからではありません。

むしろ、「◯◯はこんなにも大変なんだからみんなで支援しよう」⇒「はい、そうしましょう!」という"カミングアウト"と"共感"のプロセスを採用しつづけることは、本当の意味で多様な働き方の支援につながらないのではないか、という想いをまとめたくてこれを書いています。

支援すべき多様性を社会が指名しないという考え方

ダイバーシティ&インクルージョンを厚生労働省が推進するようになってからというもの、「女性」「子育て」「ジェンダーマイノリティ」「文化や国籍」などに関する素晴らしい取り組みが各企業で行われています。

しかしこれらには、「上辺だけの施策や目標になっており、企業の信念がついてきていない」「結局一部の人しか使えない制度である」などの反論があることも事実です。

私自身も以前、子育て支援の他に、卵子凍結や妊活相談などを福利厚生として提供している企業を女性活躍推進制度のとても良い事例としてSNSで紹介したところ、「女性が出産・子育てを必ず望んでいるという前提での支援である」「単身女性を尊重していないと感じる」などの声をいただき、たしかにそういう感じ方もあるよな、と反省をしました。

産休・育休制度の充実はもとより子供の就学以降の時短勤務など、子育て世帯に十分配慮した勤務体系を認める会社が増えてきています。一方で、子育て世帯の業務量を減らした分だけ他の誰かの業務量が増えるという構造にもなりやすいです。周囲に隠して不妊治療をしている女性が子育て中の同僚の仕事をカバーして夜遅くまで仕事をしていたというケースも実際にあるそうで、これらは『逆差別』(差別を是正し撤廃しようとする過程において差別されて来た集団を優遇することにより、優遇されて来た集団の待遇・利益・公平感が損なわれることで生じる差別)として問題視され始めています。

私個人としては、子育て世帯はもちろん、多様性に対する職場での支援が行われることは間違いなく良いことだと思っています。だからこそ、社会が対象を順番に指名する支援のあり方には3つの課題があると思います。

①指名されるためには当事者の熱意ある抗議や発信プロセスが必須になる
②指名された以外の特性を持つマイノリティが疎外感・不平等感を抱きやすい
③支援制度やあるべき理想が先に定義され、周囲に業務負荷&感情負荷の歪が起きるケースがある

支援すべき多様性を社会が指名することによって、「◯◯は支援する気持ちになるのが当たり前」という感情のあり方や働き方の強要につながり、そうできない自分を責めたり、対象者に必要以上の反感を抱く人が増えてしまうこともまた、辛いことなのではないでしょうか。

また、社会に指名してもらえるマイノリティになるために「◯◯である自分はこんなにも大変なんです」というプレゼン合戦になってしまうことも、できれば避けたいと感じてしまいます。

お互いの説得や納得に終始するのではなく、みんながごく自然に、ありのままで協働できるようにするには、どうしたらいいのでしょうか。

結局、どうするの?

「大きな声で不妊治療の苦労をカミングアウトしたり、だれかに気を遣わせたりしなくても、ひっそりと必要な環境を得られる方法はないんだろうか」などとという、都合の良いことをずっと考えてきました。

結論から言うと、答えは全然出ていません。言うは易しというやつです。

ただ、調べる中で良いなと思ったのは「公平な環境」という概念でした。個人の違いを視野に入れないわけではなく、個人の違いを考慮してだれかに踏み台を用意してもらうわけでもなく、そもそも、個人の違いが不平等につながるような構造(環境)自体を変えるという考え方です。

平等(Equality)よりも公平(Equity)を ~左利きの日に考えるDiversity, Equity & Inclusion (DEI)~

画像5

左:平等-踏み台の高さは平等だが、もともと背が低い人は壁に阻まれて試合が見えない
真ん中:公平-身長に合わせて異なる踏み台を用意することで、全員が壁に阻まれることなく試合を見ることができる
右:公平な環境-視界を遮る壁ではなく、身長に関わらず観戦できるネットを採用する

『ガチガチの世界をゆるめる』という大好きな書籍があります。ここで語られているのも公正な環境をつくろうよ、ということなのだと理解しました。

著者の澤田智洋さんは、世界ゆるスポーツ協会の代表理事でありながら、ご本人は大のスポーツ嫌い、息子さんには視覚障害があるそうです。

「スポーツ弱者を、世界からなくす。」という理念のもと、2016年に「世界ゆるスポーツ協会」を設立。運動能力や視覚によって勝敗が決まらない数々の「ゆるスポーツ」を生み出しています。

 心臓に持病を持つ友人と一緒に、「500歩サッカー」という「ゆるスポーツ」を作りました。5対5で遊ぶサッカーで、その名の通りに試合中は500歩しか動けません。「500歩サッカーデバイス」という歩数計測器をつけてプレイして、残り歩数がゼロになったらその選手は退場するというルールで。あと、3秒以上止まって休めば1秒につき1ゲージ残り歩数が回復します。だからもともとサッカーの上手な人が必ずしも有利なわけではなくて、むしろあんまり動かない人が生き残れるスポーツなんです。

身体能力を問わず、みんな対等に楽しく試合ができます。「ゆるスポーツ」には、いわゆる「健常者」をいわゆる「障害者」にする目的があるんです。

障害を持つ方と関わるようになったのは息子がきっかけですが、僕自身スポーツがずっと苦手で、いわば「スポーツ障害者」なんです。だけど、ある時「僕が悪いんじゃなくて、スポーツのルールがガチガチなのが悪いのでは?」と思って。スポーツをゆるめたおかげで自分が生きる世界を好きになりました(笑)。
澤田智洋さん「ガチガチの世界をゆるめる」インタビュー 「ゆるスポーツ」推進、「36.5°C」の平熱でつづける脱力系社会運動

ガチガチの職場をゆるめる

不妊治療をする女性たちが不利になるのは「勤務時間」というガチガチのルールがあるから、というのがとても大きいと思います。

mentoでもフレックスタイム制を導入するようになって以降、私は心おきなく通院し、自由に業務時間を調整することができるようになりました。周囲の理解を得るために不妊治療を逐一カミングアウトしたり、「通院のため◯時まで抜けます」とslackの勤怠チャンネルで何度も発信してみんなを無駄に心配させたりしなくても良くなったのです。

「別に不妊治療をオープンに言えばいいじゃない」

そう思う方もいらっしゃるかもしれません。実際、mentoはお互いの人生や働き方を尊重し会えるメンバーばかりで本当に信頼していますし、言えば必ず力になってくれたと思います。でもなんか、一人の女性として嫌なものは嫌だったのです(これからはめちゃくちゃオープンにしますが笑)。

社会が指名している以上に、自分たちが知っている以上に、誰もがみんな「普通じゃなさ」や「我慢」を抱えているように思います。

自分の「我慢」ばかりを主張する人ではなく、誰にも言いたくない「我慢」を抱えている人は私以外にもきっとたくさんいるんだろう、ということを常に想像できる人でありたいです。

「自分の『我慢』を誰かが主張し、周囲がそれを理解し、その環境で公平になるための支援を社会が提供する」というプロセスとは別に、さながらバブルサッカーのような、足が速いとか遅いとか、目が見えるとか見えないとか、体が大きいとか小さいとか、いちいち確認してハンデの公正さを議論する必要のない「個人の違いを越えて誰もが熱中できるクリエイティブで楽しいルール作り」がビジネスの現場でももっと生み出されたら良いのにと、切に願います。

ビジネスと遊びは全然違うのかもしれません。

でも、「みんなが少しずつ不便で我慢している」という状況をやめ、だれもが夢中になって働ける環境を生み出すことは、社会全体の生産性を上げることに直結すると私は信じたいです。

言うは易く行うは難し。

がんばります。


※不妊治療についての情報は、私自身も知識が浅い中で体験談として書いているものになります。私と同じ状況にある方が、必ずしも妊娠が難しかったり、同様の治療方針になったりするというわけではありませんので、「そんな人もいるんだな」くらいのお気持ちで読んでいただけると幸いです。
※また、本記事において、誰かを責めたり傷つけたりするニュアンスが含まれないよう最大限の配慮をして執筆したつもりではありますが、私の勉強不足、配慮不足によって不快な想いをされる方がいないことを願っております。

---------------------------------------------------------------

▼▽パーソナルコーチング・コーチングサービス『mento』はこちら
エレメンタリーランクは¥3,000/時間、それ以上は¥5,000/時間でコーチングセッションが体験可能です。是非試してみてください☺

▼▽その他、本件について興味やご相談があればTwitterDMまで

https://twitter.com/tantantantan23
※時間の都合上、全員にご返信することが難しいかもしれませんが、ご了承ください

この記事が参加している募集

多様性を考える

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?