ナイショの話

 内緒の話をしようと思う。
 これが現実か、架空なのかは読んでくださっている方に想像していただきたい。

 わたしは、過去に元ホストの同い歳の男の子を好きになった。
 彼は身長はわたしと同じくらいだったけど、スタイルにも容姿にも恵まれていた。
 2人で歩いていても、すれ違う人々が男女問わず視線を向けてくるような。
 わたし的には自惚れだけど、身長も同じくらいだし、見た目上、いい感じに見えていたのではないかと思う。
 彼はホストを辞めたあと、ドラムの講師をしたり、とても優秀だったので、親の伝手ではあるが、NPOの代表取締役をしていた。
 車に乗るとき、ドアは必ず開けてくれるし、お会計もわたしのいないところでしてくれた。
 洋服を見ていると、わたしに似合いそうな服を片っ端から買ってくれた。
 わたしと彼とはプチ遠距離で、これは、人としてはどうかと思ったけど、親戚の突然の訃報が入ったときも、わたしを誤魔化して帰らずそのまま一緒にいた。

 わたしには秘密があった。
 彼はわたしのことが大好きだった。
 だから、最後まで言えなかった。

 彼の右腕には、長く太い傷跡があった。
 自分ではつけられないような位置に。
「ホストをしていた頃、昔の彼女にやられた」と彼は言った。
 やられた、とかそんな粗雑な言い方ではなかったけれど、今となっては彼がなんと言っていたのかは思い出せない。
 わたしは、その傷口を恐る恐る触ってみたりした。
 病院には行かなかったと言う。
 彼女を悪者にしたくなかったのだ。

 彼はそれだけ、好きなものには愛情を注げるだけ、注ぐ性格をしていた。
 彼はわたしを好きだと言った。
 「付き合ってください」と丁寧に言われた。
 わたしは、なんと言ったか覚えていない。
 記憶って曖昧だなと思う。

 どうして、彼との連絡が途絶えたのか、わたしがしなくなったのか、これまたよく覚えていない。
 だけど、今となっては、彼との交流は一切ない。
 たられば、と考える。
 もし、あのとき彼と一緒になっていたら、どうなっていたのだろう。

 そんなこと考えても無駄だし、これ以上話したら、話しに色がついてしまうかもしれない。
 だから、ここまでにしておこうと思う。

 今が幸せならそれでいいんだ。
 そして、彼も、どうか、今が幸せでありますように。

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