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チェスタトンの悟り

 「おとぎ話はふたつの確信を私の中に植えつけていた。第一に、この世界は実に不思議な驚くべき世界であって、今とは全く別線になっていたかもしれない世界、しかし同時に全く異様に歓びに満ちた世界だという確信。第二に、この不思議と歓びを前にしては、現実の制限に従わなければならないという確信。このふたつだ」
 そのチェスタトンの少年時代の確信は大人になるにつれて揺さぶられることになる。1874年生まれの彼を揺さぶったのは産業資本主義だ。そのパワーとスピード。合理と効率のひたすらの追求、生産と消費の目まぐるしい循環。
 「気がついてみると、モダン・エイジは高潮のように私の心根に攻めかかってくる」 彼はそれに抗せねばならないと思った。さもなくば正気を失ってしまう。彼は自問し、答えを見つける。
 「現実の人間の歴史を通じて、人間を正気に保ってきたものは何か?それはファンタジーだ。心に想像図を持っているかぎり人は狂わずにいることができる。一方の足を大地に置き、もう一方をおとぎの国においてきたからである」
 そして彼はもうひとつのことも見つける。「狂人とは理性を失った人ではない。理性以外のあらゆるものを失った人だ」ということを。彼はとどまる。現実世界と想像世界のはざまに。そこで悟る。
 「あらゆる人間に共通なものごとは、ある特定の人にしか関係のないものごとより重要。つまり平凡は非凡より値打ちが高い」
 近代社会は物質的な豊かさをテクノロジーによって実現した。だが代償も大きかった。多くの人々はいま孤立化していえる。いまこそ先人の声を聞く時かもしれない。

正統とは何か | ギルバート・キース・チェスタトン, 安西 徹雄 |本 | 通販 | Amazon

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