街灯を歩く


風邪を引いた時の鼻水みたいな臭いがする君を愛していた

いつも同じ子どもみたいな英字の書いてある、いつも同じ黒いスウェットみたいな服を着てご飯粒みたいな白いかたまりをつけて、そのまま美大に行く君を愛していた

おでこや顎のずっと治らないニキビが好きだった

変わってしまう前の、希望と不安が混ざっている君が好きだった

少し弱々しい目も好きだった

それでいて意見をしっかりという時の芯の強い目も好きだった

君のいう通り、僕は君の過去を追っているのかもしれない。それでも

他の人のように、好きなことをすればいいと言わずに、稼げないければ男じゃないと言い切る君が好きだった

好きなことをしている僕を、稼げない、稼ぐ気がないと言い張る君が好きだった


口を開けば性格の悪い君が好きだった

どうしても苦しい時に、歯を食い縛れとだけ言う君が好きだった

都会人のようにとても冷たく見えるのに
誰よりも人を助ける情の深さが好きだった

どこにいても絵になるのに主張のない存在が好きだった

何かをしてくれるわけじゃないところが好きだった

別に優しくもないところが好きだった

生きていてくれることが好きだった

存在してくれることが

何者にもなりそうなところが好きだった

大物になりそうな

それでいて何もうまくいかずに
ずっと入院しいていても好きだった

稲妻というより急な大雨みたいに心を打たれた

その一粒一粒に
たくさん君がいるような気がした

そのうちの一人でも触れることができないかと

大雨は外に出て天を見上げた

そうすると何事もなかったように

急に止む雨のような君が好きだった

そして急に晴れ出すようなところが好きだった

君といくところは全てが錆びて茶色くなる

錆びた手すり

錆びた商店

錆びた遊具

夕陽を受けるカーテン

木漏れ日

この言葉でなにかしたいわけではない

何も起こしたくない

会えない君に近づきたいわけでも

傷を癒してるわけでもない

愛とは君

詩とは君

言葉とは君

平和とは君

地獄とは君

日常とは君

電車とは君

神社とは君

お寺とは君

スマホとは君

充電とは君

電話とは君

声とは君

リュックとは君

眼鏡とはきみ

仏性

君に裏切られて全て失ったと思った時に
それでも残っていたものがあった

それはとてもとても小さくて、細かくて
七色に輝いていてキラキラしていて
万華鏡のように少し動かすと全てが違って
感情で言うと笑顔で
性別で言うと男で
年齢で言うと5歳で
風景で言うと公園で
何かを掴むようにこちらに手を振っている

それは幼い頃の自分の写真

どうして笑顔だったのかなんて思い出す必要はない
その瞬間を楽しんでいたのだから
私はこの子に恥じていないか
当時の自分は今の自分をどう思うだろうか

この子だけは助けてあげよう

ミューズだかなんだか知らないが勝手に好きになっただけの女はお前を助けてくれないぞ

お前が全てを犠牲にして一緒になったとして、急に裏切られたら後悔を、人生の責任をそいつはとってくれないぞ

街灯を歩け

夜中に、一人で

それは孤独ではない

月と遊べ

夜と遊べ

雨と遊べ

住んだ空気と

誰かを愛していると思える心こそ情深く
愛されるにふさわしい


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