記憶の怪物
まだ17時ほど
西陽が眩しい
そんな綺麗な頃に
君は泣きながら終わりにしようと呟いた
僕はいつもと同じく頷いた
口元で終わりにしようと呟いて
目元の涙は眩しく見えた
真顔で怒って見えていた。
気持ちは言わない頑固者
本当にやってみないかい?
どれだけ辛くても、芽が出なくても
本気で。いいえ、本当で
晴れ渡り何に憎んでいたかも思い出せない。
唯一思い出すのは食べたシャーピンと眠る君
全ての記憶は桟橋の上では改ざんされる。
何も遮らない太陽と溺れない青。
それから涙より重く落ちていく夕日
全てを小さくする。君だと思って抱きしめる。
もう一度だけ会えたら
いいやこの景色があればいい
ずっと一緒にいられなくても
この景色を毎日見られればいい
いつかは離れるとわかっていても
やっぱり違ったって納得できるまで
希望と勇気と信念の三束をきつく三つ編みにする。君は夢へと消えていく。
赤いワンピース。襟元は白い
紅白がめでたいことを改めて実感する
冬なのにベンチで食べるハンバーガー
公園の午前10時の時計
寝ぼけた君と口にケチャップ。
汚れたファーの汚れにならない
黒いズボンは白い塊
昨日のせいか鼻水か
細いのに安産型。
憎いラタトゥイユ
いつも風邪の匂いのする君。
慎ましく換気扇になりたい
本当の問題を濁してたくさん話す
僕の時間でもきみを作りたい
どれだけ好きかなんてことを伝えずに
冷蔵庫の張り紙だけのやり取りでいい
他の人にはどんな風に話すかを知りたい
公園のベンチで惣菜を食べながら
きみの恐ろしい日常を聞くんだ
それを平然とした顔で聞きながら
きみの鼻毛が出てるのを見て安心したい
もう二度と通れない路地で
もう二度と見れない今日のきみを見て
どんなに幸せな今日でも
明日には終わりにしそうなきみを見ていたい
どこからそうなったのかを考えたい
こういう気持ちを言葉にしたり
大きかったり細かい絵にしたり
一枚の写真を1000ピースにしたり
過去や未来を迷路にしたり
手間をかけたり工夫をして
こんなに好きなんだって伝えようとしてる時に
右にスワイプしただけの人が
きみに必要だったりする
きみと一緒にいたいんじゃなくて
堂々と会える自分になりたいのかもしれない
そのためのきみ
関係を間違えてたのは僕だったかもしれない
さようなら
さようなら
さようなら
衝動的な運命
これに後悔はしていない
さようなら
顔見せての寂しそうな写真
それだけでもう好きだった
さようなら
文化祭の打ち上げレシートみたいな会話
君を繋ぎ止めておきたかったから
さようなら
wikiりながらの電話
知ってると思われたくて
さようなら
助けてくれたドラコニア
見栄を張ることは一番の幸福だと
教えてくれたのも龍彦さんだった
さようなら
ひこうき雲のプレイリスト
一緒に二人でなりたかったね
さようなら
カタツムリ柄の赤いワンピース
BIGTIMEじゃなくてfrogfrog
さようなら
茶色いレシート
深い時間の経過を表す
さようなら
びっくりしてる黒目
三白眼が好きになったよ
さようなら
意味のないツーカー
幸せだって言いきれた
さようなら
フェルチェアズーラの香り
たまに使ってるクリーニング屋があるみたいでやめてほしかった
さようなら
隣の子供を肩車して
親子に見えた見せ物小屋
初めて家族を実感できた
さようなら
たくさん振り回した氷川神社
全部見せたかったから
さようなら
ユーロスペースの3時間
退屈な時間が幸せだった
さようなら
説明できない関係の
きみが車内でくれたテディベア
生きてみようと思った
さようなら
ピラミッドみたいな雛人形のデパート
それも珍しくなくなって
どんどん派手になっていくね
さようなら
きみが育った大きな図書館
全てを読んで君を知りたい
さようなら
上り坂にある沖縄雑貨屋
今度は手を繋ぎながら
さようなら
縁がないと思ってた駐屯地
君も国も救えない
さようなら
映画の見れる喫茶店の商店街
後悔は美しい
さようなら
レンガ作りの大きな図書館
本のように思ってるよ
さようなら
ガチ中華と言われる前からのガチ中華
大人しくなる君が愛しい
さようなら
暗い赤羽の冷たい埼京線
当時も君が全てだった
さようなら
一晩中歩いて話して
手も繋がなかった私たち
きみは存在するだけで美しい
さようなら
わたしたちが歩いた道は
どうしてあんなに綺麗だったんだろう
君が綺麗だったからだね
さようなら
下向いて話した公衆電話
どの時代でも愛してる
さようなら
電柱に立つ夜の運河の鳥達が
今に羽ばたくと当てた二人
君の未来を占いたかった
さようなら
風の便りで遠回りして
宝物になってしまった私たち
偶然の産物はかけがえのない奇跡
さようなら
手すりの上にタバコを置いて
モスクに見えた私たち
全てが美しく見えたよね
さようなら
2つの自動ドアの間だけした
イチゴミルク味
全てが奇跡に見えたよね
さようなら
誰にも理解されたくない
わたしたちだけが見た景色
それも薄れてくるなんて
さようなら
綺麗なよだれかけ着けた
増上寺のお地蔵さん
わたしを作ってくれてありがとう
さようなら
きみが来てくれた入学式の
後に歩いた海辺の岩場
最後じゃなくて最初にしたかった
さようなら
きみを不調から守る傘の
クリーム色した毛玉の帽子
君を守る全てになりたかった
さようなら
きみと過ごした事実を残す
照らすと茶色い一本の猫毛
それはゴミじゃなくて宝物
さようなら
せめてもの見栄で持ち歩いた
叶わなかった参考書
今ならできる
さようなら
そうだ
本当にさようならだったね
強くしてくれてありがとう
さようなら
さようならだと思っていたわたしたち
後悔はしてないよ
さようなら
繋ぎ止める為のドッグタグ
指で溝をなぞる日々
さようなら
おじいちゃんがやってる婦人科
どこまでも共に
さようなら
庚申塔の向かいの惣菜屋
ありきたりな日常は戻らない
さようなら
見るだけタダなBMW
きみがいれば何も要らない
さようなら
お年寄りばっかりの施設のお祭り
若い二人は祝福を受ける
さようなら
愛してるよ
さようなら
夜中に光った八幡宮
誰と行っても君を思い出す
さようなら
知らない街の綺麗な街灯
僕だけが知らなかった
さようなら
不安にさせた4枚刃
今なら許せる
さようなら
シャーピンの美味しい初詣
熱くて笑顔を見せていたね
さようなら
きみの嫌いだった海老
さようなら
僕が海老をどかしたサラダ
さようなら
そのサラダを食べたきみ
さようなら
大人しく食べた場違いな油そば
さようなら
ボールが行き交うベンチで食べた
壊れた時計とビックマック
さようなら
チワ1 ポメ2
通るたびに数えたきみ
さようなら
椅子に座りたくなる熱帯魚屋
さようなら
きみが遠く見えたペットショップ
さようなら
男だからと鉄道の
話をしてくれた個人商店
さようなら
高いだけで美味しくなかった
踏切近くの白湯ラーメン
さようなら
自分に自信があった夏
さようなら
買い被っていたんだ冬
さようなら
きみよりは美しくなかったppl
さようなら
八幡山の焼肉のタレ
さようなら
眩しいドッグランのある公園
さようなら
ピンクの石膏のあるマンション
さようなら
ほとんど隙間がない家の駐車場
さようなら
住宅街のアヒル
さようなら
無愛想な駄菓子屋
さようなら
洒落てるけど美味しくない餃子と麻婆
さようなら
可愛くて優しい食堂
さようなら
もう行くことはない病院
さようなら
誰も知らない広い公園
さようなら
沢山の缶で作った風車
さようなら
ウィングレットにした発泡の飛行機
さようなら
名前の通りみんなのオアシス
さようなら
小さなお店の名前はマーサ
さようなら
お椀にした手の中で
ぴょんぴょん跳ねたショウリョウバッタ
さようなら
きみとの暮らしを感じられたスーパー
さようなら
お姉ちゃんをよろしくねツメガエル
さようなら
髪を指に絡ませる乾かし方
さようなら
三つ編みを覚えたわたしの手
さようなら
きみがいたから行った街
さようなら
夜中に星を漕いだ自転車
さようなら
何百年も救世軍
さようなら
言葉を大切にしてくれたPHS
さようなら
永遠だったスターマイン
さようなら
孤独と自分を教えてくれた六畳間
さようなら
希望に満ち溢れていたわたし
さようなら
それでも生きなければいけないわたし
さようなら
嫉妬と劣等感に勝てなかった傭兵
さようなら
ノーランに恋をした日曜日
さようなら
無力を痛感した土曜日
さようなら
一人で稼ごうと決めた金曜日
さようなら
人生を見つめ直した木曜日
さようなら
永遠なんてないと知った水曜日
さようなら
愛は繋ぎ止めなければもろく火曜日
さようなら
楽しまなければ楽しめぬ月曜日
さようなら
機会を逃したわたし
さようなら
なんでも叶えてくれた東中野
さようなら
何者でもなかった東中野
さようなら
ビーニーベイビーズ
さようなら
網でもすくえた弱ったマス
さようなら
何も言わずに見てくれた神社
さようなら
嫉妬と羨望に溢れた芸術
さようなら
カレーの匂いの路地裏の
一通の細い踏切
さようなら
それならわたしを助けて欲しかったAED講習
さようなら
小さく虹が出ていた晴れの日
さようなら
きみは自由だと言ってくれた夕陽
さようなら
強くしてくれたピジョンバレー
さようなら
愛してるよ
さようなら
無理だと思っていた理想
さようなら
もう好かれてないと思っていた青年
さようなら
方法が見つからなかった少年
さようなら
ずっと守りたかった少女
さようなら
ずっと一人だった少女
さようなら
まだ愛されていた青年
さようなら
まだ愛している青年
さようなら
僕がいなかったきみ
さようなら
言葉だけで過ごした日々
さようなら
豚の尻尾
さようなら
もう使わない言葉
さようなら
きみだけが使う言葉
さようなら
わたしはもう使わないよ?
さようなら
なんて言ってごめんなさい
さようなら
それでもまたきみが使う言葉
さようなら
それでもあなたが許してくれる言葉
さようなら
それでも許してしまう言葉
さようなら
あなたがいなかったわたし
さようなら
きみがいなかった僕
さようなら
後悔のない言葉
さようなら
小さな声で言う言葉
さようなら
あいしてると同じ5文字
さようなら
ありがとうと同じ5文字
さようなら
きみが好きだった映画評論家が使う言葉
さようなら
さようなら
さようなら
まだ悩んでるの?
一緒にいたらいいじゃない
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?