739番 田中

中卒。元受刑者。4年の獄中で読書に目覚めました。当時の読書録に少し加筆してUPしてます…

739番 田中

中卒。元受刑者。4年の獄中で読書に目覚めました。当時の読書録に少し加筆してUPしてます。真面目にやってます。感想文はすべて【ネタバレ】です。独断と偏見に満ちているのを前もって謝罪します。こちらからのフォローは経歴がよくないので遠慮してますが、していただいたフォローはお返しします。

最近の記事

又吉直樹「火花」読書感想文

読んでみると、おもしろいの一言しか感想が浮かばない。 それでは読書感想文にならないので、もっと考えてみた。 まずは文章のテンポがいい。 セリフがアクセントになっていて、読んでいて気持ちがいい。 話すことを仕事としている人の成せる技なのか。 148ページという短い物語の中に、20歳から32歳までの12年間の場面が、流れるよう書かれて収まっている。 あとはなんだろう。 以外なおもしろさ、というのはある。 ギャップというか、落差というか。 話題づくりの、陳腐なタレント本かと

    • 東野圭吾「手紙」読書感想文

      ほとんどの受刑者が読む本ではないのか? 差入れ本の中では、この『手紙』がダントツに多かった。 1週間に1冊か2冊は、差入れされてるのを見かけていた。 2年目からは図書係も兼ねていたから、この本を目にする度に『また “ 手紙 ” が入っている』とずっと思っていた。 受刑者は、差入れされた本は必ず読む。 好きじゃないから読まない、なんてことはない。 本とは、これほどうれしく感じるものなのか。 力が沸くものなのか。 いつも手にする度に思っていたし、皆の様子もそうだった。

      • スティーヴン・キング「スタンド・バイ・ミー」読書感想文

        初めてのスティーヴン・キング。 映画の原作者とは知っていたし、3本ほど観ていた。 たまたまかもしれないけど、その3本とも、よくわからないまま話が進んで、やがて「軍がきた!」となって、やはりよくわからないまま終わるパターンだった。 それでいて、アメリカでは有名なホラー作家だという。 さらに10年はかかって、映画の『スタンド・バイ・ミー』の原作者でもあるとも自然に知った。 つまりは、興味もなかったスティーヴン・キングだった。 ホラー小説も読んだことがないし、オバケの類は苦

        • 渡辺淳一「泪壺」読書感想文

          渡辺淳一の短編集。 6作が収められている。 短編も好きだし、渡辺淳一も好き。 作品がというよりも、言っていることが好き。 いちばん好きな言葉はなんだろう。 「セックマルは決してエロではない、むしろ人間がいとおしく見える」あたりか。 2014年に80歳で死去したときに、新聞で紹介されていた。 元医者なのだなと、生への俯瞰を感じさせる。 だから渡辺淳一は、男女の性愛をエロの一言で済ませたりしないし、恥ずかしいことだと隠さない。 こんなにも堂々とセックマルについて語れる

        又吉直樹「火花」読書感想文

          清水一行「苦い札束」読書感想文

          清水一行の初期作品。 6つの短編が収められている。 『昭和の経済事件史』と改題してもいい。 50年以上が経った令和になっても、同じような事件がおきているのが考えさせられる。 ※ 筆者註 ・・・ 以下、長めの要約となってます。もっと短くしようとあれこれしましたが無理でした。スキームを中心にした要約となってますが、本編ではもっと人間が書き込まれてます。清水一行作品に付き物の “ 女 ” も登場しますがカットしてあります。金額は当時のもので、現在に換算すると3倍から5倍に相当し

          清水一行「苦い札束」読書感想文

          清水一行「銀行恐喝」読書感想文

          『不正融資』と改題してもいい。 とある地方銀行の不正融資が描かれている。 1945年の終戦後から、1998年の平成10年にわたる時代の変化が、やがては不正融資となっていく。 作中には “ N県の西海市 ” とある。 これは、長崎県の佐世保市だとは10ページも読めばわかる。 巻末の解説では、同じく作中にある “ 西海銀行 ” とは ” 親和銀行 ” だと明かされている。 1998年の『親和銀行不正融資事件』だ。 元頭取らが、商法の特別背任容疑で逮捕されている。 翌年に

          清水一行「銀行恐喝」読書感想文

          清水一行「絶対者の自負」読書感想文

          清水一行は “ トップ屋 ” から小説家になった。 トップ屋とは、週刊誌が全盛期の昭和のフリーライター。 新聞が書かない特ダネを追い、派手に誌面のトップをとるから、当時は “ トップ屋 ” と呼ばれたとのこと。 それだからか。 事件や、スキャンダルや、不祥事を、暴くようにして書かれる小説が主となる。 人々が何に興味を持つのか、どこを知りたがるのか、並みの作家よりわかっていると感じる。 そんな清水一行の小説の特徴としては、金額がはっきりと何度もよく書き込まれているのを1

          清水一行「絶対者の自負」読書感想文

          石川拓治「奇跡のリンゴ」読書感想文

          無農薬でのリンゴ栽培がいかに難しいのか。 いや、絶対に不可能といわれていたのか。 誰も考えなくて、挑戦もしてない出来事だったのはよくわかった。 なぜ無農薬で栽培ができるのか、学術的な解説はほぼない。 そもそもが、解明されてない。 はっきりとわかっているのは、通常のリンゴの木の根は数メートルに対して、木村秋則(以下敬称略)のそれは20メートルはあること。 土の中の微生物が多いこと。 虫の生態系や雑草、病気や菌やカビが密接に絡まって無農薬のリンゴができること、とだけはわか

          石川拓治「奇跡のリンゴ」読書感想文

          落合信彦「20世紀最後の真実」読書感想文

          落合信彦は、世界各地へ取材に飛ぶ。 ニューヨークからカナダへ。 チリ、パラグアイ、ブラジル、アルゼンチンを回る。 そこからロスを経由して、西ドイツ。 小型機をチャーターして、デンマーク、ノルウェーへ。 “ その情報 ” をキャッチしてから、下調べと準備に2年間を費やしていた。 取材は1ヶ月に及び、1980年に『週間プレイボーイ』に連載された記事が本となった。 いったい “ その情報 ” とはなんなのか? 元ナチスの幹部である。 多くが南米に逃れているというのだ。

          落合信彦「20世紀最後の真実」読書感想文

          齋藤慎子訳「アランの幸福論」読書感想文

          幸福になりたい。 著者はまったく知らないが題名がいい。 前回に読んだ『超訳 ニーチェの言葉』の隣にあった本。 同じ出版社で、同じ重厚感がある装丁。 シリーズとなっているようだ。 手にとってペラペラ読みしてみると、1ページにひとつの言葉が抜粋されていて、意訳が数行あって、空白が多めになっている。 なにかひとつでも。 なにか心に残れば、と借りた。 噛みしめるようにして、じっくり読んだ。 通常の読書では、口に出す “ 音読 ” はしない。 が、あえて音読して、じっくり2時間

          齋藤慎子訳「アランの幸福論」読書感想文

          白取春彦編訳「超訳 ニーチェの言葉」読書感想文

          ニーチェの本となると、読む前から挫折しそうな気が。 でも避けて通れない。 その名前と、昔の哲学者とは知っている 官本室にあってマークしていた本となる。 春の日だった。 手にとってパラパラとめくってみた。 文字量は少なくて、余白が多い。 1ページには抜粋がひとつ。 そこに、数行の意訳があるだけの232ページ。 これだったら読めそうだ。 実際に1時間ほどでペラペラと読める本だった。 読んだはいいけど、どうも抜粋だと頭に入ってこない。 超訳すぎるかも、という感想だ。 1時

          白取春彦編訳「超訳 ニーチェの言葉」読書感想文

          松本清張「ガラスの城」読書感想文

          向かう高層ビルの外観は、折からの朝の日を受けて総ガラスの窓が煌めいている。 壮大なガラスの城である。 ガラスは反射鏡のように、周辺のビルの風景を、光と影の対象で映していた。 中に入ると輝くばかりに明るい。 女子大を出て、最初にこの建物の中に入ったときは、誇りと喜びとに胸が震えたものだった。 それから6年が経った。 今のわたしには、その夢も薄くなり、色あせている。 ・・・ 彼女の鬱屈が続いていく。 東亜製鉄株式会社の社員の三上田鶴子の手記である。 そのガラスの城の13

          松本清張「ガラスの城」読書感想文

          マイケル・デル「デルの革命」読書感想文

          デルとは、あの『 DLL 』。 マイケル・デルは創業者。 1999年にアメリカで出版された。 2000年に日本で出版となる。 18歳で創業してから、15年で全米No.1のパソコンメーカーとなったときに口述した本となる。 絶頂期の本ともいえる。 そうして見ると、表紙のマイケル・デルは、ドヤ顔しているかのようでもある。 だから多少は割引いて読む。 が、巻頭の “ はじめに ” では、マイケル・デルはビシィッと述べる。 この本は、自伝でもなければ、デルの社史でもない。 私

          マイケル・デル「デルの革命」読書感想文

          冲方丁「光圀伝 下」読書感想文

          下巻は、27歳からはじまる。 駆け足気味で、青年から晩年までの光圀像が描かれる。 70歳のときに『大日本史』の草稿が完成する。 ここまでに40年を要している。 後に影響を与えた大書だと十分にわかった読書だった。 巻末の解説は筒井康隆となる。 この『光圀伝』を絶賛している。 冲方丁は、徳川光圀の伝記資料を実によく研究しているとのこと。 伝記資料とは、以下が挙げられている。 『桃源遺事』 『義公行実』 『義公遺事』 『玄桐筆記』 『西山遺聞』 聞いたこともない資料ばかり

          冲方丁「光圀伝 下」読書感想文

          冲方丁「光圀伝 上」読書感想文

          むずかしい人物を描いた小説。 水戸黄門だ。 むずかしい読書になりそう。 テレビ番組のイメージが強すぎる。 水戸黄門は全国を旅する。 葵の御紋の印籠をかざして、下々を土下座させて、高らかに笑うおじいさんのイメージが強い。 それは創作だとは知ってはいるが、いったんイメージがついてしまうとマズい。 読んでいる途中で、人生なんとかというテーマソングが浮かんできそうな気がしてならない。 しかし避けては通れない。 読書をするようになると、水戸光圀の名前はちょいちょいと出てくる。

          冲方丁「光圀伝 上」読書感想文

          ぴあMOOK「東京BAR 10×10」読書感想文

          よくあるバーを紹介する雑誌。 厚さ1センチに満たない雑誌に、東京にある100のバーが紹介されている。 表紙には『老舗の各店から話題の新店まで。仕事にオフにと使いたい。初めてでも安心のもう1件を教えます』とあるのが心強い。 『栄冠の1杯に酔う』ともあるが、そこまで酒に入れ込んではない。 いいなと感じたのは、老舗のバーが目立つこと。 話題の新店ばかりの雑誌もあるけど、ああいったのはどうも宣伝臭がして、読んでいてなんかつまらない。 10のテーマごとに10店で計100店。 だ

          ぴあMOOK「東京BAR 10×10」読書感想文