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【書評】レヴィ・ストロース『構造人類学ゼロ』

 アメリカの死相が出ている。それを予見したのがこの本だ。若き人類学者が書き留めた1940年代のアメリカ合衆国についての考察。ストロースのその時の職分は文化参事官である。

 「アメリカほど、他人同様、自分も幸福になれるような国はどこにもない。しかし、集団的解決に同調できない人、あるいは同調を欲しない人にとって、アメリカほどどんな災難が訪れるか分からない国もない。そこにこそ真の悲劇、アメリカ文明にとっての根本的な悲劇が始まる」

 先住民への攻撃や南北戦争を歴史的錯誤と顧みることのない、前提の間違った社会の姿をストロースは読み取った。そして書く。

 「アメリカ社会は一つのモデルしか示してくれない。そのモデルの諸要素は連結しており、どれかを選ぶということを許してはくれないのである。アメリカ文明は一つのブロックである。それを総体として受け入れるか、甘んじて放棄するか、どちらかだ」

 若き思索者ストロースにはすでにこの時、文明の未来社会を考えることは原始未開の人類の原型を掘り下げることという意識を持っていただろう。ひょっとして社会や政治の前世と来世は同じという認識も。

 「われわれの現在の関心事、それは人間の諸問題を開かれた社会、あるいは日一日とますます開かれた社会へと向かう、そういったものであるが、それはもう一つの大事なこと、人間にとって根本的なことを見失わせているのではないか。一つの人間集団が他の集団と比較し、あるいは対立することによって、自分たちをまとまりのある集団として認識するということが、全的平和と全的戦争の平衡要因になりうるのか?」

 故人はそう問う。

構造人類学ゼロ (単行本) 単行本 – 2023/8/21

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