韓国の引きこもり対策

https://youtu.be/rGetZGzG9G8  


日本と同じように儒教の教えが残り核家族化が顕著な事でひきこもり問題が深刻な韓国で月額7万円の「韓国版・引きこもり対策」と名付けた壮大な社会実験が始まる


支援金を配って社会復帰を促すアプローチは、孤立に苦しむ若者を救い、広がる閉塞感を打破できるのかがテーマである


青少年の引きこもり問題をめぐって、韓国で壮大な実験が始まろうとしている。孤独な若者に定期的に生活費を支給することで社会復帰を促そうというアプローチだ。

女性家族省は4月半ば、引きこもりの若者に最大で毎月65万ウォン(約6万9000万円)を支給する方針を発表した。職業訓練などのサポートも提供するという。

世界有数の経済大国となった韓国では、寿命が延び、生活水準も上昇している。

今回、引きこもりという少数派の弱者への支援を決めたのは、この社会問題が深刻化していること以上に、社会福祉制度の成熟を物語っていると専門家らは指摘する。

女性家族省は9~24歳を対象に、就学支援やカウンセリング、職業訓練の拡大も打ち出している。自傷行為をはじめ若者を取り巻く危険な状況は以前から指摘されてきたが、そうした懸念に引きこもり問題を結び付けた形だ。

国立保健研究院によれば、19~39歳の3.1%に当たる推定33万8000人が社会的孤立を経験している。別の調査では、引きこもりの40%が思春期に引きこもりが始まったと回答した。

女性家族省の報告書では、ある17歳の若者の引きこもりの原因として家庭内暴力と鬱病が挙げられていた。

この青年は一日の大半を寝て過ごし、外出するのも他人と目を合わせるのも苦手だった。教室に無理やり連れ戻されそうになったことで不安などの症状が悪化した若者もいる。

「引きこもりの若者は、不規則な生活や栄養の偏りにより身体の成長が遅れやすい。また、社会的役割の喪失や適応の遅れなどの理由で、鬱病などの精神的困難に直面する可能性が高い」と、同省は指摘している。

韓国が直面する課題は引きこもりだけではない。2020年に5184万人でピークに達した人口は、22年には5163万人にまで減少。

22年の合計特殊出生率は0.78で、出生数は1970年の統計開始以降最も少ない24万9000人だった(国連は人口維持のためには出生率2.1が必要としている)。

尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領は今年3月、出生率の低下は「重要な国家的課題」と語った。韓国は過去20年間、対策に巨額を投じてきたが、隣国の日本と同じくこの問題は根強く残っている。

コロナ禍で孤立が深刻化

一方、65歳以上の高齢者が人口に占める割合は昨年、17.5%を記録。25年に20.6%、70年には46.4%に達すると予測される。15~64歳の生産年齢人口が減少するなか、社会保障の負担は膨らむ一方だ。

韓国政府によれば、引きこもりの若者は「一定期間以上、外部と切り離された狭い空間で生活している」。

彼らは学校でのいじめや学業のストレス、家庭内暴力、一般的なケアの不足などさまざまな要因によって「通常の生活を送ることが著しく困難」な状態にある。

ソウル市当局の1月の発表によれば、市内に住む19~39歳の4.5%に当たる12万9000人が、主に失業や社会的・心理的困難が原因で孤立した生活を送っている。

そのうち、引きこもりが5年以上続いている人が3分の1近く、10年以上引きこもっている人も11.5%いた。

同市が若者5513人を対象に行った調査では、半数以上が「引きこもりを解消したい」と答えており、同様の状況にある人は韓国全土で61万人に上ると推定される。

高齢者の社会的孤立については長年、研究がされてきたが、コロナ禍にステイホームや「社会的距離」が奨励された結果、孤立する人々は幅広い年代に拡大した。

韓国統計庁によれば、昨年に孤独を感じた人々は韓国全体の20%に上る。

「ここ30~40年の急速な産業化や家族の規模の変化、労働市場の見通しなども社会的孤立の理由かもしれない」と、米ブルッキングス研究所のシニアフェローで韓国部長を務めるアンドルー・ヨは指摘する。

「これまで政治家が働きかけをしてきたのは高齢者層だったが、総人口の上層部に人口が集中しているままでは経済政策が安定しない。現在の政府は、未来についてもっと考える必要があると理解している」と、ヨは言う。

「引きこもり」か「寝そべり」か

「韓国社会全体もそうだが、特に政府と保守政党が、若者にも支援が必要だと訴えていくことが一つの手だ。だが支援金は長期的な解決策にはならない。政府は若者を社会に取り込み、社会的にも気持ち的にも幸せに生きられる政策を整備すべきだ」

政策立案者たちは、統計上の数字をもっと掘り下げ、現状を見極めることが必要かもしれない。今の若者の状態は引きこもりなのか、それとも数年前から中国社会で広がる、無理に頑張らない生き方を指す「寝そべり主義」なのか。

今年3月、中国で16~24歳のうち無職者は20%近くに上り、同時期の韓国の若者の無職率7.2%を大きく上回った。

韓国の指導者たちは、社会の変革に伴う伝統的価値観の大きな変容、つまり集団主義よりも個人主義を、干渉より自由を選ぶ人がいる社会を受け入れる必要がある。

韓国政府の推定では21年には単身世帯の数が716万に上った。この数は全体の33.4%と、05年の20%より増加しており、50年には39.6%と40%近くになる見通しだ。米国勢調査局によれば昨年のアメリカにおける単身世帯は全体の29%だった。

社会的孤立の解消を目指す尹政権の政策はまだ十分議論されていないが、表面的には安心かつ成功した社会や若者にとってマイナスのように見られてしまうかもしれないと言うのは、ソウル女子大学校のデービッド・ティザード助教だ。

「近年高まる個人主義の風潮は、新語などをたどると7年前に生まれた。保守か革新かに関係なく、政府が税金を社会福祉に使う必要性に気付いたことも背景にある。この考え方は韓国では歴史が浅い」と、彼は言う。

非営利団体アジア・ソサエティー・コリアセンターのミシェル・シヒュン・ジューは、尹の路線は若者支援という公約を守り、大統領としての評価を高めることになるかもしれないと語る。

「韓国の若者には、未来を形作ることに参加できなかったために未来に悲観的になっている人もいる」と彼女は言う。

「一般社会も以前に比べて、これは誰かが介入すべき問題だと認識していると思う。昔だったら、『彼らは若い。彼らは立ち直れる』と言われていたところだが」

ジューは、一つの解決策として、政府と次世代が高校や大学で交わる機会を増やすことを挙げる。

「自分たちが孤独を感じていると気付いてすらいない状況だと、若い学生が声を上げることがとても難しい。たとえ彼らが統計上はそうカウントされていたとしても」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?