くたびれた
「大丈夫?」
「だいじょうぶ」
すれ違った女の子の言葉。自転車で転んだ彼女は、きっと恥ずかしさと強がりの入り混じった複雑な気持ちを処理できなかったのだろう。もう少し時間が必要だったよね。
ありがとう、それでも返してくれて。
他人になら言えるこの問いかけを、自分にはついついおろそかにしてしまう。
友人がやりたいことを実現しはじめている姿をみると、途端に焦ってしまって、スケジュールの隙間を埋めたくなってしまう。うかつでした。スケジュールが満たされれば、心も満たされると思っていたけれど、反比例みたいです。あちゃー。間違えた。到達だ。引き返そうにも、引き返せない。
ダンスのレッスン
みたいお芝居
行きたい美術館
友達との旅行
疲れた時に来る追加のシフト
新しく始める2つのアルバイト
夏までにとりたい車の免許
大切な戯曲を書く約束
びっくりした。どんなに素敵なお芝居や映画を観ても、言葉に触れても、以前より心が動かない。いつのまにか心臓がコンクリート。余裕がないとなんにも味わえないのね。冷蔵庫には、賞味期限が切れた合い挽き肉。今日こそハンバーグ、今日こそハンバーグを繰り返して依然、身を寄せ合う豚と牛。ごめんね。値引シールが早くつくれと急かしてくる。うるせー!黙ったシールに八つ当たり。
「大丈夫?」
転ばなくても、すりむかなくても、
立ち止まって、ちゃんと問いかけてあげないと。
何が必要で、何が不必要か、1番わたしが知っている。かちこちの心も、まるごと挽肉ぶち込んで、刻んだ玉ねぎ、涙がいっぱい流れたら、ゆっくり煮込んで、床につこう。
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