会社の伏魔殿に凸った

お掃除系の会社で働いている。仕事場の人数は8人。僕は最年少だ。無口で詰まらない奴で通っている。だがその実態はスパイだ。

リーダーの直接の指示で動いている。縦割り組織を破壊するために、すべてのエリアへ潜入しているというわけだ。

これまでに3つのエリアに潜入し、そこでの仕事をマスターしてきた。残りは最後、4階エリア。最後にして最難関なのである。

現担当者は、なにかと逆三角形が似合うばあさん。この仕事場で一番の古株。その三角ばあさんと僕の二人三脚での仕事が始まったわけだ。

そこでの時間の流れは他と違っていた。仕事量が少ないのである。楽ではないが、他エリアにある"苦"は無かった。さほど時間にも追われない。伏魔殿のファーストインプレッションはそんな感じだった。

ここの実情は誰も知らない。全体をマネージングしている係長ですら詳細は把握できていない。ずっと三角ばあさんが担当していたからだ。前任者を知るものは誰もいないのである。

仕事量が少ないのは仕方ない。他エリアへ手伝いに行けない正当な理由もある。だからこその1人エリアなのだ。『伏魔殿』。その肩書が生まれた背景を知れば、そうなる必然性すら覚えるのであった。

「無口なタモツ君と仲良くなろう」。その建前ではじまった僕のスパイ大作戦。今に思えば他エリアの潜入も、この4階エリアへ入るための布石だったのかもしれない。

怪しまれず「次は4階だね」と言うための布石。間違いなくこの4階エリアの仕事を覚えたとき、僕のミッションはコンプリートするのだろう。

仕事は順調に進んだ。奇妙に思える作業もあったが、マニュアルの大外のことなので問題にはならないだろう。作業の短縮ポイントにはなるが、そこは自分の役割を優先させる。

とにかく現状をそのまま上へと報告するのだ。勝手に作業の効率化を進めてはいけないのである。

そして僕のスパイ大作戦は終わった。三角ばあさんの「おつかれ〜」の言葉でコンプリートしたのである。その後、僕はそのまま4階エリアを担当することとなった。現場のトップである係長と共にである。

僕が係長に仕事を教えることでスパイ活動の報告となった。三角ばあさんはというとCエリアの担当となった。噂では係長との大喧嘩の末に決まった異動らしい。文字通り最後の抵抗であった。しばらくして自己退職されたからだ。

その後に改革は始まった。まずは全員が全てのエリアの仕事を覚えることになった。そのうえでローテーションを組む。ひとつのエリアに固定されない配置となったわけだ。

メリットはすぐに現れた。以前にはなかった助っ人システムが作動したのである。夕方になると局所的に忙しいエリアに人が集まるようになった。動ける人はより動けるように。僕の仕事は増えたが、結果的に皆が楽になったのである。

あの4階エリアはというと、係長の専属エリアとなった。ルール的に他エリアへは行けないからだ。マネージング業との兼業で忙しいと思われたが、奇妙に思える作業を無くしたり効率化を図ったことで問題無くまわるようになったらしい。

全員が楽になった。僕も作業量は増えたが、仕事を探す必要は減ったので楽になったと思う。休みも取りやすくなった。活躍もしやすくなった。いい事づくめだ。

これが職場改革。僕をスカウトするために以前の職場を訪れたとき、すでにこの光景が見えたと思うとゾッとする。係長恐るべし。

僕の役割は終わった。これからどうなっちゃうのか。お役御免だけは勘弁してほしい。これからも係長への注意は必要だ。

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