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#研究開発ベンチャー「山あり谷あり」起業から今までの道のり(6)

2019年の10月には完成したプラズマ装置は佐賀県の公設機関で何とか開発させてもらえるようになりました。自社で開発した装置でどのようなことが起きるのか、誰もわかりません。最初は職員さんもそっけない態度でした。

先ずはみかんの試験よりも何よりも、センター働く職員さんの安全を担保しなければなりません。プラズマ装置からは「オゾン」が発生します。オゾンは低濃度では人体に影響がないのですが、高濃度になると健康に害を及ぼします。装置を稼働したり止めたりを繰り返し、オゾン濃度がどれくらい上がるのか、どれくらい経つと消えてしまうのか、どうやって実験を進めていけば職員さんも安全なのか、実験データを取って色んなことを想定しました。

2020年に1月になると、みかんの貯蔵のシーズンがやってきました。実験用みかんの提供を受けて、去年同様一人でひっそりやるのかと思っていたら、職員さん数名で実験用テントの設置を手伝ってくれました。みなさん、とても明るく、喜んでやってくださいます。

設置したテントの中にプラズマ装置を置き、みかん入りコンテナを置き、実験開始です。私がデータをとっても信ぴょう性がないので、みかんのデータを取られるのは、柑橘の研究員の方々です。実験がどうなっていくのか本当に「ドキドキ」です。「ギャンブル」です。実験開始の夜、家に帰ると、装置が正常に作動しているかどうか、みかんが傷まないか、結果が出るか、職員さんの安全を保てるか、とても不安になりました。

毎日考えていたら不安になるので、ある日の朝4時に起きて、6時の装置の稼働状況を確認して、危険な濃度のオゾンがテント外に漏れ出てないか、測定に行きました。何回やっても安全な測定値しか出ませんでしたので、だんだん不安が解消されていったのを覚えています。

実験開始から1か月が経過しました。試験場では研究員の方がプラズマ装置で処理したみかんの状態を一つ一つ検査・評価し、数値化し、装置の効果を客観的に判断できるようにしてくださいます。その中でも腐敗率は明らかな差が出てきました。1か月を経過した時点でも色んな事が判明しました。

みかん腐敗の主原因は「ミドリカビ」ですが、みかんのカビは放置しておくと伝播していきます。昔、金八先生で流行った「腐ったみかんの方程式」そのものです。プラズマ処理区もカビは発生するのですが、カビみかんが枯れてしまって、伝播しないのです。

この頃から実験中に「謎だらけ」の事が起こり、そのメカニズムを探ろうと暇をみつけては、図書館に行き、論文検索をして色んな論文を読み漁りました。実は私、20歳になってから医学部受験をした経験があり、筆記試験に合格しましたが、面接試験で不合格になりました。理科はすごく得意科目で、化学と生物をかなり勉強しました。その基礎知識が功を奏し、少し忘れていましたが、割とすんなりバイオテクノロジーの知識が身につきました。もう受験生活から4半世紀が過ぎています(笑)こんなところで、まさか、そんな知識が役に立つとは、人生って面白いですね。

実験するたびに「謎」が出てきて、論文検索をする日々が続きました。それにすごくハマってしまって「没頭」してしまうのです。本当にエスカレートして没頭してしまうので、ある日大学の先生から「趣味でやっているのかぁー、事業が進まないじゃないかー」と怒られてしまう始末です。

起こった事象が「科学で明らかになっていること」もあれば、全く未知で科学で解明されていない現象も起きます。例えばある条件でプラズマ処理した青レモンはいつまで経っても黄色になりません。青いままなのです。これは、黄化したら商品価値が無くなる「ライム」や「ゆず」に利用できます。ただ、何故そのようなことが起こるのかは科学では解明されていません。プラズマで農作物を処理することは、まだ謎だらけの世界なのです。(続く)




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