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さわやかなピッタリフィットってことじゃろ?

 気軽に外出ということが叶わなくなってもう1年半、学校と塾以外はほとんど家で過ごす息子たちは、この頃私が「今日は買い物に行ってきた」と繁華街の雑貨店の名前など挙げると「いいなぁおかあさんばかり」「俺だって買い物に行きたい」と羨望を隠さないようになった。

 たとえば、昨日私が赴いたのは街中にある「ロッツビル」という古い雑居ビルで、ここには雑貨店「ロフト」と生活用品全般「無印良品」が入っている。しかし息子たちが思うような、棚から棚へ、フロアからフロアへ蝶のように楽しくさまよい、思う様時間を過ごすような買い物ではない。
「まずメモ帳を買うぞ、よしこのサイズ、この厚み、そしてお値段よし!つぎにサインペンだ、名前を書くための細い字のペンがないとみんな言っていた、3本くらい買っておこう!よしつぎ、シャーペンの芯がないと言い出すのはいつも夜だ、ぜひひとケース予備をおかねばならない、これだHBの硬めのやつ」「サァ無印にやってきました、今日のミッションは秋冬のボーイズの下着とお弁当の保険にレトルトのおかず、そして辛くないカレーだ!」運動会の借り物競走のように追い立てられながら買い物をして(追い立てられるのは何にかというと、息子たちの帰宅時間であり2階のベランダに干されたままの洗濯物だ)、サンタのように大きな袋をパンパンにして帰宅。それが私の買い物だ。へとへとだ。

 オンラインなら落ち着いてショッピングできるか?
 そういう場合もある。この間は長年の友人にカーディガンを編んであげようと思いたち、馴染みのネットショップでモヘアの毛糸を選んだ、これはたいそう楽しかった。「ほぼ日」のサイトで、しんちょうにしんちょうに「いいもの」を吟味するのも大好きだ。あまりしょっちゅうはやらないけど。

 慣れているつもりのオンラインショッピングだが、昨日のそれは今までで一番大変だった。
 
 おぱんつ。男性向けの。

 無論、夫のある身だし男児2名の母であるので今まで何枚も購入している。実績はあるつもりだ。ブリーフ、ボクサー、トランクスの違いもわかる(中高生の頃は、トランクスのことをブリーフに重ねばきするオーバーパンツだと思っていた)し「前閉じ」「前あき」の区別があることも購入前にチェックしている。(しかし我が家族がどっち派なのかはよう判らん)(判らんので大は小を兼ねる的に前あきを選んでいる)

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 この度問題になったのは、「むれない」「おさまり具合」を追求しなければならない事態となったからだ。何の。何が。それはアレだ、ナニだ。
 もともと落ち着きのない長男が、もっと落ち着きなくもぞもぞする。どうしたのと問うと、夫が横から「パンツが良くない」という。どう良くないのだ。何を望みたいのだ。問い詰めるとそれは股間のもの、わたしには付いていないもののしめつけ具合の事情であるというのだ。そんなんわたしにはお手上げやん!あんたたちでいいものを見繕って買ってきなさいな。無論わたしは彼らにそう言ったのだ、しかし返事は芳しくないし夫は一向にぱんつを買ってくる様子がない。そして長男は相変わらずもぞもぞしている。

 さらに聞き取り調査を試みる。話題は股間に限局しているが、少なくともわたしは真剣だ。「お下劣な」言うな次男。きみも再来年にはきっと同じ問題に直面するのだぞ。そしてここで、「ムレる」「おさまり具合」というキーワードが出てきた。「おさまり具合は大事だ、夏場はムレも大問題」と夫が横から元気よく言葉を挟む。ほほう、知らんかったー。保健体育の授業は全く実用に値する内容を学べなかったが(昭和の時代である)、大学での解剖学実習では”男性の構造”についてちゃんと学んだし、泌尿器科の座学も実習もサボらず真面目に行ったけどそんなことは教えてもらえなかった。なるほど、ぱんつでぐっと押し付けられたらあの辺りのややこしいパーツたちはひっつきもっつきして気持ち悪そうである。

 ふむ、とパンツを検索しはじめる、「男性 パンツ ムレない」。しかし、3つも検索ワードを重ねたのに画面には大量のパンツの画像があふれ、ちっとも決定打が見つからない。

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 ムレないことはとても大事だと思う。さらっとしたはき心地は、女性の私にもとても大切な要素だ。しかし、「おさまりぐあい」となると、”持たざる”わたしにはもうお手上げである。だいたい足と足の間に、自由に垂れ下がる、ある程度の質量のある器官が3つも存在しているとは何事だろうか。歩きにくいだろう、走るなんてもってのほかだ、神さま、設計段階で着脱式にするか、固定するホックを標準装備にするかしたらよろしかったのに。

 さらに、「ムレない素材」だけでなく、「完全分離」なる謳い文句を有するおぱんつたちを発見した。完全に分離!何と何が分離するの?右と左?前と後ろ?
 愛用のPCモニターにあふれかえるおぱんつの画像を一つ一つスクロールするが見た目はみんな同じに見える。分離している様子はない。さらに一生懸命調べると、分離されるのは「体から、アレやコレやを」ということらしい。3つの器官を、それぞれ特別に立体裁断縫製したポケットに収めることでムレを防ぎ収まり具合も安定させる由。ブラみたいなもんか!パワーネットで安定とか、痛くないワイヤーで支えますとか、いっそボリュームをあげます上を向かせますとブラの世界もすごいもんね、おぱんつだって同じように発展してないわけがない。知らんかったわー。

 いくらハイテクでも、履き心地が悪いのでは本末転倒だ。こんなときは、実施に買って履いた人たちの声がいちばんだ。かくしてわたしは「ぱんつのレビュー」を読みまくることになった。

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 「ぱんつのレビュー」で特筆すべきなのは、書き手の皆さんの深い配慮である。シャツや上着、ズボンスカートと違いぱんつのはき心地を語るためには避けて通れない、お尻近辺のワードを連呼する必要がある、そこには深い深い配慮が必要だ。具体的には代替語や指示語が多用される。書き手によって用いられるそれらが、お寿司だったりご子息だったり唐突な指示語だったりして人柄が感じられるし、あまり連呼されると奥ゆかしいんだかストレートなんだかわからなく、読んでいるうちにおかしくてたまらなくなった。
 先ほど解剖実習にちらりと触れたが、わたしが実習で担当したのは女性のご遺体だった、だから男性特有の部分についてはどうしても手薄になり試験勉強においても後回しになる。「起源は男性も女性も同じ、なんとかなるよね!」と口頭試問(ラテン語)に望んだら、まんまと引き当てたクジは「男性生殖器」(わたしの出身校は、口頭試問の際何かとクジを引かせたのだ)。くじ運!そして、予想に反して何を問われてもびっくりするほど何も答えられない。担当の教官は呆れ顔をしつつも「じゃぁこれは?」とあるものを示した。「サスガニソレハワカリマス…testis」このやり取りだけで通してくださった。

 レビューの文章を味わうほど読み込んだものの決定打に至れないわたしは軽く焦っていた。これいい!と思うとサイズがない。やっとサイズを満たしても柄がヘン。素材が痒そう。…焦らずともやめれば良さそうなものなのに、なんとしてでもこの場で決めてしまわなければならない気がしていたのだ。たかがおぱんつなのに。

 しかし、窮すれば通ず、このことわざは、おぱんつ選びにも通じる話だった。

 脳みそのシワの中からさまよい出た記憶が鼓膜を揺らす、「3Dぱんつはいいですよぜひはくべきですね」糸井重里氏の声で。数年前、毎月配信されていた「気まぐれラジお」なるインターネット配信されるラジオ番組で、糸井氏がアツく薦めておられ、素直に応じた方も、ムリヤリ贈られた方も「…これは、いい!」と驚いていらっしゃったのを、わたしの脳はちゃあんと覚えていたのだ。持たざる身なのに。

 検索ワードを変えよう。

 糸井重里 3Dぱんつ

 ああ友よ、出ましたよずばりの商品ページが。お値段は張るが素材は綿だし、シリーズ展開の中には「縫い目をわざと外に出して肌あたりをよくするアトピーシリーズ」まである。弊次男はアトピっ子、軽微な刺激にも痒みが誘発されてしまう体質だ。幸いレギュラーバージョンとおねだんはかわらない、試しにこれを1枚ずつ買ってやれ。

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 そして今日、我が家のポストにぱんつ2枚をいれた箱がインされたのである。入浴する息子たちに一枚ずつあてがった…内心祈りながら。祈りの言葉は口には出しかねますが。

數十分後、脱衣所から響く長男の声
「なにこれ、めっちゃいいいい!!!!」

ムレない素材&収まり良い立体縫製は、履いた瞬間わかるものだったようだ。すごいな3D。しかし、わたしが一番重要視したいのは「もぞもぞしなくなるかどうか」だ。
 なので、夕方もう一度息子に問う、「ぱんつ、どう?」

 変わらない笑顔で「いいよ!めっちゃはき心地いい、あと体育前に着替えていたら友達が「何それ!俺もそれ買う」と注目していたそうだ。
「アイツノハ チョー ナガイカラ、ハイテ ミセビラカス ツモリダロウ」

 ごめん、そういうのはおかーさんにはどうでもいいわ。

 意識しすぎてそちら方向に異様に潔癖な次男は、「さらっとした蒸れないはき心地」には合格点をくれたものの、「収まり具合」にはノーコメントを貫いた。そのかわり、今回対象外とした夫が大変興味を示している。

 今日、追加購入します。

 だからさ、購入・検索履歴からぱんつばかりネット広告に出してくるのやめてね。


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