【書評】ルース・ベネディクト『菊と刀』
「20世紀の問題点のひとつは、私たちは何が日本をして日本人の国たらしめているかだけではなく、何が合衆国をしてアメリカ人の国にしているかについても、いまだにこの上なく漠然とした偏った見方しかできていないことです」
本を書き上げて、著者はそう述べている。己を知り、敵を知ること。それが兵法の教えだが、彼女は戦略かでもなければ政治家でもない。それなのに、いや、それゆえに白羽の矢が立った。
「1944年6月、私は日本について研究する任務を与えられた。文化人類学者としての専門技術を総動員して、日本人がどういう民族であるのか、細部にわたって解明することを求められたのである」
でもどこからどのように?アメリカ人はアメリカ人を世論調査し、その結果を理解できる。それは自明の前提があるから。アメリカ人はみんなプラグマティストだ。パール・ハーバーはだまし討ちで、カミカゼは非理性のきわみなのだ。
いっぽう日本人は、物量に対する精神の闘いを挑んだ。そして惨敗した。先般たちが裁かれ、天皇が人間宣言を行った。生き残った日本人は占領政策を受け入れて生活再建に取り組んだ。
そこから78年たった。ベネディクトの冒頭の疑念はいぜんそのままだ。アメリカは変わり、日本も変わった。だがどっちも世代を経てさえ変わらない固い殻を保持しているように見える。
ということは、この本は古びない。
著者の謝辞にマーガレット・ミードとグレゴリー・ベイトソンの名前がある。
菊と刀 (講談社学術文庫) 文庫 – 2005/5/11
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