職場の机で「カビぱん」作った

医療系の研究施設で働いている。派遣社員としてだ。給料は良くない。おそらく他の派遣社員と比べてもだろう。なぜなら派遣元の正社員だからだ。そんな僕は、オーナー会社の課長の補佐役として彼ら彼女らの「めんどくさーい」を一手に引き受けている。

課長は優しい人だった。怒りを露わにすることはないし、その姿を想像すらさせないような振る舞いを待ち合わせている。見た目も温厚。どことなくサザエさんの旦那さんに似ている。性格も含めてだ。そんなマスオ課長は忙しい人。一派遣社員の僕にずっとかまっている暇はないのである。

普段の僕の上役にあたるのは、6つ上の兄さんだった。普通にイケメン。爽やかの表現が似合う一方で、話もおもしろく下ネタもぶっ込んでくる。さしずめ福山雅治。いたずら小僧な一面もあるので、カツオ的な側面もある兄さんだった。

そしてカツオ兄さんの補佐役であるワカメ姉さんも僕の上役となった。姉さんは僕の4つ上。お世辞にも美人とは言えない。かわいくもない。絶賛婚活中ではあるが、ボーナスが出ると決まって3日ほど休むそう。パチンコに通うためだ。そんなお二方に囲まれて僕の派遣社員は始まったのである。

ちなみに僕の立ち位置はタラではない。イクラでもない。さしずめ無口なアナゴ君あたりだろう。そう、僕は無口なのだ。係長が心配してたのもこれだ。タモツは新しい職場に馴染めるのか否か。それが関係者で共有している不安要素なのである。

だがそこはオーナー会社だ。規模の大きい一流企業。給料3ヶ月分のボーナスも伊達じゃない。タモツ対策も万全であった。

カツオ兄さんとワカメ姉さんは、特段コミュニケーション能力の高い人だった。組織の中でも中心になることが多い。まさに評価に反映されづらいが会社に必要な人。タモツ対策には適した人材だったと思う。(ありがとうございます)

だがもうひとつの不安要素もあった。僕は”やらかす”ことが多い。履歴をさかのぼれば、いろいろとあやらかしている。それは新しい職場でも変わらなかった。

パソコンに対しては特にひどい。「マウスが使えません」と騒ぐも、原因はボタンの押し間違え。左ボタンではなく中央のホイールを押してた。「変な窓が消えません」は、机に積まれた書類でディスプレイのメニューボタンを押してた。

エクセルの誤字脱字と印刷ミスも頻繁に起こした。あっという間にリサイクルしたメモ帳の在庫量は事務室で1位となったのである。

一番ひどいのは机の整理整頓であった。自席のある事務室は人が多くて苦手だ。電話にはタモツ対策として出なくていいことになっているが、電話が鳴ると、それはそれで気まずい。そのため不在にすることが多かった。誰かにもらったパンも机の中でカビてしまうのである。

小学生以来の不祥事であった。申し訳ないよりも恥ずかしい。パンをくれた人には謝りたい。小学生の時は優しい同級生のお姉さんが片付けてくれたが、今回はワカメ姉さんが片付けてくれたのである。(ありがとうございます)

「あいつは大丈夫か?」。そんな声も聞こえてきそうだったが、寛容な人が多くて助かった。けれどもそんなキャラが定着してしまったのも事実。無口でやらかす奴。できればそんな汚名は返上したいところである。

思えば以前の職場では若さゆえの体力勝負で汚名を返上をしていた。けれども今度の職場はホワイトカラー。体力は使えない。与えられた職務で結果を出す以外に方法は無いのである。

そもそも僕が派遣社員として呼ばれた理由は次の通りだ。

施設の老朽化によって発生している不具合を見つけて是正したい。そのためには施設の使用者と管理者の視点を持ち合わせている者の意見を聞く必要がある。その者と最適解を見出して、その方法を計画している新施設の構想にフィードバックさせたい。

割と責任重大である。大丈夫か自分。係長が大きく心配していたことはこれであった。それでもGOサインを出したのは、おそらく僕の”いたずら心”に期待をしたのだと思う。思い返せば、僕は誰も思いつかないことをやってきた。それは”いたずら心”もとい興味本位なのだが、結果的にプラスになっていることが多かった。

洞察力と分析力、解決力と実行力。それらが試される。係長のGOサインはそれを見越してのものだったわけだ。そんなちいさな期待の裏には会社の戦略も見え隠れする。つまりは利益の大きい案件なのだろう。経費の安いタモツをあてがえば尚更。それらすべてをひっくるめての出向なのだろう。

のぞむところだ。てはじめに机の整理整頓を心がけた。もらったお菓子はすぐに鞄に入れることにした。そこならカビても誰にも見つからないだろう。治らないものは隠せばいいのである。僕の戦いは始まったばかりだ。

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